第56話 君をとても愛してる。エレイン
(サアァー)
私は朝早く冷たい水を浴びながらシャワーを始めた。
初冬だったので水がとても冷たかったけど、部屋の中にシャワー設備があることに感謝の気持ちだった。
寒がりやの私の体質のため、長時間浴びることができず、簡単に浴びってから大きなタオルで体をくるくる巻いてかけた。
それでも寒そうだったので、ベッドに歩いてベッドの上にある布団をぐるぐる巻いて、しばらくじっと座って体温を上げた。
ある程度体が温まってきたようで、新しいタオルをお風呂の引き出しから取り出し、私の濡れた頭をポンポン叩いて乾かした。
窓の外を見ると、いつの間にか真っ暗な夜から青白く夜明けが明けていた。
今日はいよいよグレース皇子の成人式が行われる日だった。
各国の祝賀使臣たちがベイリオ皇国の9番目の皇子であるグレースの成人式を祝うためにベイリオ皇国に到着した。
そしてギランス王国とグルマン王国の祝賀使臣たちはそれぞれ2人の王女と公女、侯爵令嬢と共にベイリオ皇国を訪問した。
人々は、グレース皇子の成人式よりも、カルロス皇太子とハエリス公爵そしてグレース皇子の配偶者が誰になるのかを知りたがっていた。
(ワクワク)
私はなんとかして不安な気持ちを落ち着かせようと頑張っていた。
ハエリス公爵に直接会いに行きたかったけど、セレナと離したあの場面が思い出され、到底彼に会う勇気が出なかった。
⦅あら。まだ純粋なんだね。エレイン、うーん…、そうだね。そう考えることも出来るわ!しかし、貴族社会は少し違うのよ。各家門の背景に子供の社会的地位と位置が変わるからね。母親がメイドなのに、子どもの身分的位置はどうなると思うの…?父は貴族だけど、子供は貴族の役割は果たせず、中途半端な貴族なのに…。だからか、実のお父さんが 簡単に諦めてたんだって。だから私生児と呼ばれるのさ…。むしろ貴族同士で不倫をして生んだ貴族家の子供たちは身の上がまだましだろう。二人の親の家門で保護をどっちからでも受けることができるからね。これから線を越えるなと…。前もって助言してあげてるんだよ⦆
セレナが私に言った言葉が心に深く残っていたようだ。
ハエリス公爵とセレナが一緒に立っている姿を見たその日以来から彼女の言葉が耳元でふと聞こえてきたりしていた。
(パチン)
私は両頬を強く殴って頑張って意識を取り戻そうとした。
今日はグレース皇子の封爵と封地を下賜される授与式がある日なので、私は普段とは違って金糸が華やかに彩られた婦人服を着た。
そして飾りのないアップスタイルの上に、目立たない様々な装身具を注意深く挿した。
(コンコン、コンコン)
準備が殆ど終わるころいきなり私の部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。
早朝だったので私に会いに来る人はいないはずなのに、ふと変な気分になった。
私はそっとドレッサーチェアから立ち上がり、部屋のドアを開けた。
「ハ…エリス公爵閣下…?」
ベイリオ皇家の皇室の制服の上に黒いコートを素敵に羽織ったハエリス公爵が私を眺めながらドアの前に立っていた。
私は突然のハエリス公爵の訪問に当惑して顔が赤く染まった。
彼は真剣な表情で私を見つめ、控えめに口を開いた。
「エレイン、早い時間だけど、失礼じゃなかったらしばらくお話しをしたいんだけど…」
「はい…、分かりました。少々お待ちください」
(ドン)
寮のドアを強く閉めて、激しく走る自分の心臓を努めて落ち着かせようと努力した。
あまりに当惑して寮のドアを強く閉めてしまったけど、どうやらハエリス公爵に失礼をしたようだった。
しかし、彼が直接私に会いに来るとは思ってもいなかったので、それ以上深く考えることができなかった。
「はぁ…」
私は大きく深い息を吸って、長く吐いた。
ハエリス公爵が外で私を待っていたから、素早くタンスからコートを取り出して羽織った。
急いでドアの外に出ようとした時、鏡に映った自分の顔を見ていると、唇の色が少しくすんでいる気がした。
それで化粧台の上に置いてあるピンク色のリップを取り出して唇に薄く塗った。
再び鏡を見ると、さっきよりずっと元気そうに見えた。
(キイッ)
グレース皇子宮の廊下の壁にもたれて私を待っていたハエリス公爵が寮の外に出る私を見つめた。
