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鋭く尖った氷塊の先端がフィーに襲い掛かるかに見えたその時、ひらりと身を捩って躱す。
制御を失ったのか、氷塊が勢いをなくし重力に引かれるまま地面へ落ちた。
そして金属質な音を立てて粉々に砕け散る。
「大丈夫!?」
恐らく氷魔法を発動させていた当人だろう。
焦りや不安が綯い交ぜになった声が響き渡った。
聞き覚えのない声に、一瞬顔を凝視しようとしてしまうが、此処王立学院だ。
フィーより身分の下になる者は居ない。
いや、公爵家の使用人で、王宮への出入りも許可されている以上、自身は平民であってもある程度は忖度して貰える。
しかし、それはあくまで公爵家や王家に対してのもの…決してフィー自身の力ではない。
なのでフィーはまず、真っ先に深く頭を下げて謝罪する。
「申し訳ございません。
許可も得ず、また断りもなく不用意に足を踏み入れたのは私の方でございます。
本当に申し訳ございません」
深々と頭を下げたままの姿勢で、相手の言葉を待つが沈黙が続く。
いつまでこの姿勢を維持すれば良いのだろう……。
「此方こそ申し訳ない……えっと、あの……頭を上げてください」
フィーの行動や言動に戸惑って、言葉が出なかったのかもしれない。
相手の言葉に従い、恐る恐る頭を上げた。
「ッ……その瞳……ぁ…いや、その前に怪我はないですか?。
誰も来ないだろうと油断して、扉も開け放したままだったから…。本当に申し訳ないです」
瞬間、相手も驚いたように目を見開いた。
瞳が気になったようだが…。
確かにフィーの瞳は琥珀色で、ボーカイネン王国では髪の撫子色と共に珍しい色味だ。しかし一瞬固まった彼の瞳も琥珀色なのに、何をそんなに驚く事があるのだろう?
さっぱりわからないが、そんな事に気を取られたのは一瞬の事で、フィーは別の事に気を取られて固まってしまう。
(誰……。
え? ほんと、誰よ…。
この顔面でモブなんて事ありえ……ないわよ…ね?
もしかして転生時の衝撃で記憶が飛んだとか、それならありえるかもしれないわ)
フィーが混乱するのも無理はない。
この世界のベースとなっている世界観は、育成系とは言え、其処はやはり乙女ゲーム。
顔面偏差値が高い男性キャラは攻略対象で、モブである事はまずない。
主要キャラである王や王妃でさえ、結構適当に描かれていて、モブに至っては鼻が描かれていれば良い方だった。酷い話だが大抵はのっぺらぼうだったのだ。
にも拘らず、今フィーの目の前にいる男性……いや、フィーよりは少し年上くらいの年齢の様に見える為、少年と言った方が正しいだろう。そんな彼だが、はっきり言ってゲーム内の攻略対象達より美形だ。
攻略対象の中では、やはり王道の王子様――エネオットが一番のイケメンに描かれていたが、目の前の彼と並べば、エネオットでもさえも霞んでしまう…かもしれない。
なにしろ艶々さらさらの銀髪はすっきりと切り整えられていて、フィーと同じ琥珀色の目は冷たすぎず甘すぎず、全てのパーツが絶妙なバランスで配されていてとても麗しい。
最早形容が追い付かない美貌と言えば良いだろうか……。
まぁ、美形もイケメンも、結局は好みの問題なので、100%の賛同を得られる事はないだろうが、ぶっちゃけフィー…芙美子の好みドストライクの顔だった。
しかも声まで芙美子好みの、凛とした涼やかさを持っている。
(ふわぁぁぁ……なんて麗しいの…。
このキャラがゲーム内に居たなら、推しキャラになってたわ、絶対!)
内心そんな事を考えて固まっているとは知らない少年の方は、微動だにしなくなったフィーを本気で心配する。
肩に手を置いて軽く揺さぶった。
「君、大丈夫!?
やっぱり何処かに怪我をしたんじゃ…」
彼の声にやっと意識が戻り、フィーは慌ててブンブンと首を振った。
「だ、だ、大丈夫……です。
申し訳ございません」
少し落ち着きを取り戻し、挙動不審を再度謝ると、フィーは声にならない呟きを再び漏らす。
(あのゲームの何処に隠れてたのかしら……あぁ、もしかしてフラグを立て損なってたのかもしれない。
それはさておき……出入り口は穴だけで、扉はないと思っていたのに……)
フィーは視線だけ動かして、入ってきた穴を確認する。
大きく開かれていて見えなかっただけで、扉そのものは確かに存在していた。
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