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着替えは手伝い不要なドレスだったし、何より仮にも男性であるルルに手伝って貰う訳にはいかない。
なのでフィーが自分で着替えたが、髪のセット等は、そう言えばルルがやってくれたのだった…と思い出す。
だが『髪飾り』と言う言葉にケルナーが、片頬を引き攣らせて反応した。
「髪飾り…?
どうしてそんな物……まさか…男からのプレゼントなんじゃ…」
ケルナーの言葉に、オファーロ一家、そして控えていたサリタ達メイドや従者達の視線が、一斉にフィーへと集まる。
よくある日常の一幕なので、特に動じる事もないのだが『推しからの贈り物』と言う事で、つい顔が緩まないように気を付けながら出来るだけ淡々と返事をした。
「はい。
助手として勤める事になるセ……ブ・リッケ先生から頂戴しました」
「「「「「まぁ」」」」」
生暖かい様な…何とも微妙な空気が流れる中、異なる空気を纏った者が2名。
一人はアンネッタ。
少し不満そうに頬を膨らませている。
「フィーに贈り物…。
そんな……フィーはわたくしの嫁ぎ先にも、一緒に来てくれると思ってましたのに…。
わたくしからフィーを奪うなんて……どうしたら良いのでしょう…」
もう一人はケルナー。
両目を真ん丸に見開き、眉尻を吊り上げている。
「うぇ、ぁ…み、認めない…認めないぞ!
だって、フィーは……ぁ、ぁ…そんな……」
そんなアンネッタとケルナーの様子に気付いていないのか、メナジアが好奇心に満ちた目で乗り出し気味に尋ねてきた。
「まぁ!
講師はセブ・リッケと言う名なのね。
リッケ家……確か、隣国の有名な魔法士一族だわ。
そんな方にフィーが…」
『ぐふふ』と言う、淑女にあるまじき音を、扇で隠した口元から発していたが、メナジアはハッとした様に顔を上げる。
「待って…。
困るわよ、それは…だって、フィーがウチから居なくなると…隣国に行ってしまうと言う事になってしまうわ」
何故そう言う結果に導かれたのか、フィーにはさっぱりわからない。
「奥様、何故私が此処に居なくなると言う話になっているのでしょう?」
「え…だって、髪飾りを贈られたのよね?」
「それは…はい。
ですが、ダンスの練習に必要だったからでしょう」
何故かケルナーが『ダンスだと!? フィーが男とダンス!!??』とか騒いでいるが、本気で煩い…。
一応仕える家の令息なので、言葉にはしないが本当に煩い。
「ですので、それ以上の意味はないと思われます」
そう、フィーが勝手に喜んでニヤけそうになっているだけに過ぎない。
セル本人も言っていたが、結局『詫び』で、恐らくルルの『選定ミス』なだけだ。
だからそれ以上の意味なんて、ある訳がない。
「あら…そうなの…?
てっきりそう言う意味だと思っちゃったわ。
だってそれ、今、とても人気のある店の取扱品よ。
それに、多分一点ものだわ」
「え?」
今度こそ、フィーは固まった。
豪華なワンピースと言うか、ドレスは自分で身に着けた。
だが、宝飾品は着替えてから、ルルが髪のセットをしてくれた時につけてくれた為、自分ではよく見ていなかったのだ。
帰りの時も慌てて着替えて収納に入れ込んだし……。
高額なのはわかっていた。
クズ石を使っただけの宝飾品でも、平民にはおいそれと手の出る代物ではないし、パッと見ただけでも使われている石は透明度も高く、安物ではないと気づいていた。
勿論アンネッタやメナジアが身に着けるようなグレードの品ではない。
しかし低位貴族や裕福な商家でも、手が出るかどうか疑わしい代物ではあったから、最初は借り物だと思ったのだ。
しかし、人気店の一点ものとなると、話はまた変わる。
高額どころか、超高額だ。
これは推しがくれたものだからと、ニヤけている場合ではない。
(これは明日にでも早々に返却しないと……。
推しからの贈り物を手放すのはかなり辛いけど、私が持っていて良いものじゃないわ。
それにそんな超高額商品なら、ほんとに現物支給の可能性も……)
トホホと萎れるフィーを余所に、ケルナーが当主とメナジアに押さえつけられていた。
「父上、母上、放してくれ!
私はその魔法講師と決着を!!」
「決着って…貴方、フィーから何とも思われてないって、まだ気付いていないの!!??
いい加減に現実を見なさいってば……あぁ、それにしたって…まさか息子にドМな所があるなんて、知りたくなかったわよ!」
「ぐっ……私はドМじゃないし!!
いや、そうじゃなく!!」
やはり当主は、最後まで影が薄かった。
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