1 なぜか俺にだけツンなアイツ
黒瀬葵。成績は常に学年トップ、運動神経もそこそこ、見た目に至っては校内どころか他校にもファンがいるレベル。
誰に対しても冷静で、必要最低限の言葉しかしゃべらない“完璧超人”みたいな女子。
……のはずなんだけど。
「なによ、その顔。気持ち悪い」
「いや、何もしてない。普通にしてるだけだって」
「“普通”が気持ち悪いの。もうちょっと自覚持ってよ」
おかしい。
理不尽すぎる。
俺、まだ今日、登校して30分しか経ってないんだけど?
「ていうか、朝からずっと文句しか言ってないよね? 俺、黒瀬と話した記憶すらないんだけど」
「……そういうところよ」
「どういうところ?」
黒瀬はふいっとそっぽを向くと、机に頬杖をついた。
前の席の俺は、なんとなくその視線が背中に刺さる気がして、落ち着かない。
こんな調子で、もう一週間が過ぎた。
始まりは、先週の月曜日。
朝、黒瀬の机の上に落ちてたプリントを拾って、普通に渡しただけ――のはずなんだけど。
「別に、あんたに頼んでないけど」
……からのこれだ。
それ以来、俺にだけ明らかに対応がおかしい。
他の男子:「おはよう黒瀬さん」→「あ、おはよう」
俺:「おはよう」→「は?」
なんだこの温度差。
そしてその日の放課後、俺はとうとう我慢できず、直球で聞いてみることにした。
⸻
「黒瀬、ちょっといいか」
「なに? 急に話しかけないで。びっくりするじゃない」
「……俺、なんかした?」
言った瞬間、彼女の目が少しだけ揺れた。
けど、すぐに元の無表情に戻って、ため息をついた。
「別に。なんにも」
「じゃあ、なんで俺にだけ態度キツいの?」
黒瀬は少しだけ考える素振りを見せたあと、言った。
「……そうね。なんとなく、ムカつくから?」
「ええ……」
「うそよ。ほんとは、ちょっとだけ……」
その言葉の続きを、俺は待った。
でも、彼女は結局何も言わずに、踵を返した。
「……なんでもない。気にしないで」
その背中を見送りながら、俺は確信した。
こいつ、何か隠してる。




