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一瞬、ゲームの事はさておき、それ以外については正直に話すか…と脳裏を過る。
しかし話したところで一体誰が信じると言うのか……。
勿論フィーは自分が今生きているこの世界の事を、全て知っている訳ではない。それどころかほんの一端しか知らないのだ。
だから転移も転生も、実はこの世界では普通の事かもしれない可能性はある。
とは言え現時点では知らないのだから、下手に口にするのは危険だと判断した。
………だが、どう誤魔化せば良い?
必死にそれらしい言い訳を探すが、そうすんなりと浮かぶはずもなく……。
「ぇ、ぁ……その、な、何となく…?」
少年は半眼になって、見透かすような目つきでフィーに微笑み掛ける。
「へぇ、何となく……ねぇ」
「……………」
降参だ。
しかし全てをありのまま話す必要はないと気付く。
そう、狼狽える必要なんてない。
フィーはこれ見よがしに溜息を吐いてから顔を上げ、淡々と話しだす。
「実は私には幼い頃の記憶がありません。
気付いた時には孤児院に居りました。
暫くして孤児院の大人達に聞いた所、酷い熱を出して孤児院の傍に倒れていたそうです。
熱のせいで意識を失う前に、辛うじて呟いたのが『フィ』と言う音。
一命をとりとめ、目覚めた時には、私は既に記憶を失くしていました。
その為、最後に呟いた音がそのまま名となった次第です」
そこまで一気に話し、今一度小さく深呼吸をしてから再び口を開いた。
「ですので、もしかすると記憶を失う前に、何処かで聞いた言葉なのかもしれません」
聞かされた少年の方は、さっきまでの表情が抜け落ち、バツが悪そうに視線を泳がせている。
「もしお疑いでしたら、孤児院の方に問い合わせて頂いて構いません。
勿論オファーロ公爵家にお尋ねくださっても問題ございません」
嘘は言っていない。
記憶がないのは事実で、実の所フィーと言うのが名前かどうかも不明だ。
まぁ孤児院では区別出来れば良いだけの事で、呼び名に意味等ない。
幼い頃を飛び越して、前世以前の記憶の方が戻ってしまった事には困惑するが、考えた所で答えは出ない事象だ。
無駄な事に労力を割いても仕方ない。
「……その…ごめん…。
悪かった…」
少年は素直に謝った。これにはフィーの方が吃驚してしまう。
「いえ、さっき無意識に呟いてしまった言葉が、講師先生の探すモノに関係があるのですか?」
罪悪感を感じてくれているなら好都合。
尋ねればうっかり口を滑らせてくれるかもしれない。
だが返って来た反応は想定外のモノだった。
少年はふわりと笑い、困ったように眉尻を下げている。
「抜け目ないなぁ。
でもまぁ良いよ。気に入った。
あぁ、それと…」
いや、気に入られても困る。
敵認定しているのに、うっかり推しモードのスイッチが入りかねない。
「講師先生って……この前会った時に言ったと思うのだけど」
「はい?」
「呼び名」
確かに聞いた。
忘れた訳ではないが、あの時彼は『セル』と呼ぶように言っていた。
しかしカザロからの紹介では『セブ・リッケ』……被っているのは『セ』だけである。
それをそのままぶつければ、彼は苦笑して説明し始めた。
「どっちも嘘じゃないんだよ。
まぁセルの方は愛称とか別名くらいに思っててくれれば良いかな」
「……結局、どうお呼びすれば良いでしょう?」
彼は鮮やかに微笑む。
「セルで。
どうしてだろうね…君には『セブ』ではなく『セル』って呼んで欲しいって思ってしまうんだ」
フィーは慌てて頭を下げて、礼の姿勢を取って誤魔化した。
(あっぶな……あわや推しモード発動し掛けてしまったわ。
危険危険…まだ敵認定のままなんだから、油断は禁物よ、フィー…)
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
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