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その公爵様とメイドの事情  作者: ロマンスメーカー
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第63話 血のにじむ前夜剤 (3)

挿絵(By みてみん)


(パチパチ)


熱くめらめらと燃え上がった木の薪がいつの間にか真っ黒に火が消えた。

時間がどやってこんなにあっという間に過ぎたのか、ドレニー皇妃兵舎の炭を替えなければならない時間だった。

私は急いで席を立ち、自分の飲んだコップを片付けて簡易テントの外に出た。

兵舎の外には狩りに出た男たちの空席が大きくて、なんだかがらんとした感じがした。

その時何か変な匂いが強い風に乗って私の鼻の中に薄く入り込んだ。

妙な臭いに兵舎の間を急いで走り、皇室狩場の広い平野の方へ出た。

皇室専用の狩場の広い平野の裏側にある険しいベテルニー山脈が私の目の前に壮大に広がっていた。

私はじっと目を閉じて、風の中に混じっている妙な香りをかごうと動力した。


(ピュー)


ベテルニー山から吹いてくる強い風の中で生臭い血のにおいを嗅ぐことができた。


⦅これは血のにおいだ。一体どういうことなんだろう?⦆


遠くベテルニー山脈の稜線を見ると、山の峰ごとに白い煙が狼煙のように立ちのぼるようだった。


(ピューピュー)


山風がひゅうひゅうと吹き荒れながら、私の立っている平野地帯に流れると、私は風に混じった強い毒のにおいをかぐことができた。


⦅ヘイライン、月面花、カトミン、カルトキシン、チェケラピの根!?⦆


いくつかの成分は違うけど、北の魔手の森で魔手を興奮させた成分と似ているようだった。

ここは皇室の猟場なので魔手はいないだろうけど、猛獣が多く住んでいることで有名なベテルニー山脈だった。

もし山脈に住んでいる猛獣が毒に感染されてたら、この毒の煙で猛獣たちが理性を失って暴れているに違いないかった。


(ドキドキ)


突然私の胸がドキドキし、心臓がギュッと締め付けられるように感じた。

誰が止める暇もなく、私は急いで皇室の医員局の薬草を集めておいた兵舎の倉庫に向かった。

かつて救恤所において奉仕していた時、皇室の医員局の兵舎の模様を知っていたため、多くの兵舎の間で素早く見つけることができた。

その時刻、バルカルン医員は兵舎で数多くの薬剤と薬草を一つ一つ整理していた。


「バルカルン医員様!!!」


差し迫った私の声にバルカルン医員が目を丸くして私を迎えた。


「エレインさん、え?どうかしたのか?」


「はい!とても急いでいるんです。しばらく薬材倉庫をちょっと見てもいいですか?」


「え?」


「すみません」


私は焦りを募らせていたので、バルカルン医員の許可も得ずに薬材倉庫に入り、色々な薬草を調べた。


「エレイン!今これは何のあり得ない行動なんだ?いくら僕と親交があったとしても無礼すぎる!!早く出て行きなさい!」


バルカルン医員は目に見えて荒唐無稽な表情で私を怒鳴りつけた。

私もこれが非常に失礼な行動だとわかっていたけど、これは物事が切迫していたので仕方がなかった。

私は自分の後ろで怒っているバルカルン医員に詳しい説明は後にして、いったん倉庫の中に薬草が何があるのか几帳面に調べた。


「ああっ!!エレイン!!早く出ろっていうのに!!」


彼が直接私を制止しようとした矢先に、突然兵舎の中に緊迫した表情の男性が飛び込んできた。


「バルカルン医員様!今大変なことになりました!!ベテルニー山脈に狩りに発った我が騎士たちが猛獣の群れの攻撃を受けて今戦争になっております!早く出てきてください!!」


「何だって!!!それは本当か?いや、猛獣が騎士を攻撃するとは!」


「はい!!私は他の方にもこのたよりを伝えに行かなければなりません!早く出てきてください!医員様!」


バルカルン医員は、急いで去る男の言葉に、やっと動揺する目で私を見つめた。


「エレインさん!今持っている薬草はすべて毒性のあるものだよ!ぞんざいに扱うと大変なことになるんだよ!!やれやれ、今外は大騒ぎだ。僕はもう患者の面倒を見る必要がある…!!早く全部もとの場所に戻しておくように!!そして今日のことはこのまま見過ごすわけにはいかないからな!」


バルカルン医員が慌てて急いで薬剤の箱を持って兵舎の外に出ようとした。

私は外に出ようとする彼を急いで引き止めた。


「いいえ、バルカルン医員様。外に出ないで、私を助けてください。急いでます!」


私が彼をひっつかまえると、彼は怪訝な顔でじっと私を見つめた。

私は、バルカルン医員に真摯な目つきで言い出した。


「今外に出れば、毒気に酔った猛獣たちにやられた負傷者がたくさんいるでしょう。もちろん、その方々を治療することも急を要するんですが、私の考えではベテルニー山脈の中の猛獣を寝かすことがもっと急を要すると思います。バルカルン医員様!どうか私をちょっと手伝ってください。毒の解毒剤を作る時間がありません。なのですぐに毒を作るつもりです」


