2 ツンの裏にある、なにか。
翌朝。
教室のドアを開けた瞬間、またそれは始まった。
「……足音、うるさい」
「まだ一歩しか歩いてないけど!?」
「その“一歩”がうるさいのよ」
「理不尽すぎない!?」
朝からこれである。
俺、もうこの一週間で、黒瀬の“理不尽耐性”だけは鍛えられた気がする。
そんなやり取りをしていたら、隣の席の佐伯がニヤニヤしながら囁いてきた。
「おまえら、ほんと夫婦みたいだな」
「やめろ、その地獄みたいな例え」
黒瀬の眉がピクリと動く。
「……誰が、誰と夫婦ですって?」
「いえ、何も。佐伯が勝手に言っただけです」
「ふーん……」
こっちを一瞥して、また視線を逸らす。
その頬がほんの少しだけ赤いのは、気のせいだろうか。
……いや、絶対気のせいだ。
◇
昼休み。
俺が購買のパンを片手に戻ってくると、自分の席の上に見慣れないシャーペンが置かれていた。
「ん? 誰のだこれ」
持ち主の名前シールもない。
でも、よく見ると、軸の根元に小さなシールが貼ってあった。
――アニマルプリン王国のペンギン、ぷりん太。
妹が小学生のとき好きだったキャラだ。
でも、こんなシールを貼るような子、クラスにいたっけ?
そう思ってふと視線を上げると、
黒瀬が、なぜかこっちを見ていた。
……いや、“見ていた”というより、“睨んでいた”。
「な、なに?」
「それ、触らないで」
「え、俺の机の上にあったんだけど!?」
「だからって触っていいとは言ってないわ」
「理不尽シーズン2来たな……」
「……返して」
黒瀬は一歩近づいてきて、俺の手からシャーペンを奪い取った。
その動作が、いつもよりずっと焦ってる。
「ぷ、ぷりん太……かわいいよな」
つい、言ってしまった。
黒瀬の手が止まる。
「……え?」
「いや、妹が昔好きでさ。アニメ見てたから知ってる。黒瀬も好きなんだな、こういうの」
次の瞬間。
「ち、ちがうっ!」
珍しく声を張り上げた黒瀬が、顔を真っ赤にして言った。
「べ、別に好きとかじゃなくて! たまたま……貼ってあっただけで!」
「貼ってあった……だけ……?」
「そう! 勝手に! 気づいたら!」
「誰が!?」
「……知らない!」
そう言って、黒瀬は顔を背けた。
その耳まで真っ赤なのを、俺は見逃さなかった。
◇
放課後。
教室を出ようとしたとき、背後から小さな声が聞こえた。
「……さっきのこと、誰にも言わないで」
振り返ると、黒瀬が窓のほうを向いたまま、ぽつりと呟いた。
「……別に、恥ずかしいことじゃないと思うけど」
「うるさい。あんたには、関係ないでしょ」
そう言って、彼女はそそくさと教室を出ていった。
でもその背中は、いつもの“完璧超人”とは少し違って見えた。
……なんていうか。
普通の女の子、って感じだった。




