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その公爵様とメイドの事情  作者: ロマンスメーカー
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第77話 倒れたゲリマン皇帝(1)

挿絵(By みてみん)


(ミーンミーン、ミーン)


(ミーン、ミーンミーン)


地面から這い上がったセミたちが、まるで蒸し暑い夏が始まったということを知らせるように大声で泣いた。

暖かかった日差しはいつの間にか蒸し暑いと感じるほど天気がとても蒸し暑くなった。

さわやかな緑色の庭木と綺麗な花壇で手入れされた皇子宮の庭園で、ダルニング皇子と私は一緒にお茶を飲んだ。


「ダルニング皇子様。最近天気がかなり暑いようです。それで今日は冷たい冷茶にしてみましたがどうですか?お口に合いますか?」


「うん!こうやって氷を入れて飲むと暑さが和らぐみたい。ありがとう」


ダルニング皇子が私を見つめながらにっこりと明るく微笑んだ。

私とダルニング皇子は時間があるたびにこのように庭に出てお茶を飲んだ。

グレース公爵が領地に発った後、皇居内に同年代がいないため、ダルニング皇子は前よりもっと私に懐いてくれた。

冷茶を飲んでいたダルニング皇子がふと頭を上げて空を見上げながら口を開いた。


「もうすぐ梅雨が始まるのかな…?」


「あ、そういえば今頃が梅雨ですね。もうすぐ始まると思います」


「ふむ。僕は雨の日が大嫌いなんだけど…」


なんだかダルニング皇子の表情が少し暗くなったような気がした。

私は心配そうな目つきでダルニング皇子に聞いた。


「皇子様、もし雨が降ったら暗くなって嫌ですか?」


「うむ…、ううん?ただ雨の日には毎回必ず良くないことが起きてた気がして….。だから嫌だ」


「ああ…」


ダルニング皇子がナッツ入りのオートミールクッキーを手にして続いて話した。


「それに梅雨は雨が長く降るから何だか悪いことも長く起きそうじゃない?」


私はダルニング皇子の言葉に頭をもたげて青空をじっと眺めた。

まばらな白い雲が青空に浮かんでいるのがとても平和そうに見えた。

時間があっという間に流れ、もう1週間が経つと青かった空にいつの間にか黒い暗雲が立ち込めた。


(ドドドン!)


(ザーザー)


真っ黒な暗雲が立ち込めた空から、竿のような雨脚がまるで水爆弾のように降り注いだ。

いよいよ「ダルニング皇子」が一番嫌うという梅雨が始まったのだ。

ベイリオ皇国の梅雨時は、前世の夏の天気のように雨が降る期間は似ていたけど、雨粒が熱帯性のスコールのように太かった。

しかし、短く降る熱帯性スコールとは違って、竿のような梅雨の雨が休まず梅雨期間中降り続けた。


(パラパラ)


