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「借り物?」
「ぇ?…ぁ、はい。
このドレスも宝飾品も、勿論靴もですが……丁度お会いしたルルさんが、ダンスをするなら…と……」
フィーの言葉にセルがスンと真顔になった。
美形が表情を消すと怖いから、出来れば止めて欲しいのだが…と思いつつも、口を開けない。
もしかして何か不味い事でも口走ってしまったのだろうか……とか内心焦っていると、それが雰囲気に漏れ出てしまったのか、セルがハッとした様に苦笑に切り替えた。
「ごめん。
別にフィーがどうって言うんじゃないから安心して。
ただ…ルルがどうしてそんな言い方をしたのか、気になっただけなんだよ」
困ったように微かな笑みを浮かべたまま、セルは眉尻を下げて肩を竦める。
「……えっと……。
…………………………あぁ、もう良い言葉が浮かばないな…。
うん、もうそのまま言うよ。
ドレスも靴も、勿論宝飾品も、僕がフィーにと購入した物だから、返却の必要はないよ」
「……はい…?」
セルが途端に照れたように、横髪を掻き上げる。
「いや、前に訓練場で驚かせたりもしたしね…。
それにフィーは、僕達にとって理想的な助手になってくれそうだから、かな…いや、違う?
ごめん、自分の考えと言うか感情なのに、どうして何か贈りたいって思ったのか、正直に言うとわからないんだ……。
本当にごめん……嫌だったかな?
僕も贈り物なんて、生まれて初めての事だったし……一応ルルに意見を聞いてから、僕が選んできたんだけど」
確かに言っていた。
訓練場に不用意に足を踏み入れてしまったのはフィーの方だったのに、『次、何処かで会えたら、驚かせたお詫びをさせて欲しい』とセルが言っていたのは事実だ…記憶に残っている。
あの時はあまりの顔面偏差値の高さに、つい敵認定の挙句、触らぬ神に祟りなしとばかりにそそくさと立ち去ってしまったのだ。
だが、それは仕方なかったのだと言い訳をさせて欲しい。
どう考えてもこの世界は、あの『流星の贈り物~恋も乙女の大事なお仕事~』の世界に符合しすぎている。
国の名、登場人物の名前……そしてかぼ…ンン…ガヴォッドラーヘン。
その中で攻略対象宛らの容貌を持った人物なんて、警戒して然るべきじゃないか。
とは言え、話はそれ以前だ。
怪我も何もしていなかったし、お詫びなんて、される理由も必要性も、欠片もない。
まさかとは思うが……と、フィーの脳裏に嫌な考えが浮かんだ。
(いえ、それはないと思いたい……けど…。
まさか、こんな使うか使わないかわからないセット一式が、助手としてのお給金だとか言い出すんじゃ……だってお詫びなんてあの時つい出ただけの社交辞令でしょう?
えぇぇぇ…現物支給なんて超困るんだけど…。
今後使える物なら兎も角、置き場もないし、一体どうしろと……)
フィーの心の内に溢れ出る困惑の事等、全く知らないセルは、ほんのり憂いを帯びた表情になって目線を落とした。
「フィーがドレスを着ているのを見て、喜んでくれたのかなって…少し嬉しかったんだけど、何も言わないし……。
もしかしたら好みじゃないのに、義務感で着てくれたのかと思ったりして、実は色々と凹んでたんだ。
その…本当に義務感だったなら、そんな気遣いは不要だよ。
ごめん…女の子が何を喜ぶのかなんて、今まで考えた事もなかったし、この前のお詫びもあったから、気軽に受け取ってくれれば良いな…くらいで……本当にごめん」
顔を俯かせるセルに、途端に沸き起こったのは罪悪感だった。
(うぇええぇぇぇ……マジでお詫びのつもりだったの…?
通りすがりのメイドでしかない私への詫びに、こんな高額商品を、しかも複数??
ズレてる…いや、とんでもなくズレ過ぎでしょう!?)
身に余り過ぎる贈り物だ。
こんな代物を、ホイホイと受け取って良い訳がない。
(と言う事は……これは推しからのプレゼント……。
うはぁぁぁぁぁ!!!!
受け取っちゃダメでしょう!?
推しに負担をかけるなんて、信者にとってあるまじき行いだわ!
フィー…貴方何やってんのよ……。
その上、尊い推しにあんな表情させてしまうなんて……。
もうどうしたら…あぁ……頭が働かない…考えが纏まらないぃぃぃ……)
フィーは自分の思い違いとやらかしに、呆然としてしまった。
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