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リフトで

  みんながハの字で一応滑れる(ただし超スロー)ようになると、俺は「リフトに乗ってみるか」と提案してみた。躊躇いは多少あったが「せっかくだし」と初級コースに挑戦してみることで意見は一致した。この傾斜なら腰が引け、びびって動けなくなることもまぁないだろう。

 そしてリフトは思惑通りになった。

 「森崎が一番下手っぴだから俺と乗りな」

 異論は出るはずがない。文句なしに森崎は一番下手だったからだ。

 リフトに乗る瞬間の意外なほど強い勢いに初体験組は少し慌てたが、なんとか全員無事に乗れた。あとは降りるまで平和だ。各自景色を味わいましょう。

 もちろん俺は景色を楽しむどころではなく隣の森崎を意識しまくっていた。

 「森崎、スキーウェア似合ってるよ」

 「先輩、ホントに上手いんですね」

 リフトに乗るとそこは二人だけの世界、外にいながら誰にも話を聞かれることはない。……なのに褒めてもスルー、悲しいです。だからといって拗ねても何も始まらない。

 「雪国育ちだったからね、冬は家族でスキー、学校でスキー合宿とかもあったし。嫌でも滑れるようになるよ」

 これは本当だ。俺が住んでいたところは平野部でそれほど雪は積もらなかったが、車で一時間ほど走ればスキー場はいくらでもあり、遠足のようなノリで何度も連れて行かれた。

 「わたし、すごい下手ですよね。自分でも結構ショックです」

 「誰だって初めては下手だよ。俺だって初めてのときは転びまくったし、ブッチョンたちだってそうだったはすだよ」

 「けどわたし、先輩に一番下手って」

 やばい、リフトに乗るときの発言だ。傷つけたかもしれない。

 「それは、作戦であって。森崎とこうして一緒にリフトに乗りたかったから」

 「やっぱり。そうだろうと思いました」

 「マジ?」

 「確かにわたしが一番下手ですから一緒に乗るのは妥当だと思います。だけど先輩のことですもん、きっとそういう意図もあるだろうなとは思ってました」

 「そりゃそうだろ、俺は森崎のこと好きなんだからっ」

 なんだよ、森崎は一緒に乗りたくなかったのかよ。みんなといるときはそこまで距離空けないと駄目なのかよ。付き合ってるんだからさ……。

 「嬉しいに決まってるじゃないですか」

 ガタンガタンと鳴るリフトの音がひどく邪魔に感じた。

 「二人で来たかったくらいです」

 まただ。また森崎得意の不意打ちだよ。

 「……うん」

 いつになったらこの不意打ちに慣れるんだ。――嬉しすぎにより俺の返事はどもってしまった。

 その後降りるまでのリフトは、時折佐織ちゃんたちが乗る後ろのリフトに手を振るだけでお互い無言だった。だけど、決して気まずい沈黙ではなかった。



 曲がることも出来ず、ひたすらへっぴり腰のハの字直進のみ。それでも転ぶ。初級コースにさえみんな四苦八苦だったが、それでも一様に楽しみ、何度か滑るうちに転倒の回数もかなり減った。

 だがひどい転倒をしてスキー板が外れてしまうと大変だった。一度外れてしまうと付け直すのはかなりの手間で、平らな雪の上ならまだしも傾斜がつくと途端に難しい。自分の板を外して手本を見せてもなかなか上手くいかない。

 「こう、ガチョンって感じでさ」

 「わからないですよ」

 「自分でもそう思う。だけど方法って言ってもな~、勢いよくハメるとしか……」

 「あ、ハマった」

 「よっしゃ」

 こんなやりとりをしているうちに、あっという間に時間は昼を過ぎ、俺たちはブッチョンたちと合流して昼食をとることにした。

 ブッチョンのところにはすでに福島が合流していた。聞けば一人で山の頂上付近まで登り、一気に滑り降りて来たという。

 「ヤバい。最高だわ。あの斜面、とんでもなくスピード出る。あとで一緒に行こうぜ」

 「パスだ、崖から落ちて一人で遭難してろ。それに福島は次教える番だろ」

 「助けてくれよ」ツッコんだ後、「ナイターのときにでも行くかな」と福島は楽しそうに言う。

 「駄目だぞ」

 とそこにブッチョンが割って入った。

 「夜は卓球大会、その後飲み会になるからナイターは禁止」

 「そうなの?……まぁ卓球でもいっか」

 福島の執着のなさはすごい。こいつ、女性関係でもそうなんじゃないだろうか。俺はひとり勝手に福島の移り気の早さに心配させられる。

 

 昼といっても時刻は二時をすでに回っており、食堂は比較的空いたので俺たちはバラバラになることなく座ることができた。

 「どうしてこういう場所のごはんってうまくもなくまずくもない、どうしようもなく普通の味なんだろうな」

 もっと味のレベルを上げればそれだけで集客は上がるだろうに不思議だ。

 「うまいメシが目的で来てる訳じゃないからだろ」

 「そうそう、腹が膨れればいいだけだから味なんて別にいいんだよ」

 同期二人は味は関係ないと言わんばかりに口を大きく開けてラーメンを吸い込んでいた。

 森崎はそんな俺の食堂に対する不満をほとんど無視するかのように佐織ちゃんたちと食事をしていた。――ほんの少しでいいからみんなの前でも俺に優しくしてほしいというのはそんなに欲張りな願いなのだろうか。

もう少し続きます。お付き合いください。

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