窓を激しく叩く雨粒の音を聞きながら、私はちょうどアイロンをかけ終わったダルニング皇子の服をドレスルームに掛けておいた。

ダルニング皇子が明日着る服を片方のハンガーに別に選んでドレスルームを抜け出した。


「うう、寒い…」


雨がたくさん降ったせいか、まるで秋の天気のように気温が下がったようだった。

寒がりやの私はカーディガンを取りに私の部屋に足を運んだ。

その時、皇子宮の廊下から多くの使用人のざわめく声が聞こえてきた。


「どうするの!!陛下が昨夜倒れたんだって?そのロナという侍女の部屋だったんだよね?」


「シッ!静かにしろ。あんたも誰も知らないうちに殺されたいのか?」


使用人が互いにもみ消しながら廊下のあちこちで注意深く話し合っていた。

私はゲリマン皇帝が倒れたと聞いて心の中でびっくりした。


⦅物凄く元気だったと思うんだけど、急にどういうことなんだろう?⦆


半日が過ぎると、いつの間にかベイリオ皇国の皇居には倒れたゲリマン皇帝に関する話で騒がしかった。

すぐに目が覚めそうだったゲリマン皇帝が数日も気を取り戻せないと、皇居内はまるで針が落ちる音が聞こえるほど非常に危険な状況になった。

私は全ての日課を終えた後、夕食も取らずに自分の部屋に戻った。

冷たい水でシャワーした後、髪を乾かしながら数日間悩んでいた色んなことを改めて思い出した。


「ゲリマン皇帝が自然に病気になって倒れたのか。それともこの皇居に誰かが手を使ったのかな?」


深く考えた末、私は前者よりは後者に心証が強くなった。

ゲリマン皇帝は50代後半の年齢だったけど、これといった病気もなく40代前半のように亭亭としているためだった。

私の推測どおりなら、もしかしたら黒幕に隠れているその毒術師がゲリマン皇帝に何か手を使ったのかも知れない。

しかし、直接確認できるものではないので、とてももどかしい気持ちになった。


「ハエリス公爵に頼んでみようかな…?」


ふと彼に頼みたい気持ちになったけど、私は首を横に振った。

ハエリス公爵は私が直接動くのを望んでいなかった。

恐らく私がゲリマン皇帝を確認してみたいと言えばきっぱり断るだろう。


「はぁ…、どうしよう?」


その時私の頭の中に稲妻のようにすれ違う良い考えが浮かんだ。


「そうだ!ジェイン!ジェインがいたよ!」


私とドレニー皇妃宮時代から同行したジェインが、少し前からゲリマン皇帝宮内で働いていた。


(パラパラ)


窓の外を眺めると、暗くなるにはもう少し待たなければならないようだった。

私は、ダルニング皇子宮で働くメイドのセリンに頼んで、ジェインがどの宿舎に泊まるのか予め調べることができた。

焦燥の念で夜が更けるのを静かに待った。


(ギシッ)


皆が眠っている深い夜、私は傘を持ってダルニング皇子宮を抜け出して皇帝宮使用人たちが使う宿舎に向かった。


(ポツポツ)


傘をたたく雨の音が何だかいつもより耳元に大きく聞こえた。

私は慎重な足取りで周りをよく見回しながらゆっくりと移動した。

しばらく歩いて到着した皇帝宮の使用人たちの宿舎は、他の宮の宿舎より確かに規模が大きかった。

夜が更けたせいか、宿舎の窓際にはろうそくの灯る部屋があまりないように見えた。

私は傘の水気を取ることができず、くるくると巻いて片手にしっかり握った。

傘から水がぽたぽた落ちるのが気になったけど、ぱたぱたとする音を他の人が聞きそうだった。


(カッカッ)


私はドキドキする気持ちで3階まで階段を慎重に駆け上がった。

ジェインの部屋は3階の廊下の左側の端の部屋だと聞いたけど、幸い深い夜なので廊下を通る人はいないようだった。

彼女が寝ていないことを祈り、ジェインの宿舎のドアを軽く叩いた。


(トントン)


「どなたですか…?」


幸いにもまだ眠りについてなかったジェインの宿舎訪問が「ピコッ」と開かれた。


「あれ?エレイン?」


ジェインは驚いた表情で雨水がぽたぽた落ちる傘を持って立っている私を眺めた。


「こんな遅い時間にどうしたの?とりあえず入ってきて!!外は結構寒いでしょ?すごく寒そうだよ」


「うん。最近だいぶ肌寒くなったよね。来る時、ちょっと寒かった」


「エレイン、傘はこちらに置けばいいよ」


私はジェインの言うとおり、彼女の部屋の片隅に置いてある長い箱の中に傘を差した。

彼女は私の顔色を確かめ、ベッドの上から毛布を持ってきて私にかけてくれた。


「エレイン!唇が青くなってる。早く覆ってて」


「ありがとう、ジェイン」


「ところでこんな遅い時間にどうしたの?何があったの?」


「それが、ジェインに頼みたいことがあって…。ちょっと難しい頼みだけど、もし皇帝宮にジェインの代わりにしばらく働けるかな?ちょうど一日でいいよ」


「そうね…。今雰囲気が悪いからだめそうだよ。妙に変な疑いを受けると思うよ」


ジェインは首を左右に強く振りながら私の頼みをきっぱり断った。


「そうだよね…。では、人がいない時間に少しでも皇居に入る方法はないかな?」


「え、ちょっと待って、エレイン。どうしたの…?ひょっとして悪いことしようとしてる?」


ジェインは疑問そうな表情で私に目を通しながら言った。

どうやら時期が時期であるだけに、非常に慎重なようだった。


「いや、誓って違うよ。言葉で説明することはできないけど、必ず入らなければならないの…。ジェインを困らせたならごめんね。私がこんなお願いしたということは忘れてね。私はもう帰るね」


