出会いは突然で必然も失恋確定
「あの、ミシェルさん。放課後、お話しがあります」
「はい」
放課後、中庭に呼ばれたミシェル。目の前には1人の女性がいる。キリッとした目元に黒い髪をきっちりと結い上げる彼女はこの国の宰相の娘のアマンダだった。彼女の目的は、ある情報の真相を確かめるためだった。
「初めましてミシェルさん、先日カフェで男性の方とお茶をしている所を見まして、その方とお付き合いしてるのですか?」
「お付き合い?恋人ではないのです。彼は私の命の恩人なんです。彼の恋人だなんて恐れ多いですわ」
恥ずかしそうに話するミシェル。
「命の恩人?ミシェルちゃんはその人とは何時何処で出会ったのかしら?」
(アマンダ様、急に『様』から『ちゃん』に変わったわ)
「半年程前でした。街で兄のプレゼントを購入していたら突然怖そうなお兄さん達に囲まれてしまったのです。その時、助けてくれたのがシリルさんなんです。それから、時々会う事があってお茶をしたり、一緒に図書館へと行き本を読んだりしてます」
あの日を境にシリルとは偶然会うと一緒にお茶を飲み、本屋や図書館へと行くようになっていたのは事実だが恋人ではない、決して結ばれる事のない片想いである。
「あのアマンダさん?シリル様をご存知なのですか?」
「えぇ……まあ、ベンチに座りましょう」
「はい」
中庭のベンチに座る2人。
夏の日差しに当たらないように日陰のベンチを選ぶ2人、時折涼しい風が2人を包み込む。
「はぁ、いい天気ですね。アマンダ様」
「そうね、ミシェルちゃん」
「………………あ」
「いいのよ。ミシェルちゃんといると穏やかな気持ちになれるわ。今日は突然声をかけてごめんなさいね。シリル……はね、私の婚約者なのよ。まだ近しい人にしか報告はしていないけど」
「え、シリルさんはアマンダ様の婚約者?」
「えぇ」
「でも、シリルさんは貴族ではないですよ」
「シリルは平民と言った?」
「平民だと教えてくれました」
(彼は平民出身の近衛騎士だからね。私との婚約も彼の身分をあげる為だからね。そうね、一度シリルにも会って確かめる必要があるわ)
「ミシェルちゃんは、彼の職業を知ってる?」
「いいえ、彼に言われたのです。仕事や家族については教えられないと。なので私も彼には家の事や仕事については聞いてませんし、私も家の事は話してないのです。知らなかったとはいえ……大変失礼しました」
見るからに落ち込むミシェル。その様子を見るアマンダ。
(シリルは近衛騎士団の副団長だとミシェルちゃんには伝えていないのね……まさか本気でミシェルちゃんを狙っている?いやいや、あの女たらしのシリルが?まさか既に身体の関係もあるのかしらシリルならあり得るわね。しかし……ミシェルちゃんは可愛らしい見た目とは違うのかしら)
「彼とは、どこまでしたの?」
「何を?」
「例えばキスとか、それ以上とかよ」
「…………あの……いや……お友達なので。恋人同士がするような事はないです」
「え?お友達?本当の事を言っていいのよ」
「はい。一緒にお茶を飲んで、図書館で本を読むだけの関係です」
「シリルの見た目は?彼はいい男でしょ?」
「見た目ですか?あまり気にした事はないのですが……眼鏡がとても似合ってます」
モジモジと赤い顔で説明するミシェル。
(付き合っていない……。確かに報告書には図書館やカフェのみで2人きりになる場所には行ったとは書かれていない。しかし……他にも最近は夜の交友関係もないとあったわね。あの女たらしのシリルがお友達?うそ……うそ……うそ……王都の女性の多くが一夜の相手にと求めるシリルがお友達……。近衛騎士で1番顔がいい副団長のシリルがね……くっくっくっ……シリルは本気でミシェルちゃんを狙ってるわね)
「アマンダ様?」
「好きなのね。彼の事」
「あの……その……彼とは、もう会いません。お友達も終わりにします。だから、両親と兄に迷惑をかける訳にはいかないのです。この通りです許してください」
突然、ベンチから立ち上がり、アマンダの前に立ち、その足元で土下座するミシェル。
