表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。  作者: 甘酢ニノ
第3章 デレ期、来たかもしれません。(ただしツン付き)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/43

29 風が運んだ「おかえり」

放課後の教室に、夕陽が差し込んでいた。

窓際の机に座る黒瀬葵は、プリントを束ねながら小さく息をつく。

今日は委員会の手伝いで、いつもより少し遅くなった。


ふと顔を上げると、まだ一人だけ残っている男子がいた。

──相沢蓮。

彼もノートを閉じて、帰り支度をしているところだった。


「……あれ、黒瀬も残ってたのか」

「委員会。ちょっとだけね」

「そっか。じゃ、一緒に帰るか?」

「……べ、別にいいけど」


黒瀬は言いながら、鞄の中にプリントを押し込んだ。

(“いいけど”って言ったけど……なんで私、こんなにドキドキしてるの)


教室を出ると、廊下に夕暮れの風が通り抜けた。

窓の外には、オレンジ色の光を反射した校庭が広がっている。


「なあ、最近の黒瀬、ちょっと変わったよな」

「へ? な、なにが」

「いや、前より話しやすくなったっていうか」

「……気のせい」

「そうか? オレは嬉しいけどな」


不意にそんなことを言われて、黒瀬は歩みを止めた。

頬がじんわりと熱くなる。

(ほんと、ずるい。そういうことをさらっと言うの、ずるい)


「……あんた、ほんと無自覚すぎる」

「え、オレ?」

「ううん、なんでもない」


視線をそらして言う黒瀬の手元では、

鞄につけた“ぷりん太のキーホルダー”がかすかに揺れていた。

リボンが、夕陽に照らされてきらりと光る。


「それ、最近よく触ってるよな」

「べ、別に」

「……なんか、安心する?」

「……そうかもね」


小さく笑う黒瀬の横顔が、穏やかだった。

その表情を見て、蓮の胸に再び“違和感”が浮かぶ。

──昔も、こんな顔をどこかで見た気がする。

でも、いつ? どこで?


考えても思い出せない。

ただ、心の奥にあたたかい感情だけが残った。


「黒瀬」

「なに」

「……今日も、おつかれ」

「……っ、なにそれ」

「いや、言いたくなっただけ」


一瞬、黙ったあと。

黒瀬はふっと笑って言った。


「……ありがと。蓮もね」


二人のあいだを、風が通り抜ける。

その風が、どこか“おかえり”と言っているように感じた。


校舎を出ると、茜色の空。

黒瀬は鞄をぎゅっと抱えながら、小さくつぶやく。


(ねえ、お母さん。私、ちゃんと前に進めてるよ)


彼女の手元で、ぷりん太のキーホルダーが静かに揺れた。

それは、まるで母のぬくもりがそっと背中を押しているようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