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以て血を

雑記

作者: 志摩鯵




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狩人の夜ワイルドハント

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狩人の夜ワイルドハントは、オーディンが戦死者エインヘリアルを率いているものと信じられた。

それは、災害や戦争などの不吉の前兆。

あるいは、目撃者の死の予兆と信じられている。


ここでいうWild(ワイルド)は、「支配できない」という意味合いに当たる。

つまりあの世の存在であって何者にも束縛できないものという意味だ。


ワイルドハントの統率者リーダーは、オーディン以外もいるとされ、例えばグイン王、アーサー王、フォンテーヌブローの大猟師グラン・ヴヌールなどの伝説上の人物だがヘルレ王もその一人である。


イングランドの伝説の人物、ヘルレ王は、妖精の王に招かれて妖精の国を訪れた。

彼が妖精の国に逗留した期間は、3日間だが外の世界では、200年が過ぎていた。

イングランドからブリトン人が追い出され、サクソン人の王国に変わっていたのである。


獣の狩人も時代を超越することがある。

《夢の門》を潜り次元を飛び越える狩人は、時代の異なる狩りに参加すること。

あるいは、遠い時代の人物にまみえることもあるのだ。


そのため狩人の時代は、服装ファッションで区分される。




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『前時代』

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狩人の騎士団(Chivalric Order of the Chasseur)結成以前の時代。

()()()()()()()()()6世紀ごろから狩人の伝説は、大ヴィン島の各地で伝えられている。


この時代の獣狩りは、領主が領民を狩るのが常であった。

つまり竜心院ドラクールのドラキュラたちの時代である。


貴族にとって領民の安全を保護するのが支配者の務めである。

従って獣になった人間を殺すのは、支配者の特権であり義務であった。


変形する「仕掛け武器」こそないものの、その原型はすでにあった。


神話や伝説に着想アイデアを得た聖槍や聖剣に準えた武器である。

長い柄を取り外せば槍は、剣として扱うことができた。


獣は、建物の中や森の奥のような狭い場所でも遭遇でくわす。

咄嗟に扱える武具、様々な状況に対応する武器が求められたのである。


兵士に配るものではなく貴族が個人で扱うなら、そういうことも可能だった。

これが「仕掛け武器」の源流である。


ドラキュラは、15世紀以前の人物であり特に奇妙な服装をしている。

つまりギザギザの襞襟(エリザベスカラー)半ズボン(キュロット)膨らんだ袖(バルーンスリーブ)、コッドピースである。




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三角帽子トリコーンの時代』

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”ソーベリックの人喰い鬼”ヴェロニカの時代。

私たちの世界でおよそ17~18世紀ごろにあたる。

騎士団オーダー成立時期にあたる。


当時、産業革命に伴い都市部に農村から人口が密集するようになった。

この結果、獣の存在を隠し切れなくなったため大規模な組織化が始まる。


そこで六本指シックスフィンガーと呼ばれる6人組の狩人。

すなわち初代総長と四大支部の院長、そして一人の異邦人が騎士団オーダーを結成した。


この時代の狩人は、三角帽子や辮髪のカツラを着用し、クイーン・アン・ピストルのような燧石式フリントロック拳銃を差し、ロングコート(マントは着いてない)を着こんでいる。