真剣な目つきでじっと見つめていたジェインが、しばらく深く考え込んだ。

そうして仕方がないという表情で私に口を開いた。


「はぁ、分かったよ。エレイン、私はエレインを信じているから。そうじゃなくても今夜、夜間担当が私だよ。夜中の2時から3時まで、たった1時間なんだ。もしその程度の時間でいいの?」


私はジェインの両手を取り合って首を大きく頷いた。


「うん!そのくらいの時間なら十分だと思う。本当にありがとう! ジェイン!」


***


(カンカン)


時間を知らせる鐘が静かなベイリオ皇居で大きく鳴り響いた。

私は水の入ったたらいとゲリマン皇帝の寝衣を持って皇帝宮の廊下に陳列された大きな彫刻品の後ろに隠れていた。

ほのかなろうそくの灯りが灯っている皇帝宮の廊下の端で、他人と交代するジェインの姿が見えた。

皇帝宮の寝室の外の廊下には、メイドだけでなく皇居の寝殿を守る騎士が殺伐とした目つきで門を守っていた。

私は手のひらにじっと流れる冷や汗をスカートの裾で拭きながらじっと待っていた。

しばらくするとジェインが遠くにいる私に頷いて合図した。

私はしわくちゃになった皇室のメイド服を慎重に叩いた。

そして水が入ってるたらいと寝衣を持って、自然な足取りで彼女に歩いて行った。

私がジェインの隣に並ぶと、彼女は平然とした表情で皇居近衛騎士に口を開いた。


「汚染された水と寝衣を新しく交換しようと思います」


彼女の言葉に皇居近衛騎士が私とジェインを交互に見ながら顔を詳しく確認すると、黙って頷いた。

思ったより簡単に皇帝宮の寝殿の中に入った私たちは安堵のため息をついた。

ジェインは額に流れる冷や汗をかきながら私に言った。


「エレイン。私はこのドアの前で見守っているよ。もし何かあったら咳で合図するね。分かった?」


「うん、ありがとう。ジェイン」


私は急ぎ足で寝殿の中のゲリマン皇帝が横になっているベッドに向かった。

金で華やかに飾られた寝床の上には、ゲリマン皇帝が真っ黒な顔でやつれていた。

ゲリマン皇帝が流している湿った冷や汗から、まるで食べ物が腐るような臭いがした。


⦅ゲリマン皇帝の体の臓器が腐っているようだ。やっぱり毒だよ…。ベル執事を殺したその毒術師が作った毒の匂いがする⦆


「ふぅ」

私は毒の検査をするとき、もしかすると彼が目を覚ますのではないかと恐れ、薄い睡眠毒粉を彼の鼻の穴に吹き込んだ。

ゲリマン皇帝が深い眠りに落ちるのを確認した後、彼の目の粘膜、口の爪、足の爪を問わず几帳面に調べた。

そして彼の髪の毛10本ほどを抜いてハンカチを取り出してスカートの内ポケットに入れた。

幸い、時々研究していたベル執事の毒とゲリマン皇帝の毒の種類が似ているようだった。

ゲリマン皇帝の体の匂いには薄いアーモンドの匂いも多く混ざっていたけど、ベル執事が中毒になった毒にいくつか追加されたものと推測された。


⦅この毒はすごく古い。この程度の状態なら、睡眠毒に中毒されたと言える。この毒の配合はやはりその毒術師だと思う。本当に怖い人だ。犯人は恐らく皇帝に近い人のようだけど。長い間男女関係を交わすほど…、男女間で情事する時に使われて毒がたまる「ベルカトク」薬物にあまりにも長く露出されてる。最近、「フレンシート」のような毒の触媒剤に露出されたようだよ。このアーモンドのような臭いは青酸カリ系の毒草だ…。もしガムメルの葉かな? それともケムベルの茎?一体どのようなやり方でゲリマン皇帝に接近したんだろう?⦆