「え……待って、ミシェルちゃん……聞いて。土下座はやめて。私と彼は政略結婚の予定で互いに好きとかはないのよ。彼とは趣味が合わなくてね……彼は小説や可愛い物が好きでしょ。私とは正反対なのよ」
(ミシェルちゃんも可愛いに含まれているわね。顔も含めてシリルは私のタイプではないのよね)
アマンダはミシェルの手を取り立ち上がらせる。膝についた土を綺麗なハンカチで拭いてくれる。
「あの大丈夫です。大切なハンカチゆ汚してしまいすいません。アマンダ様は宰相様の娘さんだから国の為になる結婚なのですね。私とシリルさんは男女の関係ではないのです。でも彼には……あの……そのですね」
「ミシェルちゃん? シリルには恋人がいるのでしょう? 知ってますよ。それでも婚約しているのは家の為であるのよ。彼の恋人には申し訳ないけど、彼も私達の事情を知ってるわ彼が望むなら恋人も受け入れる覚悟ですわ。 私も愛し愛される夫婦が理想ですけど」
「そんな……アマンダ様はお綺麗で素敵な女性なのに恋人がいる人と結婚しなきゃいけないの?」
「ありがとう。 いいのよ、宰相の娘の役目だと思ってますから」
「………………」
「………………ミシェルちゃんはシリルの恋人になりたくないの?」
「シリルさんの恋人さんとも何度もお茶してますの。お姉さんみたいな素敵な人なんです。私にも、そのうち婚約者ができたらシリルさんと会う事はなくなりますわ」
「…………片想いなのね」
「あの……そうです私の片想いです。そろそろ、兄が来るので失礼します」
「待ってミシェルちゃん……今……お兄様が来ると?」
「はい、そうです。……兄は見た目は大きくて厳つい顔をしてますが強くて優しい自慢の兄なのです。あの見た目のせいで恋人もいないのです。私が兄と結婚したかったです」
(ミシェルちゃんの兄ダミアン様の事も調査済みよ。騎士団副団長のダミアンはシスコンで有名だ。私より6歳上の24歳で恋人はいない。趣味は筋トレと訓練、そして猫が好き)
「そうよね〜本当は私も逞しい素敵なダミアン様と結婚したかったですわ…………。はっ、ミ、ミシェルちゃん今のは忘れて」
(思わず話してしまったわ。私はミシェルちゃんのお兄様のように逞しい殿方が好きなのよ。いやお兄様の様なではなく私が好きなのはミシェルちゃんのお兄様よ。あの逞しい身体、よく見たら顔もいいのに……シリルのようなヒョロヒョロな男はタイプじゃないのよ)
「ん?アマンダ様?」
「なんでもないわ」
「アマンダ様はあのゴリラみたいな身体の男性が好きなんですか?」
「ゴリラかはわからないけど、逞しい身体の殿方は好きよ」
「あの……アマンダ様……本気で言ってますか?」
「えぇ……」
赤い顔で答えるアマンダ。
「私の兄は……とっても素敵な人なのに、あのデカさが世の女性を退けているだけなの。今日は、兄が迎えに来るので早速教えないと、アマンダ様はゴリラ界の希望の星だわ。アマンダ様のお知り合いでゴリラが好きなの女性がいたら教えてください」
「ミシェルちゃん?私は、ゴリラが好きなのではないからね。逞しい身体の男性が好きなのですからね」
(顔がゴリラはちょっとね……)
「はい。よく見ると兄の顔は素敵ですのに、中々理解してもらえないのよ。私のお友達は兄が大好きなのですよ。妹としか見てもらえなくて寂しがってますの。兄はどんな危険からも守ってくれそうな……守ってくれる男ですわ」
(ダミアン様は以外とモテているようね)
「お〜い。ミシェル帰るぞ」
遠くでも良く通る声とデカい身体の男、ミシェルの兄のダミアンだ。騎士団に所属しており、仕事帰りの為に騎士服を着ている。
「あぅ……騎士服のダミアン様」
「兄の騎士服姿はカッコいいの私の自慢の兄なのよ」
「ミシェル、帰るぞ……。おやアマンダ様、うちのミシェルが何か粗相を?」
「いえ……あの……」
「……お兄ちゃん、アマンダ様とはお友達になったの。アマンダ様も一緒に帰ってもいい?」
「おう、いいぞ」
馬車に乗り込む3人は和気藹々と話に花を咲かせていた。
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