また言葉が訛っているのも特徴で裕福な階級の出身者が大半を占める。




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絹高帽シルクハットの時代』

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正直者オネスト”ジョハンの時代。

私たちの世界でおよそ19世紀ごろ。

―――ヴィクトリア朝時代に相当する


大ヴィネア帝国は、世界中に版図を広げ、パックス・ヴィネアと呼ばれる時代が到来。

技術面では、複動式蒸気機関や自動車、電気器具の発明が起こる。


社会もイングルナム公ジョハンが首相に就任し、帝国全体が活力を得ていた。

新技術によって石炭の採掘量が倍増し、世界中と貿易を進めて経済が好調に成長。

人口も3倍に増え、あらゆる分野でヴィン帝国が最盛期に達している。


この時代の狩人は、特に美意識が強い。

シルクハットは、彼らの紳士然とした振る舞いの一つの象徴である。


室内で帽子を脱がないのは紳士ではないが、もしシルクハットがなくとも帽子を被らないのは、人たる努力を為さぬ獣とさえうそぶくほどであった。


この時期にノコギリ刃、杭打機パイルバンカー、発火装置、雷撃装置、血刃などの「仕掛け武器」も誕生している。

まさに狩人にとって黄金時代と呼ぶべき100年間である。




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頭巾フードの時代』

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私たちの世界でおよそ20世紀初頭、1930年代。

”最後の狩人”ジョン・ハンターの時代。


大ヴィネア帝国は、最盛期の繁栄を過ぎ、衰退の一途を辿っていた。

我々の世界でWW1(第1次世界大戦)や世界恐慌が起こったように、この物語の世界でも壊滅的な事件が発生したためである。

―――全ての意味でこの世界を襲った悲劇の方が壊滅的だったのだが


この時代の狩人は、目深いフードを被っているのが特徴である。

また装飾の少ない服装をしており、全体的に地味。


世界に何が起こったのか。

騎士団や四大支部がどうなったのか。

この時代の狩人は、黙して語ろうとしない。


分かっていることは、ただ一つ。

ジョン・ハンターを最後に新しい狩人が姿を現していないということだけである。


それが獣狩りの終わりを意味するのか。

あるいは、全人類の死滅を意味するのか。

単に狩人が姿を消してしまったのか。




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『工房の起源』

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狩人の工房は、獣狩りの始まりと共にあった。

多くの人々は、そう信じている。


しかし工房は、いつ誰が組織したのか分かっていない。

狩人と工房の()()は、狩人の夢の家と呼ばれる特殊な多元世界のみである。


故に彼らは、魔女ヘックス=”壁を乗り越える者”と考える人もいた。

つまり異世界の技術者集団である。


魔女の集会(サバト)は、狂った夜(ワイルドハント)の派生だと考えられている。

つまりキリスト教徒から見て異教の神や妖精、悪霊が集まる夜に生身の人間の異教徒が参加する儀式と考えられた。


魔女は、そこで悪魔や戦死者ベルセルクと性交し、霊的な繋がりをる。

あるいは、神々の子を妊娠すると考えられた。


工房は、獣狩りの狩人の要望に応じて「仕掛け武器」を作り続けて来た。

従って工房の歴史は、その武器や仕掛けの特徴で区分される。




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『ノコギリ刃の時代』

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私たちの世界で1780年代。

騎士団の結成後、工房が「仕掛け武器」を考案し、はじめてノコギリ刃を着けた。


変形機構は、素早く様々な状況に対応するべく設計された。

これは、場所を選ばず起こる獣との遭遇戦に備えるためである。


変形する武器そのものは、長らく狩人の熱望するところであった。

しかし精密な部品の工作精度を得るには、産業革命を待つ必要があった。


また騎士団結成により、貴族向けの少数生産から大量生産に切り替わったこと。

これによって規格化された部品を入手し安くなり、整備性が向上した。


さらに騎士団を通して獣の情報を元に対策を建て、設計する試みが始まった。

これに伴い武器を設計する職人、手入れする職人、作る職人など分業制が確立。

工房自体の組織が大きくなり、より複雑な作業に対処できる能力ができた。


これら複数の要因が重なり、血に塗れた「仕掛け武器」文化が花開いたのである。


ノコギリ刃は、武器にギザギザの鋸歯を作ること。

これは、瞬く間に狩人に流行した。


一説では、獣の傷が容易く塞がらないようにする工夫と信じられている。

あるいは、より残虐な死を獣にもたらすためと考えられた。




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『補佐官の時代』

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工房にもっとも影響を与えた狩人が血統鑑定局ブラッドウォッチ補佐官コンシリエーレである。


