宴会にて
昼食後、ブッチョンが自由に滑りに行き俺は変わらず森崎たちを教えていると、あれよあれよと終わりの時間はすぐにやってきた。
一日中滑るとさすがに疲労を覚えた。早く宿に戻って風呂→夕食のコンボを味わいたい。
疲労と空腹という最高のスパイスを抜きにしても、食事、風呂、ともに大満足だった。この宿を選んでくれた同期の女子たちありがとう。
卓球大会はさすがに日中で疲れたのか参加者は少なかった。ブッチョンは文句を垂れていたがしかたあるまい、賞品も部室にあるOBの遺産であるゲームソフトじゃ集まるものも集まるはずがない。ただのゴミの押しつけじゃないか。
義理で参加した俺も三位になり賞品をもらったが、ソフトがあっても肝心のハードであるゲーム機が家にないので帰ったら部室に戻しておくことに決めた。
こうして卓球大会はグダグダのうちに幕を閉じた。
「明日のことは気にするな!今日をとことん楽しもう!乾杯!」
本日の締めである宴会は、ブッチョンの乾杯の合図とともにみんなエンジン全開で始まった。
森崎の懸念通り、誰も夏の反省をしていない感じが非常にする。……もちろん俺も。先輩の義務としても盛り上げなければいけないし、ノリ悪いと言われて黙っていられる性格ではないのだ。それでも森崎にガッカリされたくはないので、トバすのは始めのうちだけにしておこう。幸い酒には強いため、たとえペースが速くとも始めの数時間で潰れる心配はない。
あっと言う間の数時間がたつと、宴会場は数人グループの島がいくつかできあがっていた。気が早い何人かはとっとと明日に備えて眠りに戻ったが、まだまだこれからが本番のぶっちゃけトークの時間なので大半は寝るのを惜しんでいる。
俺のいる島は福島・ブッチョンそして俺の3人で、今はチビリと酒を進めていた。
唐突に福島が話題を変え俺に切り出してきた、
「お前、最近森崎とケンカした?ってか怒らせた?」
さすが福島、俺と一緒にいる時間が大学に入ってから一番長いだけのことはある。付き合っているとは思われていないようだが、よく見ている。
「別に、なんで?」
「いや、お前森崎にあんまり絡まなくなったろ。だから」
「あ、俺もちょっと思ってた」とブッチョン。「サークルの雰囲気悪くなるからやめろよ」
さて、どうしたものか。ブッチョンは部長になったからとにかく、福島も夏の反省があるのかそれほど酔っていない。適当に流すのは無理そうだ。
俺はコップの酒を一口含んで一気に乾いた舌を湿らせた。
「ケンカはしてない、ってかこの歳でケンカもないだろ。だけどもしかしたら何か言って怒らせたのかもしれない。くだらないことばっかり言ってたから」
「何言った」
「わかんね、今までいろいろ言っちゃてるから覚えてない」
嘘をついた。森崎と話した内容を俺は忘れない。
「ケンカってよりも、よそよそしい感じだよな」
「それだ」
「そうかぁ?」
「そうだよ、確かにケンカって感じじゃないな。自分で言っておいてアレだけど森崎が怒ってるってのも何か違う気がしてきた」
「自覚ないのか」
「ない」
「それじゃ本人に確かめてみるか」
「えっ」
バカ、何言ってんだ。
「森崎~、ちょっと来て」
止める間もなかったし、変に止めると二人に突っ込まれる危険が伴うため、俺にはどうしようもなかった。
違う島で飲んでいた森崎がこちらに振り返る。
福島とブッチョンが手招きし、森崎がコップを持ち膝歩きでこちらに加わった。
「どうかしました?」
「森崎ってさ、こいつとケンカとかした?」
森崎の目が俺に向けられる。
「俺たち普通に仲良いよな?俺が怒らせたりしてないよな?」
極めて普通を装って俺は訊いた。目では合わせてくれと頼んだ。
「わたし別に先輩に対して怒ってないですよ。ケンカもしてませんし、普通じゃないですか?」
さすが森崎、素っ気ない!
「だけどこいつと話しているとこ全然見なくなったけど」
おい福島、しつこいぞ。
「確かにそうですね。だけどそれは先輩がわたしに話しかけなくなっただけじゃないですか?わたしから先輩に話しかけることなんてほとんどありませんし」
「確かにそうだな……」
福島とブッチョンは妙に納得して頷いた。なにそれ、そんなに俺の一方通行に見えてたわけ?
「といことは原因はお前か。何があった」
わたしはうまくやってみせましたよ、と森崎は目で語ってくる。
「実は……好きな人ができたんだ」
次で最後です。