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俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。  作者: 甘酢ニノ
第5章 ツンデレの『好き』が聞けるまで、俺はあきらめない。

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57 弱さをみせる勇気

翌日。

教室に入ると、黒瀬はいつもより早く席に着いていた。

俯いたまま、カバンについたぷりん太のキーホルダーを指で触っている。


その指先は、どこかぎこちない。


「……黒瀬?」


声をかけると、彼女の肩がびくっと震えた。


「おはよ、蓮……」


目が赤い。

泣いた跡を隠そうと笑っているのが、見ていて痛いほど分かった。


「昨日のこと、気にしてる?」


黒瀬は小さく息をのむ。

そして、ほんの少しだけ強がって言った。


「別に……泣いたの、恥ずかしいだけ」


「恥ずかしがることじゃねえだろ」


そう言った瞬間、黒瀬の視線が逃げた。


(……やっぱり、まだ引っかかってる)


蓮は席に荷物を置き、彼女の隣に膝をつくように腰を下ろす。


「黒瀬。俺にまで、そんなに無理する必要ある?」


「……してない」


「じゃあ、目見て言ってみ?」


黒瀬は沈黙した。

喉がつまったように、言葉が出てこない。


だが蓮は責めない。ただ彼女の横にいるだけでいいと思った。


しばらくして、小さな声が落ちる。


「……蓮に……迷惑、かけたくないの」


蓮はほんの少し眉を寄せた。


「迷惑だと思ったこと、一度もねえよ」


「でも……私、昔のことも、お母さんのことも……」


声が震え、黒瀬は胸元を押さえた。


「私、弱いところ見せたら、蓮が……離れるんじゃないかって……怖くて」


蓮はその言葉に、一瞬だけ息を止めた。


(……そんなこと、思ってたのか)


昨日の涙は、ただの思い出話じゃなかった。

「好き」や「距離」の問題じゃない。


――黒瀬は、誰かに依存することを恐れている。


その理由の一つが、母の不在であり、トラウマであり、

そして「ひとりで耐える癖」が身についてしまったからだ。


蓮はゆっくり言葉を選ぶ。


「黒瀬。強くないのは……悪いことじゃねえよ」


「……でも」


「弱いとこ見せるの、俺になら別に良くねえか?」


黒瀬は顔を上げた。

大きな瞳が揺れている。


「……よく、ない」


「なんで?」


「蓮……優しいから……」


その言い方が、まるで罪を告白するみたいだった。


「優しくされたら……期待しちゃう。頼りたくなる。……好きになる」


その瞬間、蓮の心臓がどくんと跳ねた。


黒瀬は慌てて両手を振る。


「ち、違う! そういう“好き”じゃなくて……いや、ちょっとはあるけど……でも! 私、そんな資格、ないっていうか……!」


「待て、落ち着け」


完全にテンパっている黒瀬の肩を、蓮はそっと押さえる。


「黒瀬」


「……なに」


「俺は──お前が弱くても強くても、どっちでもいい」


黒瀬は言葉を失ったように固まる。


蓮は続ける。


「泣いたっていいし、甘えてもいいし、弱音吐いてもいいし……」

「そんなの、俺は迷惑だと思わねえ」


黒瀬は唇を噛んだ。


「……ほんとに?」


「ほんとに」


「……じゃあ、もし……私が、もっと頼ったら……蓮、困らない?」


「困らねえ」


黒瀬の瞳がほんの少しうるみ、顔が赤くなる。


「……蓮って……ずるい」


「は?」


「そんなこと言われたら……期待しちゃうじゃん」


蓮は苦笑した。


「期待しろよ」


黒瀬は驚いて、目を大きく開いた。


「……していいの?」


「していい」


黒瀬は小さく息をのみ、視線を落とす。


そして、かすかにぷりん太のリボンを握った。


「……じゃあ、少しだけ」


「うん?」


「少しだけ、蓮に……頼ってみてもいい?」


蓮は優しくうなずいた。


「いいよ」


その瞬間、黒瀬はほんのわずかに涙をこぼした。


でもその涙は、昨日のものとは違う。


「……ありがと」


震えた声は、どこか温かく、どこか救われていた。


蓮はその横顔を見つめながら、静かに思った。


(弱さを見せてくれた。やっと……踏み出したんだな)


そして蓮自身も気づいていた。


黒瀬が誰かを信じようとしてくれるなら、

――その誰かに、俺がなりたい。


チャイムが鳴り、教室に人が入ってくる気配がした。


黒瀬は涙を手の甲で拭き、恥ずかしそうに笑う。


「……見たの、絶対言ったら殺すから」


「こえぇよ」


「言ったら殺す。ほんとに」


「わかったわかった……」


そのやり取りが、昨日より少しだけ近く感じた。


黒瀬葵は、ゆっくりと変わり始めていた。


蓮と向き合うために。

弱さを隠さない自分になるために。


そして蓮もまた、黒瀬の手を離すつもりはなかった。

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