「え?何?毒だと?」


「はい。今猛獣が騎士を攻撃したのは、単なる偶然ではありません。猛獣が毒に中毒されたようです。だから毒薬を作ろうと思います」


「僕は一体何を話しているのか、全く理解できない。一旦毒薬とは。それはどういう意味だ?僕に分かるようにもっと詳しい話をしてくれ」


「はい。ベテルニー山脈はとても広くて険しいです。ですから、今我々が持っている薬剤を燃やして解毒するには、時間も薬剤も非常に不足しています。それで、暴れる猛獣をしばらく動けない毒を作ろうと思います。私を手伝ってください。バルカルン医員様」


「まずエレインさんの主張通りなら、今中毒による猛獣たちの攻撃ということだが。ほほう。まったく。これを信じなければならないのか。すべきではないのか」


「信じてください。お願いします!」


彼はとても面食らった顔で深く悩んで、薬草を分類している私のところにやってきた。


「分かった!とりあえず信じてみる。エレインさん、それでは僕がどうやって手伝えばいいのかい?」


「ありがとうございます!今は時間がないので私が分類したように分けていただけますか?」


「はぁ、わかった」


私は人には通じなくて、中毒された猛獣だけ動けないようにする毒薬を作るために素早く手を動かした。

いつの間にか、私の額には大粒の汗が、まるで雨のように、あごの下に流れ出ていた。

バルカル医員も、非常に熟練した手さばきで、薬剤をうまく分類し、揃えた。

やはり皇室医員局で働く専門医員らしく、手の動きが速くて正確だった。


「はい。これで十分です。それでは、うまく分類した薬草を紐でちゃんと結んでください。このようにしたらいいです」


「わかった!」


私とバルカルン医員はさらにスピードを出して、素早い手つきで数毒草を紐でよく縛った。

薬草を挽いて粉にするともっとよかったけど、今はそんな時間がなかった。

慌ただしく手を動かしていら、あっという間に毒草の束が100個ぐらい作られたようだった。

簡易テーブルの上には約50個の毒草束をさらに作る薬草が残っていた。


「バルカルン医員様! 私は外に行って状況を見てみます。残りの薬草も同じように作ってください」


「うむ!分かった!」


***


「ウーッ」


「ウウウー!」


「ガオー」


一般の野良犬より3倍も体が大きいベテルニー山脈の猛獣の群れが、よろいをまとった騎士団を包囲していた。


「はあ、はあ」


カルロス皇太子と騎士たちは荒い息を吐き出し、猛獣たちの攻撃をかろうじて防いだ。

一見、猛獣の状態は正常ではないようだった。

よだれを垂らしながら、自分たち同士で互いを食いながらも、隙間のある騎士がいれば、素早く首筋をつかんで食いちぎった。

噛みちぎられた騎士の肉が猛獣の鋭い爪と歯に挟まれ、怪奇で不気味な印象を与えた。

猛烈な猛獣の攻撃に対し、ある騎士がカルロス皇太子の前に立ちはだかり、急いで話を切り出した。


「カルロス皇太子殿下!先に避けてください!ここは私たちが塞ぎます!」


猛獣の血を浴びているカルロス皇太子は、普段の明るさとはずいぶん違っていた。

彼は首を振りながら自分の剣を正しくギュッと握り直した。

猛獣たちを眺めるカルロス皇太子の濃い緑眼に冷ややかな殺気がきらめいた。


「俺は大丈夫だ。一緒に残る!」


(キンキン!)


カルロス皇太子は、素早い動きで華麗に剣を振り回した。

鋭い剣で切りつけると、彼の刃に猛獣の内臓が地面に落ちた。


(プシュッ)


