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俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。  作者: 甘酢ニノ
第3章 デレ期、来たかもしれません。(ただしツン付き)

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31 意識しすぎだろ、俺。

体育祭が終わってから、一週間。

教室の空気は、どこかいつもと違っていた。

──というより、俺の中が、落ち着かない。


黒瀬葵のことを、つい目で追ってしまうのだ。

窓際の席で風に髪を揺らしている姿。

ノートにペンを走らせる音。

小さく息を吐く仕草。

その全部が、どうしようもなく気になってしまう。


(……いや、別に特別ってわけじゃない。ただ、最近よく一緒にいるから……)


そう言い訳してみるけど、全然説得力がない。

だって、気づけば何度も彼女を見ている。

そのたびに視線がぶつかって、慌てて逸らす──その繰り返し。


「……なに、見てんの?」

「いや、別に」

「嘘。さっきから視線が痛い」

「黒瀬が、妙に静かだから」

「勉強してるだけでしょ。いつもより真面目でしょ」

「それが逆に怖い」


思わず口をついて出た言葉に、黒瀬はぷっと吹き出した。

その笑い声が、いつもより柔らかい。

くすぐったいような音が、胸の奥に響いた。


(やばい。これ、完全に意識してる……)


慌ててプリントに目を落とすけど、文字が全然頭に入ってこない。

黒瀬がページをめくるたびに、紙の音がやけに大きく聞こえる。

意識するなってほうが無理だ。


「ねえ、これわかんない」


顔を上げると、黒瀬がペン先で問題を指していた。

近い。距離が近い。

机越しとはいえ、手を伸ばせば触れられるくらいの距離だ。


「あー、ここか。ここは──」

「いいよ、やっぱり」

「なんでだよ」

「近い。顔、近い」

「……え、あ、悪い」


慌てて距離を取ろうとした瞬間、手の甲がふわりと触れた。

ほんの一瞬。けれど、静電気みたいに心臓が跳ねた。

黒瀬の指先も小さく震えたのが見えた。


沈黙。

教室のざわめきが遠くなる。

心臓の音だけが、耳の奥で鳴っていた。


「……やっぱ、あんた変」

「は? なんだよ、急に」

「なんでもない」


黒瀬は小さく首を振って、髪を耳にかけた。

その仕草が、どうしようもなく綺麗で。

胸の奥で、また何かが跳ねる。


(なんだよ、これ……)


今までは“ムカつくクラスメイト”で済んでいたのに、

今はその言葉じゃ片づけられない。


笑うたびに、ちょっと焦って、ちょっと嬉しい。

ツンと言いながらも、ほんの少しデレる瞬間がある。

その全部を、見逃したくないと思ってしまう。


──体育祭のとき。

風の中で見た笑顔が、まだ頭に焼きついている。

あの時から、たぶん俺はずっと変なんだ。


「黒瀬」

「なに」

「……いや、なんでもない」


結局、言えなかった。

ただ名前を呼んだだけなのに、胸がうるさい。

黒瀬は不思議そうに俺を見て、すぐにまたノートへ視線を落とした。

その横顔を、俺は見ないようにして、でも見ていた。


(気づかないふりしてたけど……もう無理だな)


窓の外から吹き込む風が、カーテンを揺らした。

白い布がふわりと黒瀬の髪に触れて、それを指で払う彼女の仕草。

その一瞬さえ、やけに愛しく思えてしまう。

 

「……意識しすぎだろ、俺」


小さくつぶやく声は、自分でも驚くほど情けなかった。

それでも、止められない。

だって、もう気づいてしまったから。

彼女を見るたびに、胸の奥が熱くなることに。


──俺は、たぶん。

黒瀬葵のことが、気になって仕方ない。



風がまた吹いた。

ページの端がめくれる音が、心臓の鼓動と重なった。

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