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斯くして、一点の曇りもなくセルの助手と言う立場を手に入れたフィーは、週明けから堂々と校舎内に立ち入っている。
そしてそれは、魔法の授業がやっと始まる…と言う事と同義だった。
馬車から降りるアンネッタを補助するフィーも、メイド服ではなく大人しめのワンピースの上に、前日に届けられた学院教員用の紺色の上着を羽織っている。
その為、本日よりは校舎前で見送るのではなく、1年S組前までアンネッタを送り届ける事が可能となった。
普段と変わらずアンネッタの少し後ろに控えて歩くフィーに、アンネッタは擽ったそうに笑う。
「今日からはフィーと一緒に校舎内も歩けるのね。
なんだか不思議な気分だわ」
返答に困る呟きに、思わずフィーから出た言葉が『申し訳ございません』だった。
その言葉にアンネッタは足を止めて振り返り、口元をやや不機嫌そうに歪めたまま、ビシリとフィーに指を突きつける。
「もう!
そうじゃないの!
わたくしは嬉しいのだわ!
だってフィーが居れば安心なんだもの」
頼りにされているのは何よりだが……。
「御言葉、とても嬉しうございます。
ですが……こうして校舎内立ち入りが可能となっても、絶対に安全と言う訳ではございません。
お嬢様御自身も、どうか用心なさってくださいませ」
アンネッタは一瞬ポカンとするが、直ぐに表情を引き締め直した。
「そうね…自分でも気を付ける事を忘れないようにするわ。
でも、フィーが居る安心感って別格なのよ」
「それは……そう言って頂けるのは、とても嬉しく思いますが…」
そこまで言って、何か思い出したように、フィーは一度口を噤む。
「お嬢様……申し訳ございませんが、少々話を変えても宜しゅうございましょうか?」
「何? どうしたの?」
「はい。
今後、校内に居る時は助手と言う立場になりますから、流石に何時ものようにお呼びする事が出来ません。
ですので『オファーロ様』と呼ばせて頂いても宜しいでしょうか?」
コテリと首を傾けていたアンネッタだったが、納得出来る話だったのかコクリと頷いた。
「それはそう…よね。
確かにここでは、わたくしのメイドと言う訳にはいかないもの。
少し寂しい感じがするけど…わかったわ」
「ありがとうございます」
校舎に入って然程進まない間に立ち話になってしまったので、フィーはアンネッタをクラスへと促す。
だが、その時背後から甲高い大声が響いてきた。
「アンネッタ・オファーロ!!
今日と言う今日は逃がさないわよ……。
いい加減にあたしの話を聞きなさいよね!!」
今日はフィーが助手としての初日だった為、アンネッタが気を回して少し早めに出たのが災いした。
周囲にはまだ生徒の姿は殆ど見えず、廊下にはフィーとアンネッタ、そして口撃者……実にわかり易く……ドニカだ。
わかり易くて結構だが、アンネッタの直ぐ近くに教職員の上着を羽織った人物が居るのに、見えていないのだろうか……。
流石にそれは不味いだろう…是非とも眼科へ行く事をお勧めしたい。
……まぁ、眼科なんぞありはしない訳だが……。
それは兎も角、別にアンネッタが足を止める必要はなかったのだが、つい止めてしまったようだ。
フィーも当然足を止めて、アンネッタを背後に守る様にして半歩進み出た所で振り返る。
「ヒッ!!!」
本当に気付いていなかったらしい…。
しかもただの教職員ではなく、フィーだとわかった途端、ドニカは息を呑んで石化した。
彼女はこれ以上ない程に目を見開き、固まっていたかと思ったら、わなわなと震え出す。
まぁ、それはそうだろう。
なにしろドニカは、学院入学式当日と言う初っ端に、フィーが切っ掛けで大恥を掻いた挙句、見事な顔面スライディングを決めた……と、彼女自身は思い込んでいるだろう。
言い掛かりも甚だしいが、自分が空回っただけだとは絶対に認めないに違いない。
更には目の前でエネオットがフィーに投げ飛ばされるのを見た上に、厚化粧のひび割れまで指摘されたのだ。
それで恐怖…ついでに羞恥を感じたとして、誰も責める事等出来はしない。
小刻みに震えていたドニカは、徐々にその震えを大きくし、とうとう白目を剥いてしまった。
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