補佐官は、厳密には騎士団の狩人ではない。

血統鑑定局が「仕掛け武器」を依頼するのは、直属の人形工房ドールショップである。


しかし補佐官の依頼は、工房に任された。

これは、人形工房の作る「仕掛け武器」が補佐官の好みに合わなかったためである。


工房にとって1800年代は、補佐官の時代と呼ばれる。


補佐官は、とにかく巨大で重い武器を望んだ。

これは、補佐官が相手に選ぶ巨大な獣に対抗するためである。


補佐官の依頼で工房は、様々な武器を開発した。


蒸気機関で杭や槍を押し出す杭打機パイルバンカー

打ち付けると爆炎を噴射する発火装置。

青白い電撃を纏い、獣に放つ雷撃装置。


これら三機構は、この時代に「仕掛け武器」に組み込まれた。


しかし補佐官は、すぐにそれ以上に大きな装備を望んだ。

結果、装備の巨大化は際限なく続き、最終的に長身砲を3つまとめて連結させるところまでいっている。


工房は、補佐官の要望に応えるべく次々と大型武器を試作。

その一部は、他の狩人に配られた。

これは、狩人の戦型スタイルにも影響した。


従来の狩人の踏み出し(ステップ)より長距離を一歩で移動する補佐官の踏み出し、ワイヤーを使った移動、複数の拳銃を次々に持ち替える戦い方などである。




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『日ノ元主義の時代』

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1870年代。

工房は、大聖日元帝国から刀鍛冶を招聘し、作刀に着手する。


補佐官の時代が大型武器の熱狂だとすれば、この時代は、流麗な刃への恋慕であった。


工房が目を付けたのは、雪鋼きよはがね常雷とこいかずち不尽ふじんなどの特別な鋼である。

これらは、それ自体が冷気や雷火を纏っていた。

それらを加工して作られた刀は、武器として最上の性能を備えていたのである。


しかし希少な金属で鍛造される刀は、特注品だけ。

それ以外は、普通の鋼鉄から打ち出した普通の刀剣に過ぎなかった。

―――それでも機械で大量生産されるサーベルより上質ではあった


有態にいって日ノ元主義の時代は、自分が打った刀に自分の銘を残すという職人の自己満足と珍しい希少な武器を持ちたいという狩人の虚栄心が生み出した流行であった。




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『獣狩りの終わり』

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”最後の狩人”ジョン・ハンターの時代。


この時期に入ると工房は、古い時代の装備の生産を打ち切る。

以降、構造が単純で整備性の高い装備に絞った生産に切り替えている。


また大量生産体制に移行し、個人向けの贅沢な「仕掛け武器」は、開発されなくなっている。


この時期の「仕掛け武器」の特徴は、華美な装飾が失われたことである。

工業製品のようにシンプルな見た目になり、狩人の尊ぶ美意識は、失われている。


反面、性能そのものは格段に向上している。


これまで宿礼院ホスピタルが独占していた自動式銃火器が標準になった。

また集弾率も上がって命中精度も良くなり、射程も長くなっている。

さらに発砲しても煙の出ない無煙火薬が広まった。


ただし血を水銀弾に混ぜなくなったことで血質に左右されることが無くなった反面、際立った効果も得られなくなっている。


「仕掛け武器」も軽く小型化され、耐久性も向上している。

強力な杭打機パイルバンカーや発火装置、雷撃装置。

あるいは、2つ以上の機構が組み込まれ、重く大きな武器が必要なくなったためである。


前時代は、火を噴く武器、雷撃を纏う武器と機構は、1種のみであった。

だがこの時代には、一つの「仕掛け武器」に複数の機構を組み込むことが可能になっている。




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『悪夢』

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竜心院ドラクールのドラキュラたちは、百年以上を生きる狩人である。

―――戸籍上、ドラキュラは死んだことになっている


生は、意識の連続。

死は、意識の断絶。


覚えていることは、現実になかったことでも本人の記憶では、現実の出来事。

覚えていないことは、現実の出来事でも本人の記憶では、なかったことになる。


複数の次元や世界線、多元宇宙を移動する狩人は、自分の死さえ()だったことにできる。

しかし夢にる狩人は、悪夢を見る。


悪夢は、悲惨な体験を送った人間が作り出す世界である。

それらは、普通の人間にとって一夜の出来事。

だが狩人の場合、悪夢から目覚めない場合、消滅を意味する。


このため獣狩りを達成しても悪夢に堕ちる狩人は、少なくない。

ドラキュラは、幾つもの狩りを為し終え、かつ悪夢から帰正きせいできる実力者である。




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『血質』

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最初の人間、始祖たるアルスに近い血統であること。

―――そう信じられている


血統鑑定局が定める基準で詳しい内容は、明かされていない。

一定の数値を下回ると死刑になる。

逆にこれを満たすものを一等人種ファーストボーンと呼んだ。


狩人は、一等人種の中でも高い血質を持つ人間で占められている。

特にドラキュラは高く、また高い血質を維持するために近親婚を重ねているとされた。


自然、ヴィネア人は、全員が一等人種である。

過去に血質を理由に国王が処刑されたため血統鑑定局は、玉座の上に君臨する死神と綽名されるようになった。


なお二等人種だとか劣等人種という言葉は、存在しない。

一等人種という言葉があるのみで血質が基準を下回れば獣化していなくとも()とされたのである。




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