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その公爵様とメイドの事情  作者: ロマンスメーカー
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第58話 グレース公爵との別れ

挿絵(By みてみん)


(ヒューヒュー)


(ガタガタ)


冷たい冬風がグレース皇子宮のアーチ型の窓を激しく揺るがした。

私はあわただしい手つきでみんなと一緒にグレース公爵の荷造りをした。

グレース皇子宮全体が新しい公爵領に引っ越すわけなので、気を使わなければならないことが一つや二つではなかった。


「シャーロット!グレース公爵閣下がよくお使いになっているものはこの箱の中に入れておきましたよ!」


「はい!承知いたしました、保母。ちゃんと覚えておきます」


「そして明日から着る服はこの茶色の箱に整理しておきましたので後でもう一回きちんと確認してみてください。いいですね?」


「はい!ご心配なく」


グレース公爵の成人式が行われてから1週間経ったけど、いつの間にか真冬のように風がかなり強くなった。

私は手足がかちかちに凍るような寒さに耐えながら、皇子宮の人々と共に一生懸命馬車で荷物を運んだ。


「これを召し上がる時、気をつけて扱ってくださいね。この中に、割れるものが入っています。念のため箱に赤い色を塗っておきました。このように赤く表示されていることは特に気をつけてください。グレース公爵閣下が大切にされているものです」


「はい!かしこまりました。よいしょ!」


ベイリオ皇居の前には、引越しの荷物を積む馬車の行列が、まるで汽車のように長く並んでいた。

グレース公爵が奉爵された領地に発つことを知らない一般の人々は、何か面白いことがおきるのかと思い回りでうろついていた。

人々はそれぞれ、ひそひそと興味深い表情で荷物を運ぶ私たちを眺めた。


「これはどこに積みましょうか?ご保母様」


「あ、これはグレース公爵がよくご覧になる本の束です。三番目の馬車に積んでください」


「はい、承知いたしました」


早朝から始まったグレース皇子の引越し荷物の整理は昼食時間になってようやくある程度片付いた。


「さぁ、皆、お疲れ様でした。これから食事に行きましょう」


「はい!そうしましょう!! おい、ハンズ!一旦止めて食堂に行こう」


「はい!!」


人々はちらほらと昼食を食べに皇居内にある使用人たちの食堂に向かった。

私は店に行く前に自分の体の隅々をきちんと見通した。

私の頭からつま先まで白っぽいほこりが舞い降りていた。

仕方なく昼食を諦めたまま、皇子宮の私の部屋がある宿舎に帰って綺麗にシャワーを浴びた。


「うぅ…寒い」


シャワー室から出てきた私はタオルで適当に水気を乾かし、皇子宮の保母服ではなく新しい服に着替えた。

ベイリオ皇居の皇室メイドだけが着られる皇家文様の刺繍が施されたメイド服だった。

髪を乾かした後、髪を巻き上げて端正に着飾っていると、もうグレース公爵の保母ではないという実感が湧いた。

グレース公爵ともうちょっとしたら別れると思うと目頭が赤くなった。

目頭に流れる涙を服の袖でふいた後、もう去ることになる私の部屋から出た。

私は自分の領地に発つグレース公爵に会うために皇子宮の接見室に足を運んだ。


「コンコン、コンコン」


「うん!入って」


接見室には、グレース公爵とカルロス皇太子、そしてハエリス公爵がソファーに座って熱いお茶を飲んでいた。

私がドアを開けて中に入ると、三人が同時に私の姿を頭上から下まで見ているのが感じられた。

6つの瞳に穴があくほど私だけを見つめていて、心の中ではとても戸惑った。


「エレイン!」


グレース公爵は私の名前を大声で呼び、涙ぐんで席を立って私に駆けつけようとした。

しかし、ハエリス公爵がグレース公爵の首筋を引っ張って再びソファーに無理やり座らせた。


「えーん。エレイン!!」


「グレース公爵閣下、もう出発なさるんですね。寂しいです…」


私は悲しい気持ちでグレース公爵を見つめながら話しかけた。

グレース公爵はすすり泣きながら悲しげに私に言った。


「一緒に行こうよ。エレイン…。本当にとても会いたくなると思う。僕はエレインと一緒に暮らしたいの。しくしく」


グレース公爵が涙声で私を引き止めることが非常に心が痛んだ。

しかし別れはどうにもならないことだったので、私はあえて涙を我慢してグレース公爵をなだめた。


「公爵閣下の領地は皇居とそれほど遠くないじゃないですか。私が時々遊びに行きます。そして皇居にカルロス皇太子殿下に会いにいらっしゃいますよね?その時来たら必ず会いましょう。私も見に来てください」


「う…うん、勿論だよ。必ず見に来るよ。エレイン」


(トントン)


