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明日から早速始まるアンネッタの学生生活に配慮して、その日の夕食は普段より早い時間に始まった。
終わるのも早いだけでなく、いつもなら公爵は執務室に、夫人とアンネッタ、そしてケルナーは談話室に移動するのだが、その日はそのまま全員が、私室なり寝室なりに引っ込んだ。
フィーもアンネッタのお世話を終えて、これまでになく早い時間に夕食をとっていると、イメネアがやってきた。
「お疲れ様」
「イメネアもお疲れ様」
イメネアの方が大抵フィーより早めに仕事を終えて、食事をとっているのに珍しい。
「今日は遅かったのね。
と言っても普段よりずっと早い時間だけど」
「そうなのよ。
明日は若様、旦那様に同行するみたいなのよね。
だからその準備」
「あぁ、なるほど……って……。
じゃあ明日は若様は学院に行かないって事?」
「そうなるわね」
食事しながらお喋りとか、マナー違反かもしれないが、ここは使用人専用の食堂だ。目くじらを立てる者は居ない。
だが、それよりも…だ。
(なんて事…。
つまり明日は王子とその取り巻きの、ストッパーが居ないって事…だわ…)
エネオット自身、アンネッタを避けている節があるので、それほど心配する必要はないかもしれない。しかし、ゲーム内では何かとすれ違ったりして、全く接点がないようには描かれていなかった。
そしてその度に婚約者であるエネオットとヒロインの距離が、ゆっくりと…だが確実に縮んでいくのを、悪役令嬢は見せつけられる事になる。
政略結婚だとしても腹に据えかねるものがあるだろう。
いや、政略だからこそ、許し難い暴挙とも言える。
(ほんと…ゲーム内のお嬢様はよく耐えてたわよね…って、そうじゃない。
今は明日の事を考えないと)
ささっと食事を終え、イメネアに挨拶をしてから自室に戻って簡素な机の前に座る。
ペンを指で挟んで軽く揺らしながら、過去の記憶を掘り返した。
(邂逅イベントの後って何があったっけ……。
あ~……確か池ポチャイベントとかあった気がする。
でも、そこは考えても仕方ないかもしれない…イベントの発生って結構ランダムだったと思う……それ以前に1周目で渡河しちゃったものなぁ……。
臨機応変に対応するしかないか)
こんな事なら、もっとやり込んでおくんだったと後悔しても、普通はゲーム世界に転生するなんて考えたりしない。
そう言った転生系アニメや漫画、ラノベなんかも、ありえない事だからこそ楽しめるのだ。
あくまで他人事、対岸の火事だから笑っていられるのであって、当事者になるなんて空前絶後も甚だしい。
だから逐一記憶してないのが普通なのだ。
思い出せないものを、必死に掘り返そうとしても時間の無駄だろう。
それにあのヒドインは、ゲーム内のヒロインとはあまりに違いすぎる。
ヒロインの行動をあてはめられるとは思えないのだ。
ゲームヒロインは平凡を絵に描いたような存在だったが、特に悪意を持って行動はしていなかったと思う。
いや、悪意がなく振り回す事そのものが、害悪と言えば害悪なのだが……。
何はともあれ無駄な時間を費やすより、さっさと寝て、明日何かあっても対処出来るようにしておく方が建設的である。
フィーはとっととベッドに潜り込んだ。
翌朝は快晴。
清々しい春の一日の始まりである。
朝食後、公爵とケルナーが一足先に出かけて行った。
その後少ししてフィーとアンネッタも、学院へ向かう為に馬車へ乗り込む。
これから卒業するまで何度も見る事になる車窓からの風景も、アンネッタにとってはまだ目新しく、昨日同様嬉しそうに眺めていた。
それを横目で見ながら、今日の予定を再確認する。
(まずはあのヒドインの正体を掴まないと……いつまでも名無しの何とかさんじゃ困るし。
彼女自身だけでなく、家も把握しておかないといけないものね)
晴天の筈なのに見えてきた学院の背景がちょっぴり曇って見えるのは、フィーの心情の表れだろうか、それとも……。
何はともあれ今日も一日、アンネッタに心穏やかに過ごして貰えるよう、頑張らなければならないだろう。
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