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その公爵様とメイドの事情  作者: ロマンスメーカー
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第66話 ダルニング皇子の保母となる

挿絵(By みてみん)


グレース公爵の邸で数日間休憩を取った私はドレニー皇妃宮に復帰した。

復帰するやいなや新しい宮に配定されたけど、今度は「ダルニング皇子宮」だった。

私より先に配定されたジェインが皇子宮の廊下で私を待っていた。

彼女は心配そうな顔で私を上から下まで見ながら口を開いた。


「エレイン!!大丈夫?酷い怪我をしたと聞いたよ!」


「うん、心配しないで。もう大丈夫だよ!」


「私はエレインが皇室新年祭に行くのを凄く羨ましいと思ってたけどね、ひゅ…。私は行かなくて良かったと思ったよ!あまりにも恐ろしい知らせだった。多くの人が死んだんだって」


「うん…」


私たちが皇子宮の廊下でお互いの安否を尋ねる時、遠くからダルニング皇子宮の女中長であるドロシー夫人が私たちに近づいてきた。


「エレインさん?」


「あ!おはようございます。ドロシー夫人。お久しぶりですね」


「エレインさんがあの時怪我をしたと聞きましたけど、元気そうで何よりです。今ダルニング皇子様がお呼びです。私について来てください」


「はい、分かりました。夫人」


今年で11歳になったダルニング皇子が明るい笑顔で私を嬉しく迎えてくれた。

青色の黒髪が混ざった髪をゆらゆらする、大きな目を持った彼は魅力的な男の子だった。

恐らく大人っぽい言い方を除けば、この可愛いルックスがさらに目立つはずだけど、残念ながらダルニング皇子のお爺さんのような言い方は変わっていなかった。


「ようこそ、エレイン!」


「はい!皇子様にお目にかかります。ダルニング皇子様!健康は如何ですか?あの時、すごく驚きましたよね?」


「僕は大丈夫だよ。大騷ぎ中に君が大変なことになったと聞いたよ。今は大丈夫か?」


「はい、今は大丈夫です。皇子様、ご心配ありがとうございます」


ダルニング皇子が良かったという意味で明るい表情でじっと私を眺めた。


「良かった…。うーん。ほかではなく単刀直入に話す…。エレイン、もしかして僕の保母になってくれないか?」


私が少し困惑した表情でダルニング皇子を見つめると、彼は澄んだ目で私に微笑んだ。


「え?保母ですか?」


「そう。僕を育ててくれた保母の息子の健康が良くなくて、今回やめることになったんだ…。ふとグレース兄様の宮にいた君を思い出してね。お兄様の宮で君が作ってくれたお茶は忘れられなかった。どう?エレイン?僕の保母になってみない?」