外出着に着替えたアンナ夫人がノックした後、接見室の中に入ってきた。

私は残念な気持ちでアンナ夫人と抱擁し別れの挨拶を交わした。


「毎週グレース公爵閣下がお好きなクマのグミは、ハエリス公爵家から直接配達されます。これから夫人に任せるので世話お願いします。グレース公爵閣下をよろしくお願いします。アンナ夫人…」


「本当に残念ですね。一緒にできたら良かったのに…。一緒に仕事しながら親しくなったのに。とても名残惜しいですね。エレインさん」


下女長のアンナ夫人が別れを惜しんで、彼女のしわだらけの目もとの涙をハンカチでふいた。


「時々遊びに行きます。夫人!」


グレース公爵が彼の公領に出発する時間になると、接見室にいた我々は全員席を立った。

グレース公爵を見送る人々で皇居の中、外はとても騒がしかった。

街には見物客も殺到し、ベイリオ皇居の正門は大勢の人でごった返していた。

私はすぐに馬車に乗らなければならないグレース公爵の身なりをちゃんと直してあげた。


「エレイン、えーん…、ダメだ。一緒に行こう」


グレース公爵はむりやりに悲しみを飲み込みながら私の方を見てべそをかいた。

私も彼と一緒に過ごした時間がそれほど長くはなかったけど、その間の情が深くて涙がこぼれそうだった。

しかし、私が涙を流すと、グレースの公爵が離れないような気がして、わざと微笑んでみせた。


「グレース公爵閣下、美味しいからって甘い物をたくさん召し上がらないでください。お分かりですよね?歯が痛みますよ。歯を磨くのも忘れないでください。後で歯が腐ったらとても痛いですよ」


「うん。分かった。心配しないで。僕の公領に遊びに来てね! いや、僕が遊びに来るから。エレインより僕が来た方がもっと早いと思うし」


「はい!必ず来てください。お待ちしております。グレース公爵閣下!お体にお気をつけてお帰りください」


「うん。分かった。エレイン」


名残惜しい別れの挨拶を終え、グレース公爵は自分の馬車に乗り込んだ。

間もなくグレース公爵と引越し荷物を積んだ馬車がグレース公爵の領地へと出発した。

私はグレース公爵の立ち去る後ろ姿を通りから見えなくなるまでとめどなく見守った。

いつの間にか、うじゃうじゃ集まっていた野次馬たちが、それぞれ群がってちらほらと散らばっていった。


(ポロポロ)


「はぁ…」


必死に堪えていた涙がやっと私の頬を伝って流れ落ちた。

グレース公爵の澄んだ笑いと私に話しかけていた声が凄く懐かしくなるようだった。

頭をもたげて空を眺めると、馬車に乗って移動するのにぴったりの天気だった。

グレース公爵が彼の領地に行く道は険しくなさそうでよかったと思った。


***


(トボトボ)


グレース皇子は皇居を去ったので、私も私の荷物をまとめるために宿舎の部屋に向かった。

へなへなと歩いていた私の目には廊下の壁にもたれているハエリス公爵が見えた。

ハエリス公爵の黒真珠のような黒い瞳と私の目が合った。

私は彼がここで私を待っているとは思いもしなかったので、突然心臓が激しく動き始めた。


「ハエリス公爵閣下。ここはどうやって…」


「うむ。君が心配で…」


ハエリス公爵は心配そうな目つきで私を上下にじっと見つめた。

先までとても落ち込んでいたけど、彼の優しさにすっかり気分が良くなった。

震える私はの心をなんとか抑えて、ハエリス公爵にかすかに微笑んだ。

ふと考えたら、彼がこの廊下に立ちっぱなしになっているのを他の人が見ると、何だかよくない誤解を招きそうだった。

私は照れくさそうにハエリス公爵を私の部屋に導いた。


「どうもここに立っていてはいけなさそうです。はぁ、ハエリス公爵閣下。むさくるしいですが、私の部屋に…は、入りますか?」


「うむ。じゃ、失禮する」


ハエリス公爵はとても気になる目つきで私が部屋のドアを開けるのをじっと待っていた。

私は固唾を飲み込みながらドアノブの取っ手を回して部屋のドアを開けた。

部屋のあちこちには片づけていた荷物が積まれていて、急に私の顔がほてってきた。


「こう、公爵閣下。私の部屋がちょっと汚いですよね? 荷物の整理で部屋が散らかってますよね。どうしましょう…、公爵閣下の座る所がなくて。あの、この椅子に座りますか?」


