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俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。  作者: 甘酢ニノ
第5章 ツンデレの『好き』が聞けるまで、俺はあきらめない。

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58 それでも、そばにいたい

放課後。

黒瀬は帰り支度をしながら、何度も蓮の方をちらちら見ていた。


(……言っちゃったんだよね、私)


“頼ってもいい?”

“期待しちゃうじゃん”


あれは勢いだった。

いや、本当は心の奥にずっとあった想いが、堰を切ったみたいにあふれただけ。


(蓮、どう思ってるんだろ……)


机に教科書を詰めながら、黒瀬は胸の鼓動が速くなるのを押さえられなかった。


そのとき、蓮が声をかけてきた。


「黒瀬、帰るか?」


「っ……うん」


昨日までと変わらない話し方。

でも黒瀬の心は、昨日よりずっとざわついていた。


廊下に出ると、ちょうど咲が帰るところだった。


「あ、葵。蓮くんと一緒に帰るの?」


「え、えっと……」


黒瀬は返答に迷った。

だが咲はにこりと微笑む。


「……うん、良かった」


その「良かった」の声は、どこか本音で、どこか少し痛かった。


黒瀬は胸がぎゅっとなるのを感じた。


「咲……」


「大丈夫。もう大丈夫だから。二人とも、また明日ね」


咲はそう言って手を振ると、明るい足取りで校舎を出ていった。


その姿を見送りながら、黒瀬は小さく呟いた。


(ごめん……)


今の黒瀬には、それ以上の言葉が見つけられなかった。



帰り道。

夕暮れの光がアスファルトを赤く染めている。


蓮は何も言わず歩いていた。

黒瀬も何も言えず、ただ数歩後ろを歩く。


(なにこれ……距離、ある)


昨日、弱さを見せた。

頼ってもいいと蓮は言った。


なのに今は、どうしても自然に振る舞えなかった。


蓮がふと立ち止まり、黒瀬の方を振り返る。


「黒瀬。なんで後ろにいんだよ」


「え……」


「並んで歩けよ」


一歩近づくと、蓮は微妙に視線をそらして言った。


「……そんな気使われるの、嫌なんだけど」


黒瀬は思わず吹き出した。


「ごめん。なんか……昨日のこと思い出して」


「それは……俺だって同じだけど」


蓮が頬を掻く。

ずるい――黒瀬はそう思った。


(あんたが気にしてるとか言うなよ……余計、意識するじゃん)


「……蓮」


「ん?」


「昨日、頼るって言ったの……あれ、嘘じゃないから」


蓮は少し驚いた顔をした。


黒瀬は勇気を振り絞り、さらに言葉を続けた。


「私、強くないし……感情の整理も下手だし……」

「それでも……蓮には、弱いところも見てほしいって思った」


沈黙が落ちる。

蓮がどんな顔をしているのか、黒瀬は見れなかった。


蓮の声がゆっくり落ちてくる。


「……黒瀬」


「……なに」


「昨日の話だけどさ」


黒瀬はぎゅっと手を握った。


蓮はほんの少し照れたように笑う。


「頼られて困るとか、絶対ないから」


黒瀬の心のどこかが、じんわりほどけていく。


蓮は続けた。


「それに、黒瀬の弱さって……なんか放っとけねえし」


黒瀬の顔が一瞬で熱くなる。


「なっ……なにそれ……!」


「いや、だって……」


蓮は視線をそらし、ぼそっと言う。


「興味あるっていうか……気になるっていうか……」


「……っ」


言葉に詰まり、黒瀬はその場に止まった。


蓮も止まって振り返る。


「どうした?」


「ど、どうしたじゃなくて……それ……」


胸が破裂しそうだった。


(ずるい……ずるすぎる)


蓮はまっすぐな目で黒瀬を見る。


「黒瀬が泣いたとき……守りたいって思ったんだよ」


その言葉に、黒瀬の喉が震える。


「私……そんな価値ないよ」


「あるよ」


蓮は即答した。


「でも……蓮に迷惑かけちゃうし……」


「かけていい。俺がそうしたいんだから」


黒瀬は目を見開いた。


そして、とうとう涙がこぼれる。


「……そんなこと言われたら……ほんとに……期待するよ……?」


「期待していいって言っただろ」


黒瀬は唇を震わせながら、かすかに笑った。


「……ほんと……ずるい」


「お前に言われたくねえよ」


二人は顔を見合わせ、ふっと笑った。


昨日までより、また一歩だけ近づいた気がした。



家の近く、分かれ道の手前で黒瀬が立ち止まる。


「蓮」


「ん」


黒瀬は勇気をしぼり、微かに頬を赤らめて言った。


「……明日も、一緒に帰っていい?」


蓮は一瞬固まったが、すぐに頷いた。


「……ああ」


黒瀬はほっと息を吐き、微笑む。


その笑顔は、蓮の胸に不思議な痛みを落としていった。


黒瀬葵は弱い。

でもその弱さは、誰よりも真っ直ぐだった。


蓮は思う。


(守りたいって思ったのは……たぶんそれだけじゃない)


少しずつ、少しずつ。


二人の距離は縮まり、

黒瀬の秘密も、蓮の気持ちも、全部が動き始めていた。

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