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俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。  作者: 甘酢ニノ
第4章 なんか最近、目が合うだけで心臓うるさいんですけど!?

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37 目が合うだけで

翌週の月曜日。

教室に差し込む朝の光が、やけに眩しく感じた。


黒瀬葵は、窓際の席でそっとため息をつく。

週末のことを思い出すたび、胸が変にドキドキする。


(別に……なんともないのに。なんで、あんなに緊張してんのよ)


蓮と二人で歩いた帰り道。

夕陽に照らされた彼の横顔が、頭の中で何度もリピート再生されてしまう。

あのときの「ありがとう」が、妙に優しかった。


「おはよー、葵!」


咲の明るい声で現実に引き戻された。

「……おはよ」

「なんか顔赤いけど? 熱でもある?」

「な、ない! 別に!」


慌てて否定する黒瀬を見て、咲は小さく笑う。

(ふふ、やっぱり葵、変わってきた)

そんな表情だった。


そこへ、教室のドアが開く。

「おはよ」

いつも通りの低く落ち着いた声。


相沢蓮が入ってくる。


その瞬間、黒瀬の心臓が跳ねた。

「……おはよ」

「ん、おはよ」


ただそれだけのやり取りなのに、胸の奥がざわつく。

咲が隣でニヤニヤしているのが見えて、黒瀬は思わず睨んだ。


(ちょっと、見ないでよ……!)


だが、咲の目には、もう黒瀬の“変化”がはっきり映っていた。

ツンとしていた彼女が、少しずつ柔らかくなっていることを。

それは、恋をしている人間の顔だった。



「席につけー」

担任の水野先生が入ってきて、朝のHRが始まる。


「今日はお知らせがある。来月、校外学習を行います」


教室がざわついた。

黒板には「○○県・二泊三日・体験学習」と書かれている。


「宿泊!?」「うわ、まじか!」

「夜、部屋でトランプしよ!」

「肝試しとかあるのかな!」


生徒たちのテンションが一気に上がる。


黒瀬は、ちょっと浮かれた空気の中で、

ちらりと蓮の方を見た。


彼はいつも通り無表情……のはずだったが、

少しだけ口元が緩んでいた。


(……楽しみ、なのかな)


そう思った瞬間、彼と目が合った。

ほんの一瞬。

でも、なぜか時間が止まったみたいに感じた。


視線をそらそうとしても、動けない。

胸の鼓動が速くなる。


(やば……なにこれ)


「黒瀬?」

「えっ!? な、なに!?」


水野先生の声で、ようやく我に返る。

「お前、聞いてたか? 班は五人一組だぞ」

「き、聞いてましたっ!」

クラス中が笑い声に包まれる。


黒瀬の耳まで真っ赤だった。



放課後。


黒瀬は教科書を鞄に詰めながら、まだどこか落ち着かない。

咲が机に頬杖をついて、にやりと笑った。


「ねえ葵。蓮くんと同じ班になりたい?」

「はっ!? な、なんでそうなるの!?」

「だってさっき、目合ってたじゃん。わかりやすいんだもん」

「ち、違うし!」

「ふふ、じゃあどうしよっかな〜。私が一緒に組んじゃおうかな」


「っ……!」

思わず机をバンと叩いて立ち上がる。

「そ、それは……ダメ」

「え?」

「だ、だめっていうか……なんか、やだ」


咲が少し驚いたように目を瞬かせた。

けれど次の瞬間、ふっと微笑む。

「……そっか」


黒瀬は、何か言い返そうとしたけれど、

喉の奥が熱くて、声にならなかった。



帰り道。

ひとりで歩きながら、黒瀬は小さく呟いた。


「ほんと、なに言ってんだろ……私」


頬をなでる風が、やけに冷たい。

けれど、その中に混じる夕焼けの匂いは、

昨日の帰り道と少しだけ似ていた。


(また、蓮と歩いたら……どうなるんだろ)


そんなことを考えてしまう自分が、

どうしようもなく恥ずかしかった。


でも──その胸の奥は、

ほんの少しだけ、あたたかかった。

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