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「それなら私が役に立てるかもしれないわ」
抱えていた本を机に置き、一番上にあった本の頁を上品な所作で捲るモスリンは続ける。
「もしかしたらフィーちゃんも気が付いているかもしれないけれど…。
まだ魔法の授業が一度も行われていないでしょう?
実はそれには理由があって……新任の魔法講師が助手を探しているの。だけど、なかなか見つからなくて……フィーちゃん、貴方……実は得意でしょう?
魔法」
にっこりと柔和な微笑みを浮かべるモスリンだが、否と言わせない圧を放っている。
だが、変にそれがバレるのも面倒なのだ。
学院に集っているのは、子供も大人もその殆どが貴族である。
彼等の多くはプライドの塊で、ある意味貴族特権な面のある魔法に於いて、もし平民であるフィーを上回る事が出来ないと知れば、どんな嫌がらせが待っているかわからない。
いや、少々の嫌がらせ程度は問題ない。
しかしアンネッタの護衛他に影響が出てしまう可能性がないと、言い切る事も難しい。
フィーは給与の支給先を守り、自身の生活が脅かされる事がないようにと、アンネッタと公爵家に誠心誠意仕える事を決意した。
なのにアンネッタの護衛に支障が出てしまっては、本末転倒なのだ。
だがそんな考えもお見通しなのか、モスリンは穏やかに微笑む。
「助手だもの。
魔法の技量・力量より、講師との相性の方が問題なのよ。
だからフィーちゃんの考えている事もわかるけれど、あくまで講師の手伝い程度だと思うし、杞憂に終わるんじゃないかしら?」
モスリンは、フィーの手にあったペンを静かに抜き取る。
「じゃ、そう言う事だから。
早速カザロの所へ行きましょう」
茶目っ気たっぷりに笑うモスリンが、状況把握が追い付かず呆けているフィーの腕を引っ張って立たせる。
ホクホク顔のモスリンと、彼女にズルズルと引っ張られていくフィーを、スミナは笑顔で見送った。
書庫もこれから向かうカザロ……学院長の執務室も校舎とは別棟にあるので、フィーも問題なく立ち入る事が出来るのだが、立ち入りが可能と言うだけで、普通は……特に学院長執務室になんぞ一介のメイドが近付く事等ない。
実際、学院長を垣間見た事さえないのだ。
学院長であるカザロ・タブスア自身も、タブスア公爵家の前当主で、所謂高貴な方々と言う存在なせいか、執務室のあるフロアの廊下は、とても豪奢だ。
来訪客も高貴な方々ばかりだろうから、こんな物なのだろう。
ただ前世以前の記憶があるせいで、学校ってもっと没個性な効率重視って感じで武骨だったんだけどなぁ……なんて感想が、フィーの脳裏に過ってしまうだけの事だ。
そんな煌びやかな廊下をずんずん進み、モスリンはとある扉前で足を止めるとノックをした。
中からの反応はフィーには聞こえなかったが、モスリンには聞こえたのだろうか……躊躇なく扉を開けると、フィーを引き摺ったまま中へ入る。
部屋はかなり広かった。
来客用だろうと思われる大きなテーブルとソファのセットの奥に、これまた一目で高価だと分かる重厚な執務机があり、その上に白い何かが乗っかっている。
部屋に入った所でフィーの腕を解放したモスリンは、その執務机の方に近付いて行った。
そしてその白い何かを思い切り引っ叩いた。
「またそんな所で。
起きなさい!
カ~ザ~ロ~く~~~ん!!」
白い何かは学院長だったようだ。
彼は机に突っ伏して惰眠を貪っていたらしい。
机に広がった豊かな白髪を整えながら顔を上げると、見事に頭頂部分だけはつんつるてんな老人だとわかる。
「痛いじゃないですか…」
机に落ちていたモノクルを装着し直し、よっこいせと掛け声を掛けながら椅子から立ち上がった。
そして扉の前に立つフィーをじっと見て、コテリと首を傾がせた。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
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