44 狭間の物語 ◇◇◇ エネオット、覚醒する
―――あれ、俺は何をしてたんだっけ…?
―――そうそう、パラメータ上げ頼まれてたんだった。
―――ったく……そのくらい自分でしろよな…。
―――報酬があるから頑張りますけどねぇ…さ、起動して…。
―――つっかさぁ、なんでこのヒロインがモテんのか、まったくわかんねぇ。
―――こっちのアンネッタちゃんの方が可愛いじゃんか。
―――それともシナリオが良いからやってんのか?
―――ま、シナリオに興味ないし、報酬の為にもうひと頑張りするか。
…………………
…………………………
…………
薄く目を開けば全く知らない部屋に居た。
なんだかぼんやりするし、頭だけでなく、身体も一部でも動かそうとすると、途端に痛みが走る。
自分が布団に寝かされている理由が、そこにある様な気がするが、脳内は靄が掛かったみたいにはっきりしない。
―――布団…だよな。
―――なんかめっちゃ高級そうな手触り……これ絹とかって奴じゃないか?
―――昔ポテチ食った手で、母ちゃんの着物触ってすげぇ怒られたっけ。
―――ウチにそんな高級な布団なんてねぇぞ…。
―――大体大学生の一人暮らしで、そんな高級なもんある訳ねぇ。
―――あ、やべ…パラメータ上げ途中だ…報酬ゲットが遠退いちまう。
そうは思っても、身体は思うように動かない。
あんまりにも自分の思い通りにならないモノだから、抵抗を諦め布団に沈む様に身体の力を抜いた。
目元を覆う様に腕を持ち上げて置くと、そこで初めて気が付く。
―――ゲ……マジか…熱出てんじゃん…。
―――そりゃふわふわぼんやりしちまう訳だ。
―――……参ったなぁ…ゲームは俺に任せた姉ちゃんが悪いで済むけど…。
―――明日って朝イチから講義あったよな…。
―――しゃぁねぇ………あれ…何で出てこないんだ?
―――俺とは腐れ縁で、中学から大学までずっと一緒になった…。
―――熱で頭やられた?
―――待て待て…洒落になんないって…あいつの名前…。
―――いや、あいつの名前以前に、俺の名前ってなんだったっけ…?
―――さ…さく…いや、なんか違う…っと……?
そこまで考えて、彼はガバリと起き上がろうとして失敗する。
再び布団に沈み込むが、痛む頭や身体の事ではなく、別の事に思考の大半を持って行かれた。
そして頭と身体が悲鳴をあげない程度にゆっくりと、室内を見回し、再度布団の感触を確かめる。
記憶の中の『彼女いない歴=年齢』だった冴えない大学生『根岸耕作』としての記憶が、頭の中を駆け巡る。
―――俺……転生した…?
―――なんで……思い出せねぇ…。
―――パラメータ上げして、そんでもってバイトの時間になって…。
―――くっそ、頭痛ぇなぁ……いや、待てって…。
―――ちょい待てって!!
―――俺、転生って思ったんだよな…じゃあ今の俺って…。
耕作は自分の顔に手を伸ばす。
視界に入っていなかった髪を一房摘まんで持ち上げた。
じっと目を凝らしても、見えるのは榛色で、思わず溜息が漏れる。
―――あ~……そうか、俺エネオットになってたんだ…。
―――何でもっと早く思い出さなかったんだよ…。
―――つっか、なんだって選りにも選ってエネオット!?
―――そう、こいつ名前からして絶対『エネミー夫』の捩…。
―――俺はそうだと睨んでたんだよ!
―――……最悪だ……もっと早く思い出してたら……。
―――そしたらお気に入りのアンネッタにあんな酷い事……。
―――あぁ…どうすりゃ良いんだ…。
エネオットは、前世の自分『根岸 耕作』だった時の事を思い出した。
当時、大学とバイトに明け暮れていたが、横暴な姉は自分がやっていたゲームの主人公育成を、暇だろうと決めつけて耕作に押し付けたのだ。
耕作だって学業は当然としてバイトにも忙しくしていたのに、自分は社会人で時間がないからと……姉が忙しそうだったのも本当の事だったので、仕方ないと受け入れた。
まぁ報酬は交渉してなかなか満足のいく物だったし、ゲーム自体やるのは好きだし、何より育成系の作業感は嫌いじゃなかった。
そして耕作は『流星の贈り物~恋も乙女の大事なお仕事~』を起動するに至ったのだ。
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