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The Pope.

 カリナは本名を高原(たかはる) 夏奈子(かなこ)という。


 成人した夏休みに思い切ってひとりで海外旅行に行く計画を立てていた。飛行機に乗って半日以上かかるフライトで、時差ボケ防止のために機内が暗くなったタイミングで寝る体勢に入った。



 目を開けたら、しわしわの知らない、自身の祖父よりおじいちゃんなおじいちゃんがいたのだ。薄い青の優しい目だった。黒い数珠を幾重にも首に巻いて、胸の真ん中に大きくて重そうな十字架が下がっている。


 教会の最高峰のみ持つことを許された教皇杖(パパル・フェルーラ)を抱えたその姿は天井からの光に照らされ、後光のように見えた。


 彼は横から差し出された小皿に親指を浸した。濡れた親指で夏奈子の額を撫でるように十字を描く。それを三回繰り返した。

 それに合わせてだんだんと明瞭になる意識。

 映画の中の世界みたい。だって現実離れしすぎている。

 自分が座っている舞台のセットには綺麗な模様があった。


聖女(ダーヴ)さま。私は教皇(ポープ)のフェリシッシムスでございます」


「ダーブ? なに? フェリシッ……」


「あなたは聖女さま。私はフェリシッシムスです」


「フェリ……おじいちゃま」


 つい彼の和やかな雰囲気からそう呼んでしまった。周囲のたくさんの人が咎めるような目を次々に送るが、フェリシッシムスは嬉しそうにした。


「う、すみません、フェリシッシモ……えーと」


「もう孫にもそう呼んでもらえないのです、どうぞおじいちゃまと呼んでいただきたい」


 柔和な顔つきの目尻がさらに下がるので、彼の愛嬌に負けてしまった。


「フェリおじいちゃま、私はいったい……」


「詳しいことは後からゆっくりと。あなたに重い責務を課してしまうことをお許しください。我々はあなたに頼るほかないのです」


「私がなにをできるんでしょうか?」


「この世界の魔を祓っていただきたい。あなたにしかできません。そしてあなたには簡単なことです。聖女さま」


「ま……魔? 魔が差したとか魔物の、魔ですか」


「そうです。魔はこの世界を蝕み覆い尽くしつつあります」


 教皇ほどではないが、これまた物々しい服を着た男性が「そろそろ」と声をかけてきた。


「いけない、あなたをお待ちになられる方々がおります。急がねば」


 フェリおじいちゃまが表情を改める。


「問いましょう。あなたは神を信じ、その責務を果たすことを望みますか」


「え、神さま?」


 夏奈子は特別信心深いほうではなかった。神や仏の存在を否定するわけではないけれど、実在すると断言するわけでもない。なんとなく魔女やサンタクロースと同じ括りで、いるならいてもいいんじゃないか、という程度でその真偽に興味すら薄い。


 そこに急に重圧な信仰心を持ち込まれて、戸惑う。


「どうか、『はい』と」


 台本の台詞か、やけにしっかりした設定の夢。周囲を厳かに取り囲まれて、逆らえない威圧があった。お芝居なら、と肯定した。どこかにカメラがあるのだろう、見当たらないけれど。逆らえない同調圧力があった。


「……はい」


 コロン、と音がして膝のあたりにコップのようなものが転がった。なんだろう、とは思ったが教皇の言葉に気を取られる。


「これにて洗礼を完了し、あなたを『カリナ』と名付けます」


 英語名には奇しくも本名と近しい響きがあった。


「えっ? 私の名前は、」


 名乗ろうとして、フェリシッシムスに止められた。


「なりません。悪いがその名前はお忘れなさい。あなたがここで生きていく限り、もう二度と名乗ってはいけません。代わりに『カリナ』と」


「そんな勝手なこと言わないでください」


 夢にしてもめちゃくちゃなことを言う。教皇は部屋にいた女性のひとりに声をかける。


「カリナさまのお召し替えを」


 別室にてそれまで着ていた服を剥かれ、黒い服を着せられた。


The Pope.

(教皇)


教皇(ポープ)にふりがなつけるのなら聖女にもつけたほうが決まりいいかなって思ってダーヴってつけました。


Dove 純潔、(平和の象徴の)ハト

を語源にしています。


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― 新着の感想 ―
[一言] 不思議な世界観が面白い!
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