ダルニング皇子が優しい笑顔で私に保母になる意向があるか尋ねた。

突然の彼の提案に少し戸惑ったけど、もしかするとメイドより保母として働いた方がよさそうだった。

メイドは配置された皇居から抜け出せなかったけど、保母はそれより自由に皇居内を行き来することができた。

皇后宮にいつ配置されるか分からない状況だったので、私は肯定的に頷いた。


「はい、一生懸命働いてみます。ありがとうございます。ダルニング皇子様…」


こうして私は、ハエリス爵家のメイド→グレース皇子様の保母→短いドレニー皇妃宮のメイド→再びダルニング皇子様の保母に転職することになった。

なんだか最高の履歴書が一つ出そうな予感がした。

かつてグレース皇子の保母の経歴があった私は、早くダルニング皇子の保母の仕事に適応できた。

むしろグレース公爵の面倒を見るよりも簡単だったのが、ダルニング皇子は年齢に比べてとても早熟で手がかかることが少なかったためだった。

普段、ダルニング皇子が好きなお茶と茶菓ぐらい気をつければいいので、暇な日が多くなった。

おかげで、私の心が自ずと余裕ができて、悪かった体調がちゃんと回復することができた。

メイドのジェインとおしゃべりしながら楽しく過ごしていたら、いつの間にかあっという間に時間が早く過ぎた。

厳しかった寒さで凍りついた土地はいつの間にか暖かい春の日差しにそよそよと溶ける3月になった。

一緒に働いたジェインはゲリマン皇帝の2番目の皇妃ケサリンの皇妃宮に交代し、私は近づく春を準備しながらダルニング皇子の冬服の整理を始めた。


「コンコン」


ダルニング皇子のドレスルームにメイドのセリンがノックして慎重に入ってきた。

私は謎めいた表情で彼女に聞いた。


「どうしたんですか?セリン?」


エレインの保母様、ある方がこれを保母様に渡してくださいました。


私はメイドのセリンが渡した白い封筒を面食らうように受け取った。


「ありがとう、セリン」


セリンがドレスルームから出ると、私は封筒をそっと開けて中身を確認した。

封筒の中にはまだ早春なのでなかなか見られない生花一輪が入っていた。

可愛らしい白い花たちがお互いに親しくくっついている可愛いデイジーの花だった。

手紙の封筒には香ばしいデイジーの花と一緒に短いメモが入っていた。

私はメモを綺麗にしてメモに書かれたハリス公爵の手紙をゆっくり読んだ。

ハエリス公爵の書体は彼の姿のように洗練されていて男性的だった。

心の中で何度もメモを読んだ私は、まるで彼が私に話しかけているように感じた。


[愛してる…、エレイン。物凄く会いたい。-ゲルゴ領地を巡回中のハエリスから-]


南側のゲルゴ地方は気温が暖かくてつぼみが早く咲いたようだった。

ハエリス公爵が送ったデイジーの花の切れ端にはまだしっとりとした水気が残っていた。

恐らく一日も経たないうちに私に届いた特急郵便のようだった。

私はデイジーの花の春の香りと、ハエリス公爵の手書きの奥ゆかしいインクの香りをたっぷり嗅いだ。

まだ早いけど私に早く訪れた春が私の心を「そよそよ」とわくわくさせた。


***


(パカラッ)


ベイリオ皇国には、各都市の随所で特色ある春祭りが開かれた。

私とダルニング皇子はグレース公爵の招待を受け、春祭りが始まったばかりの彼の領地に向かった。

私たちが春祭りに行くという話を聞いたカルロス皇太子も同じ馬車に乗って一緒に行くことになった。


「エレイン、今日に限って気分が良さそうだな?」


カルロス皇太子がにっこり微笑みながら私に声をかけた。

私は馬車の窓の外の風景をじっと眺めて、気持ちよく答えた。


「はい!春になると空気が違うように感じられて。気分がとてもいいです。土の匂いに混ざった草の香り、花の香りがとてもさわやかです」


「エレイン!その言葉は実に詩的な表現だと思う。文句が本当に気に入るね。書いておかないと!」


私の隣の席に座っていたダルニング皇子が急いで自分のジャケットポケットから小さな手帳と筆記具を取り出して熱心にメモした。

私は何だか照れくさくて頬を軽く掻きながらぎこちなく微笑んだ。

カルロス皇太子も本当に呆れたという顔でにっこり笑った。


「あ、そうだ。グレースの領地の中に本当に美味しいお店があったよ?」


私はグルメ情報に弱いので耳寄りができて窓の外の風景を鑑賞をやめ、カルロス皇太子に聞いた。


「殿下?何のお店ですか?」


「うん!何の店かというと、フフッ。 ワッフル屋さんだよ!」


「ワッフル屋さんですか?わぁ!」


この世界は私が創作した世界からかなり離れたけど、たまに私の痕跡が残っていて、それがまさに食べ物だった。

前世では私の職業が女優だったため、半強制的にいつもダイエットをしなければならなかった。

パサパサした胸肉とバナナとリンゴの数切れだけが私が食べられる量のすべてだった。

それに私はよくむくむ体質だったので、撮影に入る時は水一杯も思う存分飲めなかった。

その時、一人で撮影現場の隅で小説を書きながら、小説の内容とは全く関係のない展開をそっと(?)入れ込んだ。

暗殺者がハエリス公爵に逃げ、偶然パスタ屋の中で捕まるとか、それとも有名製菓店パティシエがジェラル皇后の秘密腹心とか、そんな内容から、各種陰謀や事件がほとんどグルメ(?)で起きた。

