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(目線が……)
さっきもそうだが、以前『セル』と名乗った少年に向き直ったカザロの、目線の高さがおかしいのだ。
フィーから見ると少年の方が若干低く見えるのに、カザロの目線は上に向けられている。
その位置に見えるモノは何もない……少なくともフィーには視認出来ない。
多くの場合、人は相手の顔を見て話す。
と言う事はカザロの目には、少年の顔の位置が高く見えていると考えるべきだろう。
咄嗟にカザロに向かって口を開き掛ける。
しかし学院長と向かい合う少年は、フィーを流し見つつ悪戯っぽく唇の前に指を立てた。
その仕草に、フィーはつい言葉を飲み込んでしまう。
(どう言う事……?
学院長は誰を見て、誰と話している?
今もセル……いえ、学院長は『セブ・リッケ講師』と私に紹介した。
彼は何者なの?
どうすれば良い…?
こうして接触してしまった以上、探った方がマシ? それともやっぱり回避一択?)
正直に言ってしまうと想定外過ぎて、フィーも咄嗟に判断が出来ない。
脳が凍り付いてしまったかの様に、思考が空回りしている……そんな感じなのだ。
そうやって悩んでいるうちに、気付けばカザロの姿が消えていた。
「ぁ…」
慌ててフィーもカザロの後を追おうと身を翻す。
しかし少年の声が、フィーの足を止めた。
「とりあえず部屋に入ってくれる?」
退路を断たれてしまった気分だ。
渋々室内に入ると、扉がしっかりと閉められる。魔力の流れを感じるから魔法で閉めたのだろう。
「これで大丈夫かな。
フィーさん、君にはどう見えている?
そう……例えば髪色は何色に見えているんだろう?」
フィーは警戒を隠そうともせず、険しい表情で振り返る。
相手は落ち着き払っていて、微笑みを浮かべるくらいには余裕の態度だ。
まだ上手く回転しないままの思考は、断片的でちゃんとした形にならない。
とは言え、少なくともこの場から立ち去る選択をしても、何も好転しない事も確かだ。
フィーはガクリと肩を落とし、細く息を吐いた。
「……銀色に見えています」
相手は微笑みながらも肩を竦めた。
「以前も目線がしっかりと交差していたからね。
もしかして…と思っていたけど。
君には効果がないみたいだ」
「それはどういう……」
条件反射的に問いかけてしまい、フィーは『しまった』と後悔する様に苦い表情で、ギリッと歯を噛み締める。
落ち着く為に、フィーは一度深呼吸をした。
(フィー…落ち着いて…落ち着くのよ。
彼が自分の姿を偽っている理由は何? そして正体は?
順当に考えるなら盗賊とか……。
そう、普通の人は自分以外を装ったりしないわ……まぁ、何一つとして確証はないのだけど…)
考えたくはないが犯罪絡みの可能性が、どうしたって出てきてしまう。
もしその想定に間違いがない場合、公爵家にも悪い影響が及ぶ場合もあるだろう。
そんな危険を冒すのは、使用人としてあってはならない事だ。
そう考える一方で、得体の知れない者をアンネッタに近付ける訳にはいかないとも考える。
彼は仮にも『講師』として入り込んでいるのだから、これからアンネッタを始めとした学生達と関わって行く事になる筈だ。
そうなった時、助手として近くに控えていれば、アンネッタの安全確保がしやすくなるかもしれない。
相反する考えが、ぐるぐると回って纏まらない
沈黙したまま動かないフィーを、セルだかセブだか知らない少年がじっと見つめる。そして徐に芝居掛かった仕草でわざとらしく悩んで見せた。
「……そうだね…答えても良いけど、聞くのであれば協力はして貰いたい……かな。
どう?」
唐突に協力と言われても、内容がわからなければ頷く事も、反対に拒否する事も難しい。
とは言え、内心では天秤が傾いていくのを感じていた。
頭では分かっている。
間違いなく『好奇心は猫をも殺す』な案件だ。
だが……逃げを打つのも、首を突っ込むのも、何方も危険が伴うと言うのなら、知らないままで居るより首を突っ込んでしまった方がマシな気がする。
「叶うなら聞いてから判断したいのですが……。
それが駄目だと言うのであれば、せめて条件を明確にして頂けますか?
私に何を協力しろと?」
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
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