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俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。  作者: 甘酢ニノ
第4章 なんか最近、目が合うだけで心臓うるさいんですけど!?

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45 それでも笑う理由

午後の自由時間。

班ごとに分かれた生徒たちは、思い思いの場所へと散っていった。

咲たちの班も、一応「観光地散策」という名目で歩き出したが──。


「黒瀬、どこ行きたい?」

「んー……別に、どこでも」


その言葉に、咲の胸が少しだけチクリと痛む。

“どこでもいい”──その無関心は、咲に向けたものではない。

きっと、隣を歩く蓮を意識しているからだ。


黒瀬は何気ない風を装っているけれど、咲にはわかる。

あの距離の取り方、視線のそらし方。

(葵、やっぱり……あんた、蓮くんのこと──)


「ねえ、ソフトクリーム食べよっか!」

咲は空気を変えたくて、無理に明るく声を出した。


黒瀬は一瞬きょとんとしたあと、小さく笑って頷いた。

「うん、いいね」


並んでソフトクリームを受け取る。

蓮は抹茶、咲はいちご、黒瀬はバニラ。

その並びがまるで昔からの三人組みたいで、少しだけ嬉しくなる。


──けれど、それも一瞬だった。


風に飛ばされそうになったナプキンを、蓮が黒瀬の手からさっと取った。

「ほら、危ない」

「あ、ありがと……」


その何気ないやり取りを見ただけで、咲の胸の奥がずきりと痛む。

ほんの一秒の仕草に、目を逸らしたくなる。


(あーあ。私、ほんとに鈍感だったな)


黒瀬の気持ちにも、蓮の変化にも、ずっと気づかないふりをしていた。

気づいたら、手を伸ばす場所にもう“二人の世界”ができてる。


「咲?」

「え、なに?」

「ソフト、溶けてる」


蓮の指摘で、慌てて舐める。

甘い味が、やけに苦い。


そのあとも観光地を歩いたが、どこへ行っても心ここにあらずだった。

神社で写真を撮るときも、土産屋を回るときも、黒瀬と蓮の自然な会話が耳に残る。


(あんなふうに笑えるんだ、葵……)


学校ではあんなに不器用なのに、今の黒瀬は柔らかい。

蓮と一緒にいると、安心してるみたいに見える。


夕方、集合場所に戻ると、空はオレンジ色に染まっていた。

その光の中で、黒瀬が蓮に話しかける。

「さっきの写真、あとで送って」

「わかった。……変なの送るなよ」

「送らないって!」


咲はそのやり取りを見つめながら、ふっと笑った。

無理やり作った笑顔。

けれど、その笑顔だけは絶対に崩したくなかった。


(私が笑わなきゃ、だめなんだ)


夜。

宿に戻り、部屋の灯りが消えたあと、咲はスマホを開いた。

ホーム画面には、いつの間にか撮られていた三人の写真。

咲の間に、黒瀬と蓮が並んで写っている。

三人とも笑っていた。


指で黒瀬の顔をなぞる。

(葵、よかったね。やっと、素直になれたんだ)


小さく息を吐いて、スマホを伏せた。

目頭が熱くなったけど、涙は流さない。

泣いてしまったら、たぶん全部終わってしまうから。


隣の布団では、黒瀬が小さく寝息を立てていた。

その寝顔を見て、咲は小声で呟く。


「……私、負けたよ」


けれどその声には、どこか清々しさもあった。

自分の想いを隠すことも、守ることも、もうやめようと思った。


(好きって言葉、たぶんもう使えないけど)

(それでも、あの二人のことをちゃんと応援できるようになりたい)


月明かりが障子の隙間から差し込み、静かに咲の顔を照らす。

その光の中で、咲は小さく笑った。


「……ほんと、バカみたい」


そう呟いて、やっと目を閉じた。


──そして、その笑顔のまま眠りについた。

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