表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。  作者: 甘酢ニノ
第4章 なんか最近、目が合うだけで心臓うるさいんですけど!?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/62

42 波打ち際で、心が揺れる

 午後。校外学習二日目。

 クラス全員で海辺の清掃活動をしてから、しばらく自由時間になった。


 青い空の下、海風が心地よく吹き抜ける。

 波打ち際を歩きながら、相沢蓮は無意識にため息をついた。


(……あれから、ずっと気まずい)


 黒瀬と話そうとしても、言葉が喉につかえる。

 昨日の“あの事故”が頭から離れず、顔を合わせるだけで心臓が落ち着かない。


 遠くで、黒瀬が女子たちと一緒に貝殻を拾っている。

 笑顔はいつも通りだけど、どこかぎこちない。


(絶対、俺のこと意識してる……いや、俺もなんだけど)


 砂浜に足跡が続く。

 波が寄せてきて、跡をすぐに消していく。

 まるで昨夜のことまで、海が全部流してしまおうとしているみたいだった。


 そんなとき──背後から声がした。


「相沢くん、少しいい?」


 振り返ると、白川咲がいた。

 いつもより静かな表情で、日差しの中に立っている。


「咲?」

「うん。……ちょっと、話したいことがあるの」


 彼女の声は穏やかだったが、その奥にある緊張を蓮は感じ取った。


 二人は少し離れた防波堤のそばまで歩く。

 潮風が髪を揺らし、遠くで笑い声が響く。


 しばらく無言のまま、咲が口を開いた。


「ねえ、葵と……なにかあった?」


 蓮の心臓が止まりそうになった。


「な、なんで……」

「なんか、見てればわかるよ。葵の様子。あの子、すごく分かりやすいもん」


 咲は苦笑した。

 でも、その目はまっすぐで、どこか寂しそうだった。


「葵があんな顔するの、初めて見た。……たぶん、あの子、自分でも気づいてないんだと思う。相沢くんのこと、特別に見てるって」


「……」


「でも、相沢くんも少し困ってる顔してる。だから……どっちかがちゃんと向き合わないと、きっと誰かが傷つくよ」


 彼女の言葉はやさしく、それでいて痛かった。

 風の音にまぎれて、蓮は小さく息を吐く。


「咲は、どう思う?」


 そう聞くと、咲は一瞬だけ視線を逸らした。

 そして、笑おうとしたけれど、うまく笑えなかった。


「わたしも……好きだったよ、相沢くんのこと」


 海の音が止まったように感じた。


 咲は小さく笑って続ける。

「でも、もういいの。葵があんな顔してるの見て、わかったから。あの子にだけは、泣いてほしくないんだ」


「咲……」


 それ以上、何も言えなかった。

 彼女の笑顔があまりにまぶしくて、胸が痛かった。


 咲は「行こっか」とだけ言って、防波堤を降りていった。

 潮の香りが残り、蓮の胸に静かな波紋を残す。


 ***


 夕方。

 宿舎に戻る前、黒瀬が砂浜でひとり膝を抱えていた。


 オレンジ色の空の下、静かに波が寄せてくる。

 蓮はその姿を見つけて、少し迷ったあと、ゆっくり近づいた。


「……こんなところにいたのか」

「うん。みんな先に戻ったけど、ちょっとだけ……風に当たってたくて」


 黒瀬は振り返らないまま、波を見ている。

 蓮は彼女の隣に腰を下ろした。


「昨日のこと、覚えてる?」


 その言葉に、黒瀬の肩がびくっと震えた。


「わ、忘れてない……けど……あれは、事故だし」

「そうだな。事故だった」


 蓮は静かに言う。

 だけど心の奥では、違う言葉が喉まで上がっていた。


(事故だけど……俺は、あの瞬間に気づいたんだ)

(俺、本気で──黒瀬のことが)


 けれど、言葉にはしなかった。

 今ここで口にすれば、何かが壊れそうだった。


 沈黙のまま、波の音だけが響く。

 遠くでカモメが鳴き、空が少しずつ群青に変わっていく。


 やがて黒瀬が、ぽつりと呟いた。


「ねえ、もし……誰かを好きになっても、言えないことってあるよね」

「あると思う」

「それが“好き”って気持ちに気づいたのが、もし遅すぎたら……どうすればいいんだろう」


 彼女の声は、風に溶けるように震えていた。


 蓮は何も言わず、ただ隣で波を見ていた。

 でも、心の中では──彼女の手を取ってしまいたい衝動と、抑える理性がぶつかり合っていた。


 波がふたりの足元をさらっていく。

 その瞬間、黒瀬が小さく笑った。


「……ね、ありがと。隣にいてくれて」


 その笑顔を見たとき、蓮はようやくわかった。


 この感情はもう、誤魔化せない。


(俺、やっぱり──黒瀬のことが好きなんだ)


 海風が吹く。

 彼の心の奥で、何かが静かに、確かに動き出していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