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フィーはあれから、学院で働く職員の人達と接触を図っていた。
洗い場や厨房の雑務に携わる人、他にはシェフ達とも抜かりなく距離を縮めているが、ナホミが出入りしていた場所だった事もあり、其方は慎重に進めていた。
そんな中で一番仲が良くなったのは書庫の管理人や事務員達だった。
特に書庫の面々とは良い関係を築けていると思う。
それというのも、書庫ではフィーが重宝されているからだ。
基本的に学院書庫の本類は、手写しが行われる。所謂写本だ。
印刷技術がない訳ではないらしいが、少なくともこの学院、国では未だに手書きが主流。
その為、学院が新しく購入した貴重な本は、まず書庫の人間によって写本される事になるのだ。
「あら、フィーちゃん。
今日も来てくれたの?」
フィーに声を掛けてきたのは、書庫の主であるモスリン・コーブ女史。
学院長を務めるカザロ・タブスア前公爵の友人でもある。
「失礼します。
はい、学院内に居る間は昼食時以外、控室で待機しているだけなのが基本ですから。
では早速……担当分まだ写し終わっておりませんので、続きをしますね」
「毎日ありがとう。
だけど無理はしないで頂戴。
あぁ、後で美味しいお菓子があるからお茶の時間も取りましょうね」
モスリンに会釈をして奥へ向かうと、机に向かっている女性が顔を上げた。
「いらっしゃい、待ってたわ~」
彼女はスミナ・メゴーと言う名で、書庫の雑務に携わる女性である。
噂話が大好きらしく、書庫で書き物をしながら喋っているだけで、それなりに情報を集める事が可能だ。
信憑性は問わない…と言う注釈付きであるのは勿論だが、どうせお喋りするなら屋外より屋内の方が快適でありがたい。
教職員が個人的に購入する本以外は、大抵最初に此処へ持ち込まれる。
フィーが担当しているのは、今は御伽噺の中にだけ存在する魔法皇王国の調査考察をしたものだ。
スミナの隣に腰を下ろし、続きを写す為に本の頁を開く。
作業をし始めると、同じ手写しの作業をしているスミナが早速話しかけてきた。
「ねぇねぇ聞いた?」
「何をでしょう?」
「新しい魔法講師の話」
「いいえ」
そう言えば…と、フィーは思い当たる事があった。
入学式典から少し経つのに、未だに魔法の授業が組まれてなかった事を思い出す。
担当教員を新たに迎える為だったのなら、納得出来る話だ。
「それがかなり年若い男性らしいんだけど、見た目がすっごぉ~く残念らしいわ」
「そうなんですか」
魔法力に見た目は関係ない。
なので魔法担当教員の見た目に興味はないのだが、反応しなければスミナも作業の方に集中してしまうだろう。
いや、本来は作業に集中して貰った方が良いのだが、フィーは此処にスミナの噂話を聞きに来ているようなもので、作業は二の次だ。
写し間違い等をしなければ作業そのものはゆっくりでも、モスリンは苦言を呈したりしない。
何と言う良環境だろう。
「中身がしっかりした方なら問題ないのではないですか?
反対に女子生徒に騒がれずに授業が進められて、良いようにも思いますが」
「あ~、それはそうかも!
でも折角だし目の保養くらいしたくない?
家に帰っても……旦那はガマガエルかって突っ込みたくなる容姿だしねぇ…って、あたしも旦那の事揶揄ってらんないけど」
「そんな事ないでしょう。
スミナさんはとても若々しくていらっしゃいますし、何より笑顔が素敵だと思いますが、旦那様がおっしゃった事はございませんか」
言われた事があったのか、スミナは途端に顔を真っ赤にした。
思わず浮かんだフィーの微笑みに、スミナは誤魔化す様に話だした。
「あ~もう!
照れちゃうじゃない! って、まぁ良いんだけど……そうそう、目の保養で思い出した。
王子殿下ったらま~た女子生徒侍らせてるらしいわよ。
この前学院長から注意を受けたって言う噂なのに、懲りないわねぇ。
なんでも…とうとう新入生の子にまで手を出したとか」
フィーは一瞬顔を上げそうになるが、何とか堪えて作業を続ける。
「何と言えば良いのか困ってしまいますが……その、華やか…? でいらっしゃいますね…」
「言葉を選ぶ必要なんてないわよ。
どうせこの場に居るのはあたし達だけなんだし?
すっぱりきっぱり、はしたない!! だわよ」
まだ確証はないが、ドニカとの邂逅に至ったのかもしれない。
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