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The Beginning of Chapter One.

こちらまでいらしてくださりありがとうございます。


描かれている教会・宗教観に限らず全てフィクションです。


お話の途中に予告なく戦闘や流血表現があります。

ただし恋愛メインで物語は進んでいきますので、戦闘描写に重きを置いていません。

恋愛としてはごく軽い身体接触を描いています。


 レース編みはボビン・レース、またはピロウ・レースとも呼ばれる。円柱形の回転する土台(ピロウ)に型紙を貼り、数本から何十本もの糸巻き棒(ボビン)を繰って、まち針で糸を固定しながら図案通りに編んでいく。


 ロバーツ家はレース編み職人から始まり紡績関係へ、さらに手を広げ商いを大きくし男爵位を買った。商才のなかった長男はブレヴィンズ子爵の娘と結婚し領地を得た。次男は嫁を取って商売を受け継ぎ、領地はないが王都に屋敷を構え各地にも店舗や別荘を持つ。この父親たちは子供にレース編みを覚えさせ、職人の心と労働を忘れないように教え込んだ。



「お兄さま! 新作です」


 朝食が終わるまで待ちきれない、と起きてきた兄にまとわりつくリリ。

 妹はまだ十四という若さでレース編みに情熱を見出しいまや職人にも遜色ない技量だ。

 手渡されたレースは細いながらも丈夫で、文字を絵に落とし込んだ図案が使われていた。ロバーツ家でしか解読できない特殊な絵文字、とでも言おうか。シャーロ・ロバーツという名前と、魔除けの文言が編まれている。


「これはまた、すごいな。いつもながら見事だ」


「使ってくださいな」


「ありがとう、リリ」


 シャーロはその場で長髪をまとめていた水色のレースを解き、新しい同色のレースで結び直した。ハイライトが不規則に縦に走る赤褐色の金髪(アウバーン・ブロンド)は父の茶髪と母の金髪が見事に混ざったような出来だった。


 リリはご満悦で朝食の席に着く。シャーロは古いレースを折り畳んで、ポケットにしまった。これには守護の祈りが込められている。

 父母は世界各国にある支店を飛び回っているので、王都の家は使用人つきだがこの兄妹で使っている。だから基本、食事は二人きりだ。


「お兄さま、もう行かれるのですか?」


「ああ」


 白い騎士の制服に着替えたシャーロに、リリが駆け寄った。彼女もほどなく学校へ通学する時間なのですっかり身支度を整えている。


「今日は調子はいかがですか?」


 リリはおそるおそる包帯の巻かれた手首に触れる。その手つきは嫌悪ではなく、傷が痛まないか心配してのこと。

 父母にも手紙で負傷は伝えたが、軽いものとしか伝えていないので、その分を妹が過剰に心配してくれている気もする。どうせ次に両親と会うときまでには解決しているだろうと詳細は伏せた。


「大丈夫だ。リリから魔除けももらった。こんな体でも雑用くらいはできる」


 動いていないと気が紛れない、というのが本音だった。


「では、お気をつけて」


 包帯のない手でリリの頭に手を軽く置いて、ふわりと笑った。



 シャーロが魔物討伐に向かったのは二週間前。

 本来そこには清らかなる流れに満たされた湖があったが、銀の輝きは枯れ果て、ただの窪地になっている。

 聖なる水を糧とする聖獣が姿を消し、魔物が蔓延る地へと成り下がったコルモント山へ遠征依頼が来た。シャーロが在籍する第八騎士団が向かわされ、魔物を一掃すべく戦った。その際に傷を負い、魔の穢れに侵された。傷自体は止血して表面上塞がってはいるが、魔の穢れは聖なる力によってしか祓えない。聖なる力を行使するのは各地にある教会。帰郷途中の教会にも打診して断られ、帰り着いた王都の教会にも魔の浄化を求めたが三ヶ月待て、というのが答えだった。

 

 幸い傷は浅くいまは手足が重くて怠いくらいで剣も持てるが、放置しているとそこから腐り落ちる。教会本山の王都でも、聖なる力が細っているときく。三ヶ月後に残っているやら、浄化できても後遺症が残るかが懸念だった。おかげで部隊では半休職扱いで、事務や雑務を引き受けている。


 シャーロが所属する第八騎士団は彼にとってあまり居心地はよくない。怪我を負ったのも、連携が上手くとれずに危機の迫った同僚をかばったからだった。自分の責任といえばそうなので誰を責める気にもならないが。


 魔症したことでさらにその存在を忘れ去られかけている。ときおり思い出したようにあっちにこれを持て、こっちにあれを置いておけと子どもの使いをさせられるだけだ。

 騎士見習い(キャンディデイト)の時分の仲間が入った第二騎士団のほうがよっぽど空気の通りがよく、団長もシャーロの実力を認めてくれていた。これも愚痴にしかならない。


 その日も騎士団本部から王城へ伝達を受け持った帰り。

 シャーロ、と呼びかける声に振り返った。


「ターフェル」


 彼はしがない王城内の警備兵だったが、よく配置を変わるので顔が広く、相手が侍女でも騎士でも気さくに話す。ターフェルとシャーロが知り合ったのも共通の友人を介してだったように思うが、詳しくは忘れてしまった。飲みの席だったから。それで顔を見れば雑談する仲である。


「手足はどうだ」


「まだ教会での浄化待ちだ。おかげで休職させてもらってる」


 ターフェルは暗い茶色の瞳を翳らせた。待つしかないさ、とシャーロは皮肉気に笑い飛ばした。


「そうだな。ところでひとつ頼まれてくれるか」


「そりゃ俺は暇だが」


「厨房に籠を用意してもらっている。俺の名前を出せばわかる。それを騎士団旧寄宿舎に届けてほしい」


 寄宿舎といえば、独身寮だ。シャーロは城下近くに家があるのでそこから通っているが、年若い未婚の騎士や実家が遠い者は基本そこで生活している。


「古い方か? あんなところに? 」


「お前にしか頼めない」


 鬼気迫る勢いだったので、圧されて頷いた。


お話は手元で完結しているので予約投稿挑戦してみます。

よろしくお願いします。

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