おそらく小説の初期に、ハエリス公爵は事件を解決するために数多くのグルメ店を訪れたことがあるだろう。

そういえば、私が前世で書いた小説は、お腹の空いた私の欲求を吐き出した話が半分かも知れなかった。

いずれにせよ、私が前世で一番好きなデザートがまさにこのワッフルだった。

前世はダイエットのために美味しいワッフルを私の誕生日にケーキの代わりにたった1、2個食べることができた。

私の目つきがきらきらすると、カルロス皇太子がもっと浮かれて話した。


「何と、ワッフルの上にアイスクリーム、色んな果物をのせて甘いクリームをのせてくれたんだ!好みによってシロップを選ぶことができるんだけど、どれだけ美味しかったか!本当に顎が落ちるほど美味しい味だった!」


「わぁ!聞いただけでもすごく美味しそうです!」


「じゃ、今度連れて行ってあげようか。どう?」


「私はいいです!殿下!ぜひ連れて行ってください」


「すみません、兄様。僕は甘いものがあまり好きじゃないので」


ダルニング皇子がきっぱり断ると、カルロス皇太子は首を横に振りながらにっこり微笑んだ。

私は早くからワッフルの味が楽しみでわくわくした。


「エレイン!!」


グレース公爵は彼の邸宅の前で手を振って素早く私の方に走ってきた。

馬車に降りたばかりの私にグレース公爵が胸に抱かれようとすると、カルロス皇太子が手で彼の額を押した。


「え?カル兄様!これはどういうことですか!」


グレース公爵は両頬を膨らませながら不満そうな表情で話した。


「お前ももう大きくなったから淑女の方にこうしちゃだめだよ。大変失礼だぞ…」


「えーん。僕はエレインが好きだからなんだけど…」


「それでもだめだ」


「ちぃ」


私は照れくさそうに笑ってしょんぼりした子犬のようにだらりと垂れ下がったグレース公爵の頭をじっと撫でた。


「お久しぶりです、兄様!元気でしたか?」


「うん、ダルニングよく来たよ!さあ!早く春祭りに出てみようかな? 早く急ぎましょう! カル兄様!」


「よし!いいよ!グレース!」


「ちょっと待ってください!私たち馬車でまだ荷造りもしていませんよ」


「エレイン!僕、朝からずっと待ってたの!早く行こう!うん?」


グレース公爵が早く行こうとせがんだので仕方なく私たちは乗ってきた馬車に乗って公領市内に向かった。

グレース公爵の公領は首都エレルマンと比較的近くに位置していたけど、馬車でわずか2時間の距離だった。

大きさは、ハエリス公爵の公領の半分にもならなかったけど、美しい東海岸に沿って油っこい平野が均等に分布していたため、それなりに実のある領地だった。

グレース公爵の公領には、皇国の首都エレルマンに劣らない熱気で春祭りが大きく開かれていた。


「わあ!カル兄様、こっちに来てください!ダルニング、エレインここに来て!ここに不思議なものがある!」


「え?どこ?」


「え?どこですか?」


私とカルロス皇太子、グレース公爵、ダルニング皇子は暖かい春の日差しを浴びながら思う存分市内を見物した。

海岸を挟んで貿易と商業が発達した領地らしく、街には大勢の人で賑わっていた。

列をなして立ち並んだいくつかの露店と春祭りの街を楽しく見物しているうちに、ふとハエリス公爵に会いたくなった。

ベイリオ皇国のすべての政務を、ハリス公爵が殆ど関与しているようだった。

何かが起こると、ゲームのチートキーのようにゲリマン皇帝がハリス公爵を呼んで、最近まともなデート一回もできなかった。

私の首に白いスカーフを巻かなくなったのも、もう1ヶ月も経ってしまった。

