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そこでフィーとニミーの動きが止まる。
何故かと言うと、近付いてくる声があったからだ。
他の生徒とは、確保場所が被らないようにと配慮したつもりだったが、この場所を使っている者が居たと言う事だろうか…。
フィーとしても面倒を起こすつもりはないので、ずっとこの場所を使っている誰かが居るのなら、爵位に関係なく引き下がるつもりである。
勿論舐められるのは問題だが、穏便に事を進めるのは間違っていないだろう。
反対に相手の方が忖度して引き下がってくれる事もあるだろうが、どちらにせよ揉めなければそれで良い。
要はアンネッタや公爵家に、悪評が立たなければそれで良いのだ。
なので初手は様子見からだ。
フィーは声がする方向の生垣に近付き、そっと身を潜ませながら顔を覗かせる。
生垣の向こうの通路に、男女2人の姿が垣間見えた。
(あちゃぁ……まさかこの周辺って、逢引の場だったりした?
だから人が寄り付かなかったのかなぁ。
これは不味いかもしれ…)
そこでフィーの思考はフリーズした。
男性の方は学生には見えない。
明るめの紺色のマントにサーコート。下にはチェーンメイルでも着用しているように見える。
腰には直剣を佩いているが、装飾はかなり華美で儀礼用なのかもしれない。
確か学院内で武器の携帯を許されているのは警備兵だけの筈。となると見せかけだけの木剣かもしれない。何にせよ誰かの護衛騎士だろう。
(護衛騎士なら持ち場で大人しくしてろよ)
フィーは内心で毒づくが、そこで気が付いた。
まだ顔立ちからは年若い印象を受ける。
垂れ目なので、余計に幼く見えると言って良いかもしれない。更に短くツンツンに切り整えられた朱色の髪……。
(……マジか…。
あれ、まさかと思うけど、攻略対象のぶっ飛び大型犬では……)
『ぶっ飛び大型犬』とは酷い形容だが、ゲーム内では正しくそうだったのだ。
彼の名はチェポン・カバレタ。
カバレタ伯爵家の長男で、学院在学中から騎士としての道を志し、ゲーム当時はエネオット王子の護衛をしていた筈だ。
主人であるエネオットとヒロインに対しては全力イエスマンで、ゲーム内でも『褒められるとブンブン振る尻尾が見えそう』と言われていた。
そんな彼が、今生垣の向こうで女性と向かい合っている。
女性の方はチェポンの影になっていて、しっかりと確認出来ないが、彼が居ると言う事はエネオットも登校していると言う事だ。
ここが逢引の場であるなら、当然アンネッタ達の昼食の場として相応しくないので、新たに場所の選定をしなければならないが、それと同じくらいに攻略対象達の動向が気になる。
早々に教室に迎えに行くべきか…それとも他の生徒達の移動が終わってからにするべきか……。
フィーが生垣の手前で唸り始めると、ニミーが近付いてきた。
「どうしたの?」
「ぁ……ぃぇ、その…すみません」
悩んでしまうが、移動するなら早く行動に移すべきだ。
『実は…』と前置きして、生垣の向こうへ促す様に視線を向ける。
「もしかしてこの近辺は……その…逢引の場となっているのでしょうか…」
小声で訊ねたフィーに、ニミーの方が目を丸くした。
「ええ…そんな話、聞いてなかったけど……」
どうやらニミーは別の家の使用人から、この場所が空く事を聞いていたらしい。
その家の令息だか令嬢だかが卒業するので空くから、昼食場所がまだ決まっていないのなら使うと良いと助言を貰っていたのだと言う。
だったら彼方の方がお邪魔虫な訳だが……。
「でも…困ったわね。
あんなのが居たんじゃ、お嬢様達をお連れする訳には…」
そう言ってニミーが生垣の向こうを覗き込んだ途端、大きな声で『えええええええ!!!!』と叫んだ。
その後にはガサガサバタバタと慌ただしく音が続き……そして静寂が訪れる。
一瞬の事で止める暇もなかったが、一体何を見てそんなに驚愕したのだろう。
半分は興味本位だったが訊ねてみると……。
「ちょっと、学院の風紀はどうなってるのよ!?
相手、学院生じゃない!!
しかも赤いリボン!!」
詳しく話を聞く事にする。
(なんてこったい……。
茶色の癖の強い髪の1年生。
勿論、私は女性の方を確認出来ていないし、断言は出来ないけど……攻略対象と会ってたと言うなら…まぁ順当にヒロインよね……。
つっか、早くない!?
昨日の今日で、しかも出会いイベントは潰した筈なのに、何だってもう攻略対象と会ってんのよ!!??)
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
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