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俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。  作者: 甘酢ニノ
第4章 なんか最近、目が合うだけで心臓うるさいんですけど!?

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38 揺れる視線、そらした心

校外学習の前日。

教室には、どこか浮き足立った空気が漂っていた。

机の上には配られたばかりのしおり。持ち物リストや班分け表をめくりながら、生徒たちが口々に騒いでいる。


「ねぇ、班決まった?」

黒瀬葵が隣の席から顔をのぞかせた。

相沢蓮は、ぼんやりプリントを見つめたまま答える。

「いや、まだちゃんと見てねぇ」

「ほら、見てみなよ。……リーダーがあんた、メンバーは私と咲」

「は? またその組み合わせ?」

「“仲が良さそうだから”だって。先生のコメント付き」

「仲が良さそうって……どこ見て判断してんだよ」


黒瀬はくすっと笑った。

「まあ、いいじゃん。私がリーダーよりマシでしょ」

「いや、絶対大変になる未来しか見えねぇ」

「そういうこと言うと、班長命令でこき使うよ?」

「お前が一番そういうの向いてねぇだろ」


いつも通りの軽口。

だけど、今日は妙に胸が落ち着かなかった。

笑いながら言葉を交わしているのに、息が詰まるような感覚がある。


(……昨日、あんなに近くで顔見ちまったから、か?)


昨日、準備中に手が触れたとき。

ほんの数秒の沈黙が、妙に長く感じた。

意識なんてしてなかったはずなのに──今は、どうしても目を合わせづらい。


 


ふと、視線の先に白川咲の姿があった。

数人の女子と話していた咲が、こちらに気づいて小さく手を振る。

「蓮くん、明日、集合時間早いからね。寝坊したら置いてくよ?」

「そんなドジしねぇよ」

「ふふ、黒瀬さんの寝坊は心配だけど」

「ちょっと、どういう意味?」


笑い合う二人を見ながら、咲の胸の奥に小さな痛みが走った。

それでも笑顔を崩さない。

(葵が彼を見る目、最近変わったよね……。でも、いいんだ。あの子が笑ってるなら)


咲は自分にそう言い聞かせ、話題をそらした。

その強がりを、誰も気づかない。


 


放課後。

帰り支度を終えた黒瀬は、机の上のプリントを丁寧にたたみながら言った。

「明日のバス、楽しみだね」

「お前、ちゃんと弁当忘れんなよ」

「誰に言ってるの? この前忘れたのはあんたでしょ」

「う……」


黒瀬が口元を押さえて笑う。

その仕草が妙に可愛く見えて、蓮は一瞬、視線を逸らした。

「なに、黙って」

「いや……別に」

「“別に”って便利な言葉だね。あんた、よく使う」

「うるせぇな」


軽く睨んだつもりだったのに、黒瀬は目を細めた。

「……でも、今の顔、ちょっと優しい」

「は?」

「なんでもない」


頬を赤らめたまま、黒瀬はカバンを持って立ち上がる。

夕方の光が教室に差し込んで、髪を金色に照らした。

一瞬、見惚れてしまう。

その視線に気づいたのか、黒瀬が照れたように口を開いた。


「なに、見るなよ」

「……いや、なんか変わったなって」

「どこが?」

「前より、笑うようになった」

「……そっちの方が、いい?」

「ああ。いいと思う」


ほんの少し、空気が止まった。

彼女の唇がわずかに動いて──何か言おうとしたそのとき。

「蓮くーん! 帰るよー!」

廊下の方から咲の声が響いた。

黒瀬は小さく肩をすくめ、視線をそらす。


「……行こ」

「ああ」


 


校門を出たあと、三人並んで歩いた。

茜色の空が街を染めている。

黒瀬と咲が並び、その少し後ろを蓮が歩く形になった。


「ねぇ、明日の夜の自由時間、三人で回ろうよ」

咲がそう言うと、黒瀬は少し迷ってから頷いた。

「……うん、いいよ」

「よかった。じゃあ決まり!」


咲の声は明るい。

けれど、笑顔の奥で揺れる影を、黒瀬は感じ取っていた。

(咲……気づいてるのかもしれない。私が、蓮を──)


言葉にならない思いを飲み込んで、そっと夜風に溶かした。


風が頬をなで、三人の髪を揺らす。

その瞬間だけ、時間がやけに静かに感じた。


──そして翌日。

校外学習で起こる“あの出来事”が、三人の関係を大きく動かすことになるなんて、誰もまだ知らなかった。

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