ゲリマン皇帝は神が来ても生かすことができない深刻な状態だった。

古い睡眠毒に深く中毒された状態で毒が発現したため、解毒はほとんど不可能だった。

それさえもこの毒に中毒になったにしては、安らかに横になっている表情を見ると、幸いにも発毒の初期段階のようだった。

恐らく正常に毒が進んでいるとすれば、ゲリマン皇帝は数ヵ月間、腸が溶けて全身の骨が砕ける苦痛から死を待たなければならないことになるかも知らなかった。

ひどい苦痛の中で、早く殺してほしいと哀願するかもしれないと思った。


⦅ゲリマン皇帝をこのような悪質なやり方で毒殺しようとする毒術家の正体は誰なんだろう?そしてなんで今になってゲリマン皇帝を殺そうとするんだろう?⦆


私は全ての毒検査を終えて静かに席を立ち、汚染水が入っているたらいを持ち上げた。

そして少し急ぎ足で皇帝宮の寝殿の前にいるジェインに近づいた。

焦燥の顔色で待っていたジェインは私に安堵のため息をついて言った。


「全部終わったの?」


「うん。ジェイン、本当にありがとう」


「私は今陛下の寝衣を新しく交換しなきゃ。 他のメイドが来るまで時間があまり残ってないんだ。陛下があまりにも汗をたくさん流してよく水を変えに行ったりするから、別に疑わないだろう。エレインはできるだけ自然にこのたらいを持って抜け出せばいいよ。分かった?」


「うん、分かった」


(ギシッ)


私はたらいを持ってジェインの言葉通り、できるだけ自然にゲリマン皇帝宮を抜け出した。


(クンクン)


たらいの水から、何だか微量の毒の香りがほのかに漂っているようだった。

ゲリマン皇帝の汗に混じっている毒だったけど、あまりにも微々たる量だったため、普通の人々には影響はないだろうけど、少し不快だった。

私は持っていた汚染されたたらいの水に薄荷砂糖の粉を溶かし、皇居内の共用下水道に注ぎ込んだ。

空いたたらいを持って外に出てみると、真っ暗な空から太い雨脚が滝のように降っていた。


(ザーザー)


一寸先も見えない深い暗い夜、私は持っていた空いたたらいを、まるで傘のように頭の上に持ち上げた。

そして、大雨の間をかき分けて、やっとダルニン皇子宮に戻ることができた。


(ドキドキ)


部屋に戻るやいなや、全ての緊張が緩んだように手足がぶるぶる震えてきた。

表向きは平気なふりをしたけど、見つかるんじゃないかと心の中でずっとはらはらしていた。


もしジェインがいなかったら、皇帝宮の寝殿に入ることすらできなかったはずだ。

私は雨でびしょ濡れの皇室のメイド服を脱いでシャワー室に入り、冷水で簡単にシャワーを浴びせた。

シャワー室の引き出しからタオルを取り出し、私の体と髪を乾かしながら色んな考えにふけ込んだ。

数多くの疑問が頭の中に浮かんだけど、まるでパズルの破片のようにあちこちに散らばっているようだった。

大まかに髪が乾いだようなので、たんすからパジャマを取り出して着た。

激しく降る雨にびしょ濡れになったら全身がぞくぞくと寒かった。

ベッドの上の布団をくるくると巻いて、ベッドに腰掛けて色々と考えを続けた。


「そうだよ。犯人は皇后と皇妃、そしてゲリマン皇帝と夜を過ごした人達の中にいるはずよ。「ベルカトク」に凄く長い時間、露出されていたんだ。ジェイラル皇后?4人の皇妃?寝床に仕える侍女たち。一体犯人は誰なんだろう?」


私は夜が明けるまで眠れないまま、まんじりともせず夜を明かした。

夜通し長い悩みの末、一つ良い計画が浮かんだ。

しかし、ハエリス公爵。彼が果たして私の計画を許可してくれるかは確信できなかった。

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