塩谷くんは塩対応
さっきまでは優しく微笑んだり話してくれたり、接しやすかったのに……教室で私が見ている塩谷くんはまるで別人みたい。
受け答えは最低限、周りの人達の顔も一切見てないし、表情も硬くて全然楽しそうじゃない。
さっきのと今、どっちが塩谷くんの素なんだろう……。
「今日は座れてたわね。良かったじゃん」
「うん、塩谷くんが気を遣ってくれたみたい……」
亜子ちゃんは、休み時間の度に私の席に来てくれる。朝休み以外も、塩谷くんは席を立っている。
教室の後ろの方、誰の席もない場所に行っているから、みんながそこに集まっている。
「えぇ、あいつが!?」
そうだよね。みんなが知ってる塩谷くんは、とっても塩対応。私だって、昨日までそうだったよ。
亜子ちゃんは信じられないという顔をして、囲まれている塩谷くんを見つめる。
「結構優しい人だよ。話しやすいし……」
「そうなんだ……でも私はちょっと信じられない」
「あはは……」
塩谷くんに疑いの目を向ける亜子ちゃん。
本当に、優しい人なんだよ。分かってもらいたくて、今日の朝の出来事を話した。
「紗友、図書室によく行ってるわよね。他にも利用者いたんだ」
「うん。読書はしないみたいだけど……」
いつも寝てるって言ってたし、お昼もあそこで食べてるみたい。
私は亜子ちゃんとお昼を教室で食べてから図書室に行くから、気付いてなかったんだ。
「塩谷くん、登校遅かったよね? 何してたの~?」
1人の女子が、塩谷くんにそう聞いた。まぁ、普段から早く登校してるのに、急に遅くなったら不思議に思うよね。
塩谷くん、なんて返すんだろう……。
「寝坊」
短く、それだけ言った。でも、女子達は答えてもらうだけで嬉しいみたい。過剰に喜んで返事をする。
「あんな塩男のどこかいいんだか……」
亜子ちゃんは、少し呆れている。
あんまりイケメンとか、アイドルとか、他の女子が盛り上がるような話題には興味がないみたい。
「昼休み、いつもどこ行ってるの?」
さっきとは違う子が、また塩谷くんに質問を投げかけた。
塩谷くん、図書室って言っちゃうのかな……。
そう思っていたけど、塩谷くんは答えなかった。言わなかったことに対して、私は安心していた。
図書室は、私と塩谷くんのお気に入りの場所だから。
お昼休み、いつもなら亜子ちゃんと食べるんだけど……。
「本当に良いの?」
「うん! いつも私と食べてるし、たまには別の人と食べなよ」
「分かった、ありがとう!」
他のクラスの友達に誘われたらしい亜子ちゃん。私と食べるから断ろうとしていたみたいだけど、いつも独占しちゃっているし……。1人はちょっと寂しいけど、今日くらい大丈夫。
塩谷くんは、図書室には行かずに教室で食べている。それが珍しくて、より一層、みんなが集まる。
塩谷くんが図書室にいないなら、図書室で食べようかな。
お弁当を持って、教室を出る。鍵は開いていないだろうから、職員室で鍵を受け取った。
「ここにしよう」
やっぱり、窓際が暖かくて落ち着く。風が強いから、窓は閉めてカーテンを開ける。差し込んだ光が、眩しい。
「いただきますっ」
寂しさを紛らわすために、声に出して言った。
今日のお弁当、いつもより美味しくできてる。
親が共働きで忙しいし、学食も混むから、お弁当は自分で作っている。家も遠いし、その分早起きしなきゃだけど……上手く作れた日は、食べるのが楽しみになるし、上達すると嬉しい。
亜子ちゃんに今日も凄いねって褒められると、もっと嬉しくなる。
お母さん達は負担かけてごめんねって謝るけど、結構楽しいから私は好き。
「佐藤さん」
お弁当を半分くらいまで食べたとき、図書室に入ってきたのは塩谷くんだった。