ハエリス公爵は私の差し出した椅子に黙って座り、部屋の中を一回見渡した。

私は恥ずかしさで顔が赤くなった。


「かなり散らかっていますので、ご了承ください。公爵閣下、あの… お茶を一杯差し上げましょうか」


ハエリス公爵の目がいつの間にか私に留まっていた。

私が恥ずかしくて顔を上げられないと、にっこり微笑みながら首を振った。


「いや、さっき飲んだから大丈夫…。荷物を整理する部屋が散らかっているのは当然だ。だから大丈夫。エレイン」


「あ…、はい」


ハエリス公爵と一緒の空間にいるだけで息が詰まるようだった。

私は彼に何を話せばいいのか分からずしばらくためらった。

その時、私に話しかけるハエリス公爵の重々しい声が聞こえてきた。


「エレイン。俺の屋敷がまだ安全ではないようで君を連れて来られないんだ…。本当にすまない」


ハエリス公爵が苦々しい表情で私に話すと、私は努めて明るく微笑んだ。


「いいえ、ハエリス公爵閣下。これは私が望んだことでした…。ベル執事様の体内に残っている毒が、ジェイラル皇后陛下のお宮にかかっていた絵の毒と配合方法がほとんど同じだったので。おそらく犯人はこの皇居にいるか、皇室に深く関わった人だと思います。その黒幕が見つかれば、グレース公爵閣下の毒も解く糸口が見つかりそうなので、私はこの皇居に残っていなければなりません。おそらく私の考えに過ぎませんが、ジェイラル皇后陛下は誰かのチェス盤の馬にすぎないと思います…」


私の言葉にハエリス公爵の目は急激に暗くなった。


「元々は皇室の医員局の薬剤師に入りたかったのです。ところで私が履歴がなくて入ることができませんでした。なので、一旦皇居メイドに入って調査してみようと思います。それでもバルカルン先生が私に皇室の医員局の薬草を使うことを承諾してくださったんですよ?時々グレース公爵閣下の体内の毒を解毒する方法も、よく研究してみます。心配しないでください」


何も言わずに私を見つめる彼の視線に、いつの間にか私の部屋は深い沈黙が長く流れた。

静かだった静寂を破り、重かったハエリス公爵の口が開いた。


「君は何もしないでほしい」


「え?」


「それは危険すぎるから…。ただこうやって群れの中に隠れていて、すべてが終わったら俺のお屋敷に来てほしい。そうしてくれないか。エレイン?」


ハエリス公爵の顔にはもし私が傷つくのではないかと心配している表情が如実に現われていた。

いつもむなしく物足りなさばかりだった私の心には、何かでいっぱいになった気分になった。

私は大きな勇気を出して椅子に優雅に座っているハエリス公爵に慎ましく近づいた。

ハエリス公爵は疑問な顔で自分に近づいてくる私をじっと見つめた。

私は何度もためらいながら椅子に座っている彼を私の胸に引き寄せた。

ゆらゆらする彼の黒髪とほのかに漂うペパーミントの香りが私の鼻をくすぐった。


「エ…レイン?」


ハエリス公爵がひどく動揺していることを、私の胸の中でそのまま感じることができた。

しばらくして彼をかばっていた腕をほどいてハエリス公爵の顔を真剣な目つきで見つめた。


「私を信じて下さい。ハエリス公爵閣下。心配しないでください。お分かりですよね?」


ハエリス公爵の瞳孔が地震のように揺れ、彼の両頬が赤く染まった。


「必ず…、ハエリス公爵のもとに行きます。その時まで私を待っていただけませんか?」


私の言葉にいつの間にかハエリス公爵の目つきが魅惑的に大きく曲がっていた。

しばらく沈黙していた彼の魅力的な赤い唇が、私の耳元に近づいて小さくささやいた。


「信じてるよ。エレイン、愛してる…」


いつの間にか私の額にハエリス公爵の温かい唇が濃く触れ合った。

彼の熱い息づかいが私の瞼と小鼻の頬を触りながらくすぐったく当たってきた。

私はどうしたらいいか悩んだけど、とてもワクワクした自分の気持ちを隠すことができなかった。

慎ましく頭を上げて彼の赤い唇の上にそっと私の唇を当てた。

ハエリス公爵の口の中のすがすがしいペパーミントの味が私の口の中にほのかに広がった。

お互いを柔らかく呑み込んでいるうちに私が息をうまく吸えないと、彼はしばらく口を離した。


「うむ、俺も聞きたいんだけど」


「…愛しています。ハエリス公爵閣下」


ハエリス公爵は優しく微笑みながら私の腰を包み、彼の体に私を密着させた。

激しく動く彼の心臓の鼓動が私の胸からそのまま感じられた。


(チュッ)


再び私とハエリス公爵はお互いに行き来しながら熱いキスを交わした。

彼と心を交わすこの時間はまるで幸せな夢を見ているようだった。

もしこれが夢なら絶対覚めないようにと心の中で切実に願った。

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