今や部屋の隅で密かに隠れてするデートさえもとても懐かしくなった。


「エレイン、こっちに来て!」


「はい!!」


いつの間にかお腹が空いた私たちはカルロス皇太子が積極的にオススメしたワッフル屋に来るようになった。


「ダルニング皇子様、ここまで来たので一度召し上がってみてください!」


「いや、僕は甘いものが嫌いだし…」


ダルニング皇子がきっぱりと断り、街の空きベンチにどっかり座り込んだ。

久しぶりに皇居を出て一日中歩くだけだったので、きっとお腹が空くはずだった。

私はワッフル屋の社長に頼んで、特別に彼の口に合うワッフルを作ってダルニング皇子に持っていった。


「これは特別に皇子様のためのワッフルです。一度召し上がってみますか?」


「僕は大丈夫なんだけど…」


「一度召し上がってみてください!ね?」


渋い表情でワッフルを受け、一口かじっていたダルニング皇子の顔がとても明るくなった。


「美味しいな!香ばしくて甘くもない!」


「甘いものが苦手な皇子様のためにシロップとクリームを抜いてバナナとナッツだけ入れてみました。割と召し上がれますよね?」


ダルニング皇子が激しく頷きながら美味しくワッフルを食べた。

私はダルニング皇子の姿がとても可愛くてじっと彼を見守った。

その時カルロス皇太子が私に近づき、ワッフルを突き出した。


「エレインは何が好きなのか分からなくて、俺が好きなように作ってもらったけど…」


「私はワッフルなら全部好きです。ありがとうございます、カルロス様」


私が感謝の挨拶をするとカルロス皇太子の顔が目立って明るくなった。

カルロス皇太子が作ってくれたワッフルは、私の目が丸くなるほど本当に美味しかった。


「わぁ!本当に美味しいです!」


「そう?よかった!」


カルロス皇太子が照れくさそうな笑みを隠せず、じっと自分の頬を掻いた。

いつの間にかグレース公爵とダルニング皇子が先に先頭に立って見物し、私とカルロス皇太子はその後を追うようになった。


「最近エレインの首に…」


「え?」


「いや、エレインの首に最近スカーフをしていないから涼しそうで見栄えがいいと…」


「ああ…、はい」


カルロス皇太子が何気なく言った言葉に、突然私の耳たぶが熱くなった。

まさか何かを知って話すのではないだろうね?と、何だかんだで盗み、ひっかかった人のように心臓がドキドキした。


「じゃあエレイン、私達あそこに行ってみよう。 不思議な動物がいるよ!」


「はい!」


日が暮れて帰ってくる馬車で、グレース公爵とダルニング皇子はお互い寄りかかって眠りについてしまった。

二人がぐっすり寝ている姿がとても可愛くて、私の口元には自然と微笑みが浮かんだ。

ふと私の隣に座ったカルロス皇太子が私を見つめる視線を感じた。

私は二人を微笑んで見つめながら、カルロス皇太子に声をかけた。


「殿下…、公爵閣下と皇子様がおやすみになる姿がとても可愛いです。そうですよね?本当に愛らしい方々です」


カルロス皇太子はにっこりと笑いながら、私の耳元に小さくささやくように言った。


「何言ってるの?エレイン。君の方が愛しいよ」


「はい?」


「プハハ…!見て、エレインの顔!ハハ!」


「殿下!からかわないでください!そして大きな声で笑わないでください。目が覚めたらどうするんですか…」


カルロス皇太子の意地悪ないたずらに、一瞬皇太子の背中にスマッシュを飛ばすところだった。


⦅本当にぴくっとしたじゃないですか。カルロス皇太子殿下!⦆

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