7 恋バナ参謀、登場
翌朝、教室に入ると、佐伯が満面の笑みで近づいてきた。
嫌な予感しかしない。
「おはよう、リア充相沢くん」
「おはようの前に誤解を解け」
「黒瀬と放課後ショッピングデート、楽しかった?」
「デートじゃねぇ。買い出しだ」
「でもさ、買い出しであの空気は、ちょっと甘かったぞ?」
「誰情報!?」
「クラスの女子。偶然見かけたらしい」
……やっぱり、見られてたのか。
黒瀬の耳が赤くなってたの、思い出して心臓が変なリズムを刻む。
「で? どうなんだ?」
「どうって?」
「黒瀬のこと、気になってんだろ」
「いや、別に。ただのクラスメートだし」
「ふーん。そういう“別に”って言い方、完全にフラグだぞ」
「うるさいな……」
佐伯は椅子を逆向きに座って、腕を組んだ。
やたら真剣な顔で言う。
「いいか、蓮。ツンデレは“ツンが強い時期”に距離を詰めるのが肝心だ」
「何を真顔で分析してんだお前は」
「恋愛も戦略だ。タイミングを逃すな」
こいつ、恋愛アドバイザー気取りか。
でも、妙に説得力があるのが腹立つ。
◇
昼休み、黒瀬がプリントを配りに来た。
俺の机の前で一瞬止まり、何か言いたそうにして──結局、そっとプリントを置くだけだった。
「……ありがと」
「別に」
そう言いながら、ほんの少し口元が柔らかくなった気がした。
その瞬間。
「おーい黒瀬ー! 相沢のこと、どう思ってんのー!?」
教室の後ろから、佐伯の爆弾発言。
「お前ぇぇええ!?」
俺が振り向いた時にはもう遅い。
黒瀬の顔が一瞬で真っ赤に染まっていた。
「な、なに言ってんのよっ!? バカじゃないの!?」
そして、逃げるように教室を出て行った。
残された俺と佐伯の間に、妙な沈黙。
「……お前、マジで殺されるぞ」
「だって気になったんだもん」
「俺の命の保証をしてから聞け!」
窓の外、廊下を早足で歩いていく黒瀬の背中を見ながら、
俺はため息をついた。
けどその背中が、ほんの少し揺れていたのを、
俺は見逃さなかった。
怒ってる……けど、それだけじゃない気がした。
 




