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俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。  作者: 甘酢ニノ
第1章 彼女いない歴=年齢だけど、ツンデレが隣にいた件。

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10 夜の教室と、隠してた素顔

「……鍵、開かないな」


「やっぱりね」


 ドアノブを回す音が、虚しく響く。

 校舎の外はもう真っ暗。廊下の蛍光灯だけが淡く光っている。


「職員室に誰かいればいいけど……」


「多分、もう帰ってるわね」


 黒瀬はスマホを取り出して、ため息をつく。

 画面には「電波なし」。

 ――マジか。


「一応、連絡してみる?」


「無理。圏外」


「……映画かよ」


「静かにして。怖くなるじゃない」


 いつもより、声が小さい。

 完璧超人・黒瀬葵の、珍しく頼りないトーン。


「……別に、怖いわけじゃないけど」


「今、完全に“怖い”って顔してたぞ」


「してない!」


 強がる彼女の頬が、ほんのり赤い。

 窓の外では風がごうっと鳴り、木の枝が影を揺らす。


 気づけば、二人の距離は机ひとつぶん。


「……ていうか、なんでこんな時間まで残ってたの?」


「リボンの確認。あんたが結び方下手だから」


「おい」


「冗談よ」


 黒瀬が笑う。

 その笑顔が、教室の明かりに照らされて少し柔らかく見えた。



 時間が経つにつれ、だんだん静かになっていく校舎。

 時計の針が、カチカチと音を立てている。


 黒瀬は自分の腕を抱くようにして、ぽつりと言った。


「……暗いところ、あんまり得意じゃないの」


「え?」


「小さいころ、停電の時に一人で部屋に閉じ込められて。

 それから、ちょっとだけ……怖い」


 そう言って、視線を落とす。

 黒瀬がこんな風に“弱音”を吐くのは、初めて見た。


「……じゃあ、今も結構怖い?」


「……少しだけ」


 ほんの少しの沈黙。

 俺は迷った末に、机の上のランタン型の照明をつけた。

 柔らかな光が広がる。


「これなら、ちょっとはマシだろ」


「……うん」


 黒瀬の表情がふっと緩む。

 光の中で、彼女の髪がきらりと光った。


「ありがと。相沢」


「お、おう」


 “相沢”を、やけに優しく呼んだ気がして、心臓が跳ねた。


「ねぇ」


「ん?」


「……あんたってさ、意外と優しいのね」


「意外と、って何だよ」


「だって、いつもヘラヘラしてるから」


「ひどいな」


 黒瀬が小さく笑って、机に頬を乗せた。


「……ねぇ、ちょっとだけ、こうしててもいい?」


 光に照らされた横顔は、いつもの“完璧”じゃなかった。

 ただの、年相応の女の子の顔。


「……ああ」


 俺は、黙ってうなずいた。

 教室の外では、秋の風がそっと鳴っていた。



 十分後。

 ガチャ、とドアの音がして、用務員のおじさんが顔を出した。


「おい、お前ら。まだ残ってたのか」


「す、すみません!」


 慌てて立ち上がる俺たち。

 黒瀬は少し照れくさそうに笑い、髪を耳にかけた。


「……変な夜だったけど、悪くなかったかも」


「そうか?」


「うん。あんたと一緒だったから、かな」


 その言葉に、

 俺の心臓が一瞬、止まった気がした。

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