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式典は無事終了した。
アンネッタが輝かんばかりの笑顔ではしゃいでいる。
そんな彼女を、攻略対象でもあるケルナーが笑顔で見つめているが、公爵夫妻の睨みが効いているのか、女子学生達も怯えて近づかず、平穏に帰路に就く事が出来そうだ。
王子達も式典会場から外に出る事はなく、ネルローネがフィーの希望をしっかりと汲み取ってくれた事がわかる。
その上ヒロ……もうヒドインで良いだろう…彼女も結局入学式典に参加する事はなかったようだ。恐らくだが、保健室か何処かに留め置かれたのではないだろうか…。
何にせよ、ヒドインと攻略対象達の邂逅を潰せたのは大きい。
上々の出だしと言って良いだろう。
勿論、出会いを潰した事によって今後の展開に不安がない訳ではないが、後は野となれ山となれ、である。
公爵邸に戻り、主人一家は其々私室に戻って行った。
フィーもアンネッタの世話を一通りし終えるが、メイドたる者、暇な時間等ありはしない。
まずはメイド長の所へ向かう。
メイド長の名はサリタ・ヘダー。
フィーの新人教育担当を担ってくれた先輩メイド、ユーミ・ヘダーの母親でもある。
「失礼します。
お嬢様がお休みになられました」
「そう。ご苦労様。
貴方に動いて貰わないといけないような事は、今は特にないのだけど…」
令嬢専属となったフィーは、基本的にアンネッタから離れる事はなく、他の雑務に携わる事はない。
反対に、下手に雑務に手を出すと邪魔になってしまう可能性がある為、前もって指示がないまま手が空いた場合は、こうして確認の為にサリタの元を訪れる。
「あぁ、帳簿の確認。
頼まれていたでしょう?」
思い出したとばかりに、サリタが人差し指を軽く振る。
だが、すかさず……。
「一昨日、既に執事長にお渡ししております」
「あ、そう……なら、招待状の仕分け。
あれも早急にしないといけなかった筈……」
「3日前に終わらせており、お返事が必要な物については、既に奥様にお渡ししております」
「あ、そう……あぁ、そういえば!
ビトールが頼み事があると言っていたわね。
確かレシピがどうとか……」
「料理長には昨日までに、幾つかのレシピをご提案させて頂いております」
サリタはむぅと唸った。
ちなみに料理長ビトール・ヘダーも、サリタの子である。
夫であるヤッセム・ヘダーは公爵家の護衛騎士団長を務め、一家揃ってオファーロ公爵家に仕えていた。
「………ないわ…」
「……」
「だから、ないのよ!
もう、何だってそんなに先回りしちゃうのかしら……。
と言うか、メイドが帳簿確認とか……ほんと、この家はどうなってしまうのよ…」
「御心配には及びません。
私はメイドとしての職務を誠心誠意「だから! メイドの仕事じゃないでしょ!」……」
フィーは少々困り顔でサリタを見る。
サリタは頭が痛いと言いたげに、蟀谷を指先でグリグリと揉んだ。
「はぁ…フィーだものね…。
掃除も一通り終わっているし、本当に今は何もないわ。
貴方も朝早くからお嬢様に付き添って学院だったし、疲れてるでしょう。
自室に下がって構わないわ」
「はい」
フィーは両手を腹に重ね置いて、一礼してからメイド長の部屋を辞する。
扉を閉めると微かに溜息とぼやきが聞こえた気がしたが、それは幻聴として処理し思考を放棄後、そそっとその場を後にした。
そのまま自室として宛がわれている部屋に戻る。
使用人も邸内で働く者達の多くは、現在、邸内の使用人エリアに小さいながらも個室が与えられている。
外――馬房や洗濯場等を働く場としていて、その中でも通いではなく住み込みの者達は、邸の直ぐ傍に使用人棟と呼ばれている集合住宅のような建物が、現在は用意されていた。労働環境としてはかなりホワイトだと思われる。
だが、これを提案したのは実はフィーだったりする。
フィーが環境改善を提案するまでは、邸内に個室を持っていたのは『長』が付く者だけで、それ以外は邸外の離れた場所にある建物に、男女の区分はあったとは言え、2、3人ずつの相部屋で寝泊まりしていた。
実はこれでも他の貴族家の待遇に比べれば、マシな方だったらしい。
しかし、他と比べるのはナンセンス!
フィーは信頼を勝ち得てからと言うもの、使用人達の仕事の質を上げるには、住環境の見直しは必須だと説いて回る。
そして見事、住環境改善を手に入れると、わかりやすく効果が出た。
それはそうだろう。
ずっと続く……そう、言うなれば避難所生活の様な暮らしでは、心も身体も本当には休まらない。
注意力は散漫になるし、体力は落ちる。
結果としてミスに繋がるし、最悪病や怪我に至ってしまうかもしれない。
そんな危険性が軽減されたと言う事は、公爵家にとっても益がある。
当然被雇用側である使用人達にも歓迎されて、WIN-WINとなった。
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