3 秘密、バレたかもしれない
放課後の商店街。
部活もない日は、いつもまっすぐ帰る。
──はずだった。
「……ん?」
アニメショップの前で立ち止まる女子がいた。
見覚えのある黒髪、すっとした背筋。
……いやいや、まさか。
「黒瀬……!?」
ショーウィンドウに映る姿は、まぎれもなく黒瀬葵だった。
制服の上にカーディガンを羽織り、手には“ぷりん太フェア”の紙袋。
──完璧超人、終了のお知らせ。
「な、なんであんたがここにいるの!?」
「いや、こっちが聞きたいわ。黒瀬こそ……」
「違うの! これは、その……妹に頼まれて!」
「妹、いたっけ?」
「い、いないけど!」
「矛盾してるよね!?」
真っ赤になった顔をそむけながら、黒瀬はそそくさと歩き出した。
でも、早足のわりに、どこか動揺している。
紙袋が揺れるたび、ぷりん太のシールがちらっと見える。
「待てって。別にバカにしたりしないって」
「うるさい! ついてこないで!」
……と言いつつ、なぜか同じ方向に帰ることになるのが俺たちの運命らしい。
◇
住宅街の角を曲がったところで、突然黒瀬が立ち止まった。
振り返ると、少しだけ困ったような顔をしている。
「……あんた、誰にも言わないでよ。今日のこと」
「言わないって。秘密、守るから」
「ほんとに?」
「ほんとに」
「……そ、そう」
少し安心したのか、黒瀬の肩の力が抜けた。
その拍子に、彼女のカーディガンの袖がふわっと俺の手に触れる。
たったそれだけで、心臓が変に跳ねた。
「……な、なに?」
「いや、なんでもない」
黒瀬は一瞬こっちを見上げて、すぐ視線を逸らす。
頬にかかった髪の隙間から見えた横顔が、
いつもの無表情よりずっと、近くて柔らかく見えた。
「……へんな顔してる」
「黒瀬が急に素直だから、びっくりしてるだけ」
「べ、別に素直じゃないし!」
そう言って、ぷいっと顔をそむける。
でもその耳はまた、ほんのり赤い。
帰り道の沈黙が、なぜか少し心地よかった。




