表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。  作者: 甘酢ニノ
第2章 ツンデレが本気でムカついてると思ったら、どうやら恋らしい。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/28

14 デートじゃない、だから緊張なんてしてない


「──で、どこ行くんだ?」

「別に、どこでもいいけど?」


 休日の駅前。

 制服じゃない黒瀬葵がそこにいた。

 白いブラウスにカーディガン、ゆるいデニム。

 普段のきっちりした印象と違って、ちょっと大人っぽい。


「お、おう……なんか、いつもと雰囲気違うな」

「悪い意味?」

「いい意味」

「……あ、そう」


 黒瀬が耳の後ろを少し触る。照れてる。

 いや、可愛いって思ったけど、それ言ったらまた怒られるやつだな。


「で、本当にどこ行くんだよ」

「映画でも見る?」

「え、デートっぽいな」

「違うって言ってるでしょ」


 俺が笑うと、黒瀬がぷいっと顔を背けた。

 その頬がほんのり赤くなってるのを、サングラス売り場のガラス越しに見てしまう。



 映画館の中。

 並んで座る距離が、なんか近い。

 スクリーンに光が走るたび、彼女の横顔が一瞬照らされる。

 長いまつげ。微かに動く唇。

 ──落ち着け俺。映画見ろ。


「ねぇ、相沢」

「なに」

「ポップコーン、食べる?」

「あ、もらう」


 指先が、ほんの一瞬触れた。

 ドクン。心臓の音が大きくなったのは、絶対俺だけじゃないと思う。


 けど、黒瀬は映画に視線を戻したまま、何事もなかったように言った。

「……この主人公、ちょっと相沢っぽい」

「どのへんが」

「鈍感で、気づかないとこ」

「それ褒めてないよな」

「ふふ、でしょ」


 笑う声が、映画の音よりも近くに感じた。



 映画が終わったあと、外に出ると夕方の風が心地いい。

「結構よかったな」

「うん。思ったより面白かった」

 黒瀬は小さくうなずいて、前髪を押さえた。


「ねぇ、あんたってさ」

「ん?」

「女の子と二人で出かけるの、慣れてるの?」

「いや、初めてだな」

「……ふーん」


 なぜか嬉しそうに微笑んで、すぐそっぽを向く。

「なに?」

「別に。なんでもない」


 そのあと、カフェに入って軽くお茶をする。

 話す内容はくだらないのに、なぜか楽しい。

 黒瀬が少しずつ笑うようになっているのが、何よりも嬉しかった。



 帰り際、駅の階段の上。

 電車が来るアナウンスが響く。


「今日はありがと。……その、楽しかった」

「俺も」

「デートじゃないけどね」

「うん、デートじゃない」


 二人で笑う。

 でもその笑いの奥には、確かに何かがあった。


 電車が来て、黒瀬が一歩踏み出す。

 その瞬間、振り向きざまに──


「……また、誘ってもいい?」


 言葉が風に溶けていく。

 扉が閉まり、電車が走り出す。


 残された俺は、呆然と立ち尽くしていた。

 笑いながら、胸が妙に痛くて、でも温かかった。


「──デートじゃない、か。

 どこがだよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