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「ほえ?
モスリン女史……彼女はいったい?」
とても小柄で可愛らしい印象のカザロは、説明を求める様にモスリンの方を見上げる。
目線の高さがフィーとあまり差がないくらいで、細身ですらりとしたモスリンの事は見上げざるを得ないのだ。
「名前はフィーですわ。
カザロ君も聞いた事があるでしょう?
オファーロ家の有能メイドの事」
モスリンが言葉を区切って、視線をフィーに寄越す。
それに同調する様に、カザロの視線も戻って来た。
「ほっほう。
ふむぅ…確かに聞いた事はありましたが、こんな幼い少女だとは思ってなかったですな」
「年齢が問題ですか?
まぁ少々幼いのは否定出来ませんが、このくらいの年齢の使用人は、学院にも居るじゃないですか。
それでですが、新任講師の助手を探して居たでしょう?
彼女を推薦したいと思ったんです。
今は書庫で写本を手伝って貰っているのですけど、見る限り、噂は嘘ではないと感じてますわ。
如何でしょう? 講師の方に話を持って行っては頂けません?」
カザロは『ふむぅ』と唸って、白くもっさりとした顎髭を撫でた。
「フィーさん…でしたかな?
モスリン女史は押しが強い所がありましてねぇ…強引に引っ張って来られた等はありませんか?」
カザロからの問いかけに、フィーはハッと顔を上げる。
「いえ、あの……まだ何も……。
旦那様や奥様からの許可も頂いて居りませんので、その…」
そう、フィーが働き仕えているのは、あくまで学院ではなく公爵家だ。
確かに校舎内に出入り出来ると言うのは魅力的だが、だからと言って筋を通さなくて良い理由にはならない。
「そんな事を気にしていたの?
大丈夫よ。
カザロ君が、ちゃぁんと公爵様達に話を通してくれるでしょうから、何も心配はいらないわ」
にこにこと穏やかに微笑むモスリンに、カザロは困ったように眦を下げた。
「いやいや、それはオファーロ公爵家の許可が先でしょう…」
首を横に振りながらガザロが言うと、モスリンは態々斜に構えて、カザロをじっとりと見下ろす。
「じゃあ単純に、彼女の校舎内への立ち入り許可を出してくださいます?
出入りの許可を出して貰えるなら、講師の助手なんて回りくどい方法をとらなくても良くなりますのよ」
「う……」
カザロが苦り切った表情でむぅと唸った。
「いや、警備の問題もある事ですしね?
何より学生達への影響も……うぅ」
「『学生達への影響』って…既に1年S組は被害を被っているようですのに?
警備の事も含め、諸々考えた上で例外を出したくないのはわかります。無秩序にお付きの者が校舎内に出入りすれば、部外者まで出入り可能な隙を作ってしまいかねませんものね。
特に今は王族の方々も在校していらっしゃいますし……ですから講師の助手として、と申し上げておりますの」
カザロは腕組みをして難しい表情のまま考え込んでいる。
暫く沈黙が続くが、カザロの溜息が響いた。
「はぁ、わかりました。
確かに1年の事は問題になっていますからねぇ…『講師の助手として』と言うのは無難かもしれないですね。
ただ、講師がフィーさんを気に入ってくれたら…で構いませんが、他の教職員達への手前、テストを受けて頂けますか? そのテストに合格したなら……と言う事で如何でしょう?
公爵家への口添えも、合格した場合に必要でしたら私が行いましょう」
モスリンとカザロに見つめられ、フィーは大急ぎで思考を回転させる。
(悪く…ない。
旦那様も奥様も、お嬢様の身の安全の為なら、私が講師助手になったとしてもダメとは言わないと思うわ。
別に公爵家の職を辞する訳ではないのだし…。
更に学院長先生の口添えまで貰えるなら、何の問題もなさそう)
フィーは顔を上げて顎を引き、ゆっくりと深く頭を下げた。
「どうぞお願い致します」
そのまま新任講師の部屋へ向かう事になったが、モスリンは書庫での仕事がまだ残っているので戻って行った。
それを見送ると、フィーはカザロの後ろについて歩く。
教職員や講師の部屋は、カザロの執務室と同じこの建物内にあるそうで、廊下を進んだ先の階段を上がって2階に向かった。
ちなみに教職員と講師の違いは前世とあまり変わらない。
教職員は学院に正規雇用されている者、講師は非正規雇用者が該当する。
と言ってもこの学院の場合、講師は学院側が是非にと招くパターンが殆どで、講師の方が往々にして実力者である事が少なくないそうだ。
面倒な話だが、教職員と講師の間にも、ちょっとした確執はあると思っていた方が良いかもしれない。
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