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俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。  作者: 甘酢ニノ
第1章 彼女いない歴=年齢だけど、ツンデレが隣にいた件。

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11 涙と怒りの、その意味

文化祭当日。

教室は人でごった返し、装飾もにぎやかに仕上がっていた。


「黒瀬、こっちのポスター貼り直してくれ!」

「了解。……あんた、もうちょっと丁寧に貼りなさいよ」


 いつも通りのやりとり。

 でも、昨日の夜の“あの出来事”が頭をよぎって、

 なんとなく、言葉の一つひとつが照れくさい。


 黒瀬もそれを意識してるのか、少し視線を合わせてくれなかった。



昼を少し過ぎたころ。

クラスの出し物の“お化け喫茶”は好評で、廊下には人の列ができていた。


「すごいじゃん、黒瀬。行列できてる」


「まぁ、私の看板デザインが良かったからね」


「自信満々だな」


「事実よ」


 ツンだけど、どこか楽しそう。

 そんな空気の中で、俺は久々に“いい時間”を感じていた。


 ──が。


 突然、悲鳴のような声が上がった。


「ちょっ、机の脚、折れた!?」


 慌てて振り向くと、黒瀬が置いていた展示物(ガラスの小道具)が傾きかけている。


「危ない!」


 思わず駆け出して、支えようとした。

 でも勢い余って、黒瀬の腕を掴んで倒れこむ。


 ドンッ。


 俺の腕の中に、黒瀬。

 教室中が一瞬静まり返る。


「……っ、な、なにしてんのよ!」


「わ、わざとじゃない!」


 慌てて立ち上がる俺の腕を、黒瀬がぴしゃりと払った。


「恥ずかしいでしょ、あんなの!」


「いや、本当に危なかったから──」


「そういう問題じゃない!」


 声が、震えていた。


 周りの視線。クラスメートの笑い。

 黒瀬の肩が小さく震えて──


「……なんで、あんたは、いつもそうなのよ」


「……え?」


「何も考えてないくせに、勝手に突っ走って。

 助けてくれても、こっちは……っ」


 言葉が詰まり、

 黒瀬の目に、ぽつりと涙が浮かんだ。


「こっちは……怖いのよ」


「怖い?」


「……心臓が、変なふうに鳴るから」


 教室がまた、静かになる。

 黒瀬は俯いて、震える声で続けた。


「そんなの、知らないのに……どうして、あんたなんかに……」


 そこまで言って、唇を噛みしめた。

 涙が一粒、頬を伝って落ちる。


「……ごめん」


 俺はただ、その一言しか出せなかった。


「……謝らないでよ」


 黒瀬が顔を上げた。

 目の端に涙を残したまま、少し笑って言う。


「……謝られると、泣けなくなるでしょ」


 その笑顔があまりに綺麗で、

 俺は何も言えなかった。



 放課後。

 教室の片隅、夕日が差し込む中で、黒瀬がぽつりと呟いた。


「……ありがと。さっき、守ってくれて」


「いや、俺の方こそ、ごめん。無茶して」


「ううん。……相沢、らしいと思った」


 黒瀬は目を伏せて、少し照れたように微笑む。


「次、何かあっても……もう少し優しく、守ってよね」


 そう言って立ち上がると、

 夕日の中に溶けるように出て行った。


 俺はその背中を見つめながら、

 胸の奥に芽生えた“好き”という言葉を、

 まだ飲み込むことしかできなかった。

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