カルロス皇太子は慈悲のない手つきで倒れた猛獣の首をナイフでさっと引いて切った。


「わんわん!」


突然、カルロス皇太子に荒々しい猛獣が一度に飛びかかった。

カルロス皇太子は慌てず、体を地面に転がりながら鋭い猛獣のくちばしをかわした。

彼は素早く助走し、鋭い剣で猛獣の首筋をたたきつけた。


「うわぁっ!!」


一度に2匹の猛獣の首がごろりと地面に転がり落ちた。

カルロス皇太子の活躍を見守っていた騎士たちは勇気を得て猛獣たちを激しく攻撃し始めた。


「はっ!」


「こらっ!」


「キーン、キーン」


勢いに乗って猛威を振るった猛獣たちは、自分たちの戦勢が不利になると、尻尾を巻いて素早く山の中に逃げた。

熾烈な戦闘で生き残った騎士たちは、やっと心の中で安堵のため息をついた。

数十人の負傷者が苦しみながら猛獣の遺体とともに地面に寝転んでいた。


「ううう」


「た、助けて下さい。うわぁっ!」


カルロス皇太子は凄惨な光景を見て回りながら、その中でも最も負傷が酷そうな騎士を肩で支え、騎士団に命を下した。


「狩りは直ちに中止する。今すぐ山の下へ下りよう」


「はい!かしこまりました。カルロス皇太子殿下」


皇室狩場の平野に建てられた兵舎に負傷者を助けるカルロス皇太子と数十の血まみれの騎士たちが立ち入った。

兵舎にいた人々がどっと出てきてはっとした表情でざわめいた。

兵舎の中でくつろいでいたセレナが人達のざわめき声に異様な表情で外に出た。

彼女の目に深刻な傷を負った一騎士を助けながら兵舎に入ってくるカルロス皇太子が見えた。

全身に血だらけのカルロス皇太子を確認した彼女は、非常に驚いた表情で素早く走り去った。


「カル!カル!これは一体どういうことなの?体の調子はどう?大丈夫?」


セレナは、カルロス皇太子が怪我をしたのではないかと思い、素早く彼の体に目を通した。

カルロス皇太子に色々薄い傷はあったが、幸いに大した怪我はなかったようだった。

セレナはようやく、心の奥深くに安堵のため息をついた。

兵舎の中にいたジェイラル皇后と4人の皇妃は、セレナの大きな叫び声を聞き、「何が起こったのか」と思って外に出た。

不思議な表情で兵舎を見回っていたジェイラル皇后の目は、大きく痙攣した。

自分の大事な息子カルロスは血まみれになって兵舎の外に立っていた。


「そんな!!カルロス!一体これはどういうことなの?」


カルロス皇太子は、自分が支えてきた人を医員に渡した後、ジェイラル皇后のところに急いで駆けつけた。

彼は非常に切羽詰った表情で、ジェイラル皇后に話を切り出した。


「お母様、今直ちに避けなければなりません。今、ベテルニー山脈で数多くの猛獣が人々を襲撃しています。猛獣が理性を失ったように、皆正常ではないようです。そのうちここにもすぐに降りてくるようです。とりあえず、ここの人たちを皆連れて、ホンス伯爵家に避難してください」


「カルロス!!じゃ、カルは!」


「僕はここに残ります。今、山の中にいるお父様も救わなければなりません」


「駄目だ!カルロス。一緒に行こう!君をこんなに危ない所に残しておくわけにはいかない!」


陰険なジェイラル皇后でも自分の子は大事だったのか、彼女はその場から身動きもせずに踏ん張った。


「心配しないでください、お母様。必ず無事に帰ってきます」


カルロス皇太子が人々に指示を下し、ジェイラル皇后と皇妃を含む貴族たちをみな避難させた。


「うわぁ!」


「た、たすけてくれ」


阿鼻叫喚と化した皇室狩場の平野は、それこそ戦争の渦のように混乱していた。


「まず、ホンス伯爵の兵士や近隣の領主たちにも支援要請を入れた方がいいわ。カル!」


セレナが心配そうな表情でカルロス皇太子に話を切り出した。


「そうでなくてもすでにそうしている。セレナも早くついて行け…、ここは危ない!!」


カルロス皇太子が心配そうな目つきでセレナに話すと、彼女は綺麗な笑みを浮かべて話した。


「医院が患者を置いてどこに行けるの。あまり心配するしないで!カル!!私も最善を尽くして助けるよ…」


「ありがとう、セレナ…。あ!ところでもしエレインは見た?では、一旦エレインでも早く避難させないと。ここはとても危ないから。もしエレインに会ったら頼むよ」


綺麗だったセレナの表情は一瞬にして冷ややかになり、またぱっと笑顔に戻った。


「うん。わかった。カル、エレインを見たら避難させるよ。心配しないで」


「うん。ありがとう、セレナ」


「カル!私先に行ってるね!怪我をした人たちを治療しないと!!」


「うん!分かった!!」


セレナは絶え間なく押し寄せる患者たちを見つめながら、いつの間にか治療所になった宿舎に飛び込んだ。


「うう…」


「い…、痛いです」


「ここにお湯を持ってきてください。包帯とはさみも!」


セレナの素早い指示に、医員局の補助医員らはあわてて走り回った。

兵舎で横になっている騎士たちは、猛獣に四肢が噛みちぎられ、非常に残酷だった。

片方の手足がないのは、まだ良好な方だった。

猛獣に腹部をやられ、内臓が落ちた患者らは、治療を受ける途中に、大半が絶命した。

セレナは皇室医員たちとともに忙しく人々を治療した。

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