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そんなやり取りがあった事を思い出しつつ、フィーはアンネッタを近道へと誘う。
無事ヒロインにも、エネオットと取り巻き達にも会わずに、式典会場へ辿り着けた。
「まぁ、本当に近道なのね!
あっという間に到着してしまったわ。
この道を知っているのはわたくしとフィーだけなのね、なんて素敵なの!」
大喜びではしゃぐアンネッタを落ち着かせ、フィーは周りをぐるりと見回す。
ある人物に気付き、アンネッタに話しかけた。
「お嬢様、ミリリカ様と侯爵御夫妻が彼方に」
声に振り返ったアンネッタを、フィーはミリリカ親子の居る場所へ案内する。
彼女はマフルース侯爵家の令嬢で、アンネッタとは幼馴染になる。勿論ミリリカとネルローネも幼馴染で、幼い頃より3人はとても仲良しだったと、フィーも聞かされていた。
ミリリカの方も気付いたようで、アンネッタの方へ近づいてくる。
アンネッタが挨拶をし、それに合わせてフィーも頭を下げるが、ミリリカは何かを探す様に首を巡らせた。
「アンネッタ、御両親はいらっしゃらないの?」
「え? あぁ、後から来るって言ってたわ」
「そうなの?
アンネッタにベッタリの公爵御夫妻なのに珍しいのね。絶対貴方と一緒に来るだろうって思ってたから、意外だわ」
娘であるアンネッタへの、オファーロ公爵夫妻の溺愛ぶりは有名らしい。
まぁ、望まぬ婚約を強いる事になってしまった娘が気になってしまうのは、ある意味仕方ない事だろう。
「そうなの?
わたくしにはわからないけれど…。
フィーがお兄様と一緒の方が良いって言ってたのよ。だからだと思うわ」
ミリリカと侯爵夫妻の視線が、フィーに集中する。
彼等は頷く事でフィーに発言を促す。仕方なく軽く頭を下げたまま、フィーは口を開いた。
「はい。
ケルナー様は未だ御婚約者が決まっておられません。ですので、お一人でいらっしゃるところを見つかれば、アンネッタ様の御入学式典に間に合わない可能性も出てきてしまいます。
それはケルナー様御自身も、非常に耐えがたいとおっしゃっておられました」
そう…攻略対象の一人であるケルナー・オファーロは、ゲーム内の彼と違い、とても優良物件に育っている。
幼い頃、アンネッタを突き飛ばし、フィーに大怪我を負わせた彼は、その後、公爵夫妻の分厚い信頼を得たフィーによって、徹底的に教育された。
その結果、彼はゲーム内の彼とは全くの別人のように育つ。
家族を愛し、貴族としての務めも果たすと言う、至極真っ当な公爵令息へ成長した彼は、御令嬢方に大変人気があるのだ。
そんな彼がもし一人で歩いていたら――言うなれば、肉食獣の前に子兎や子羊を放り込むようなもの…とでも言えば伝わるだろう。
孤児で平民のフィーに、信頼を寄せているとは言え、主家の令息に対しそんな行動を許す公爵夫妻の度量には驚きを隠せないが、当然理由はある。
フィーの実力が、飛び抜けていたからだ。
知識、教養、マナー等々を異例の速さで吸収し、それだけでなく護衛として武具の扱い、戦闘術、果ては魔法に至るまで、ある程度使えるようになっている。
あまりの出来の良さに、メナジア・オファーロ公爵夫人が、フィーの居た孤児院に調査員を差し向けたほどだ。
ただ、残念な事にフィーの過去は不明のままである。
実はフィーには、孤児院で保護される以前の記憶がない。
あの昏睡事件で前世以前の記憶は取り戻す事が出来たのに、何故かフィーとして生まれてから、孤児院で目を覚ますまでの記憶は欠片も戻らなかった。
所持品も着用していた衣服と、何かわからない『文字か記号のようにも見える傷』が刻み込まれた、薄汚れたペンダントだけと言う、何の手掛かりにもならない物だけで、調査は断念せざるを得ないまま今に至る。
しかし、使えるモノは使うという、ある意味柔軟な考えが公爵夫妻にあったおかげで、フィーは孤児院出身の平民でありながら、重用される事となった。
そんなフィーにしっかりと扱かれたケルナーは、当然S組の実力があったのだが、側近となってしまった事で、エネオットの実力に合わせざるを得なくなり、1組に留まる事となった。
ちなみにゲーム内でのケルナーの担当は、所謂『インテリ眼鏡』である。
それに違う事なく、彼は魔法を得意とし、文官兼、魔法護衛側近としてエネオットに仕えている。
勿論、ヒロインが登場となるであろう今、シナリオ強制力の不安はあるが最悪拉致監禁の算段も、フィーは密かに手配済みである。
シナリオ終結時まで身柄を確保し、ヒロイン達に合流させなければ、公爵家の未来が閉ざされる結果にならずに済むだろう…と思っての事だが、この辺りは計画としては流動的で、その場にならなければわからない。
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