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俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。  作者: 甘酢ニノ
第5章 ツンデレの『好き』が聞けるまで、俺はあきらめない。

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51 すれ違いと曲がり角

 週明けの教室は、妙にざわついていた。

 けれどその喧騒の中で、俺と黒瀬の間には、静かな空気が流れている。


「おはよ」

 何気なく声をかけると、黒瀬は一瞬だけこちらを見て、小さく会釈をした。

「……おはよう」


 それだけ。

 以前みたいなテンポのいい言い合いも、軽口もない。

 まるで何かを警戒するように、黒瀬は一定の距離を保っていた。


 ──最近、なんか、ぎこちない。


 あのとき、俺は黒瀬の涙を見た。

 あいつが「昔のこと」を思い出したように見えて、手を伸ばせなかった。

 だからこそ、今のこの距離が、自分のせいに思えてならない。


「相沢くん、これ次の資料配ってくれる?」

「あ、はい」


 先生に呼ばれて席を立つと、ちょうど黒瀬の机の前を通る。

 近づくだけで、なんか変に緊張する。

 手渡そうとして、一瞬指が触れた。


 その瞬間、黒瀬がピクリと肩を震わせた。


「……ごめん」

「……別に」


 視線は合わない。

 いつもなら、「へたくそ」だとか「不器用ね」って笑ってくれたのに。

 今日は、そのどれもなかった。


(……どうしたんだ、黒瀬)


 そう思う一方で、自分も自然に接することができない。

 見つめたら意識して、話そうとすれば噛みそうになる。

 ──完全に恋愛初心者の負のスパイラルである。


 昼休み。

 窓際の席で、黒瀬は一人、静かに弁当をつついていた。

 隣にはいつものように咲がいるけど、会話は少なかった。


「ねえ葵。なんか元気ないね」

「そう見える?」

「うん。……相沢くんと、何かあった?」


 黒瀬は一瞬、箸を止めた。

 けれど、すぐに作り笑いを浮かべる。


「別に。あいつが勝手に意識してるだけでしょ」

「ふぅん」

 咲はそれ以上、何も言わなかった。

 でもその“ふぅん”には、全部見透かしているような優しさがあった。


 放課後。

 俺は机に突っ伏して、深いため息をついた。


「……重症だな、これ」


 自分で自分にツッコミを入れても、どうにもならない。

 このまま距離が開いていくのが、怖い。

 けど、どうやって埋めればいいのかもわからない。


 そのとき。

 教室のドアが開いて、咲が顔を出した。


「あ、いた。相沢くん」

「ん? どうした?」

「ちょっと、話あるの」


 咲は微笑んだ。

 その笑顔の奥に、何か決意のようなものが見えた。


 屋上に出ると、夕方の風が頬を撫でた。

 咲はフェンスのそばに立ち、空を見上げながら言った。


「ねえ、相沢くん。葵のこと……どう思ってる?」

「……いきなりだな」

「でも、もう誤魔化せないでしょ」


 真っすぐな視線。

 逃げ場がない。


「……気になる、っていうか。気づいたら、目で追ってる」

「ふふ、やっぱり」


 咲は小さく笑った。

 それはどこか寂しげで、でも、温かい笑顔だった。


「葵ね、ああ見えて怖がりなんだよ。人との距離とか、失うこととか。だから、きっと今も不安なんだと思う」

「不安?」

「うん。……“また離れちゃうかも”って」


 咲の言葉が、胸に刺さる。

 黒瀬が見せた一瞬の寂しげな表情──あれが、その不安の表れだったのか。


「だからさ」

 咲が微笑みながら言う。

「相沢くんは、ちゃんと向き合ってあげて。葵、そういうの待ってると思うから」


「咲……」

「いいんだよ。私はもう、見てるだけで十分」


 その言葉に、何かを悟った。

 咲は、自分の想いをもう置いてきたのだ。

 優しい笑顔の裏で、ちゃんと前を向こうとしている。


「……ありがとな。お前、ほんとすごいよ」

「そんなことないよ。葵が笑ってくれたら、それでいい」


 その背中は、少しだけ切なかった。


 屋上を出て、廊下に戻る。

 夕陽が差し込む中、黒瀬の姿が見えた。

 教室の前で立ち止まり、手元のカバンを見つめている。


 そこには、いつもの“ぷりん太のキーホルダー”。

 少し色あせたそれを、黒瀬はそっと撫でていた。


(……やっぱり、あのキーホルダー。何かあるな)


 何気ない仕草の中に、確かに“想い”があった。

 それが、俺の知らない過去に繋がっている気がしてならない。


 けど、今は──その過去に怯えるより、

 目の前の黒瀬をちゃんと見たい。


 次こそ、ちゃんと話そう。

 すれ違いのままじゃ、終われないから。


 廊下の風が、夕焼けの匂いを運んでいった。


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