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とりあえず自分の色覚がおかしいのであれば、話はそこまでだ。しかしおかしくないのなら自分の髪色が、何故他人には違って見えているのか知りたい……そう思ってしまった。
衣食住の不安がなく平穏に生きていけるよう、アンネッタと公爵家の為に奮闘しようとは思ったが、だからと言って失くした記憶に全く興味がない訳ではない。
いや…ないどころか実を言うと不安だった。
自分が浮草の様に、掴みどころのない存在のまま流されてしまいそうな…そんな怯えにも似た感情は、どうしたって心の片隅にはあった。
それは失くした過去を飛び越して、前世以前の記憶の方が戻ってしまった事では、到底払拭する事は出来なかったのだ…。
「………その…私…知りたい…です。
孤児院に拾われる前の自分を……せめて何か一つなりとも知りたい…思い出したい……。
片手間で良いので、もしお力添え頂けるのなら、とても嬉しく思います…」
この細やかな願いが吉と出るか凶と出るかわからない。
もしかすると後々後悔する羽目になるかもしれない。
けれど、フィーは自分の気持ちに蓋をする事が出来なかった。
校舎内へ出入りする事自体は、許可さえ下りれば今からでも出来る。
しかし一部施設への出入りは制限されているらしいので、助手として且つ探し物をし易くする為にも、鍵として作用する魔具の使用申請を出しておこうと言う話になった。
恐らくセキュリティパスみたいなものだろうと思うが、それについてはセル達にお願いするしかない。
だがその前に、カザロの言っていた『テスト』とやらが待ち構えている。
その事を話すと、セルだけでなくシャフとルルもげんなりとした顔になった。
「何の為のテストだよ……セルがОKだしたんだから、それで良いじゃねぇか…」
「僕もそれには同意するよ」
ルルの文句に、セルが肩を竦めながら同意した。
シャフも基本的には同意なのだろうが、そこはやはり年長者なのだろう。
「所謂大人の事情…と言うより、面子の事情…かもしれないですね。此処の教職員の先生方は、体面だとか面子だとかが大層お好きなようですから。
有体に言えば、実力のない者に、自由に歩き回って欲しくないのでしょう」
ルルが舌打ちする。
「あほらし……。
此処の教員なんて、ほぼほぼハリボテじゃんか…。
てめぇらの実力を先に上げろって」
「まぁまぁ、わたし達が熱り立っても仕方ないでしょう。
テストとやらは決定事項のようですし…。
ですが大丈夫ですか?」
そう言ってシャフが、心配そうにフィーを見遣った。
フィーはコクリと頷く。
「はい、座学と魔法、武技は恐らく問題ございません」
セルがフィーの言葉を受けて、少し考え込む。
「……限定して言ったという事は、何か不安な部分があるのかな?」
無意識ではあるが、少し不安に思っていたのかもしれない。
言葉尻か何かに現れてしまっていたようだ。
「……その…ダンスは苦手です…」
フィーを見つめたまま、3人が固まった。
テストを受けて欲しいとは言われたが、テスト内容については言及されていない。だからとりあえず一番苦手なものを挙げたのだが…。
「ダンスは……と言う事はそれ以外は問題ないという事?」
「へ? ダンスって…フィーは孤児院とか言ってたから、てっきり平民なんだと思ってたけど……違うんだ?」
「メイドにダンスは勿論、その他の教育もしているという事ですか?
それは……この国の貴族に対して認識を改めなければならないかもしれませんね…ふむ」
よくもまぁ、セル、ルル、最後にシャフと…三者三様に引っ掛かる部分が異なるものだと感心してしまう。
とりあえず答えていくべきだろう。
「他はある程度時間を取って頂けたのですが、ダンスだけは後回しになっておりました」
「平民でございます」
「主である公爵様、奥様、そしてお嬢様には、本当に良くして頂いております」
何だろう……3人が生暖かい表情をしているように感じるのだが……。
理由がわからず尋ねようとするが、それより先にセルが口を開いた。
「助手のテストでダンスの項目があるのかどうかはわからないけれど、もしあったら困るのは確かだね……。
じゃあ僕がダンスを教えるよ。
何にしたって、出来ないよりは出来た方が良いと思うしね」
セルはそこで一度言葉を区切る。
「テストについては僕の方から学院長に確認しておくよ。
何についてのテストなのか予めわかっていれば、それに対処すれば良いだけになる。あぁ、勿論テスト項目になくても、ダンスは教えるから安心してくれて良いよ」
テスト項目に含まれないのなら、是非とも遠慮したいとフィーは内心で独り言ちた。
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