彼は私の姿をしばらくじっと見つめてから何も言わずに頷いた。
「外に出よう」という話のようで、頷きながらハエリス公爵の後について歩いた。
私とハエリス公爵は自然にあまり人の行き来がないグレース皇子宮の裏庭の庭園に足を向けた。
外に出ると初冬の夜明けだったせいか、上着を着て出てきたのにもとても肌寒かった。
白い雲のような息が私たち2人の息に沿ってぐるぐると広がった。
ハエリス公爵はしばらく私を見つめ、自分の着ていたコートを脱いで私の肩に羽織ってくれた。
「いいえ、大丈夫ですよ。 公爵閣下も寒いでしょうし…」
私が再びコートを彼に脱ごうとすると、ハエリス公爵は私の肩をギュッと掴んだ。
私たちはしばらく黙ってお互いをじっと見つめた。
じっと私を見つめていたハエリス公爵が、先に口を開いた。
「エレイン、なぜあの時一人で勝手に行ってからまた帰ってこなかった?」
ハエリス公爵の言葉に私はどう答えればいいのか分からないような気がした。
その日、ハエリス公爵と一緒にいたセレナの姿が浮かび上がった。
それからセレナが私に言った色んな言葉が耳元でブンブンと響いているようだった。
しばらく悩んだ末、彼に私の率直な気持ちを話すことにした。
後になって後悔したくなかったからだった。
「それは、ハエリス公爵閣下がセレナ様を抱いていたので…。お二人はとてもお似合いのように感じました。なのでハエリス公爵閣下の家に再び訪問することはできませんでした」
私の言葉にハエリス公爵の黒真珠のような黒い瞳が、まるで地震でもあったかのように激しく揺れた。
私をじっと見つめているハエリス公爵に続けて話しを繋いだ。
「ハエリス公爵閣下。もしご存知だったか分かりませんが、私は公爵閣下が大好きです。僭越に公爵閣下が好きというのは非常に愚かだということをよく知っています。それでも私の心はそうでした」
普段なら絶対言えない私の心の中の話が率直に口から流れ出た。
いつの間にかハエリス公爵の両頬と耳たぶの先が真っ赤になった。
彼がまるで私に弁解でもしているかのように急いで口を開いた。
「あまりにも遅く俺の気持ちを伝えるんだけど、俺も君が大好きだ。いや、愛している。エレイン、俺は自分が強いて言わなくても君と俺の気持ちは同じだと思っていた…。こんなに遅くなって君が先に言わせて本当にすまない。エレイン、俺を信じてくれ。その日、決してセレナを抱いていないと天に私の命をかけて誓う!」
私は首を横に振りながら彼を見ながら言った。
「それは言い訳です。ハエリス公爵閣下がセレナ様の肩を握っていたじゃないですか。私がしっかり全部見てましたよ?」
「セレナが倒れそうだったから…」
冷静で冷たいハエリス公爵の顔に困った表情が浮かんだ。
私の心の中を彼に率直に話すと、何だか訳もなく悲しくなってきた。
これまで一人で気をもんでいた時間が、波のように押し寄せてくるようだった。
彼が言い訳するかのようにまた口を開こうとすると、私はもう1つの問題をハエリス公爵に問い詰めた。
「そして近いうちにご結婚なさるんですって?それではこうして私の所に来たらだめだと思います。私はハエリス公爵閣下が好きではありますが、配偶者のいる結婚した男性は嫌いです。ハエリス公爵の愛人になることは、なおさら嫌です。愛人になるからには私は…。私に与えられた人生に最善を尽くして豊かに暮らしたいです」
私の喉に魚のとげのようにかかっていた話をしてみると後悔はあったけど胸がすっきりした。
ところが、さっきからハエリス公爵がとても妙な目つきで私をじっと見つめていた。
さっきの困った表情は消え、今は興味深い眼差しで私の顔をじっと見つめていた。
何だかハエリス公爵の赤い唇の口元が少し上に上がっているようだった。
私は言葉をしばらく止めて、ぼんやりと彼を見つめた。
私たち二人の間に妙な気が流れているようで何となくぎこちなくなった。
私は自分の言いたいことを全部終えたので、そろそろこの気まずい場所から抜け出したかった。
それで、震える声でハエリス公爵に開かない口をやっと開いた。
「だから…、もうこれからは私を訪ねてこないでほしいです。もう帰ります。ハエリス公爵閣下」
私は彼に丁寧に礼を尽くして彼のコートを脱いで、再び彼に返した。
しかし、ハエリス公爵は私が渡したコートを受け取らずに、そのコートを渡す私の手首をぎゅっと掴んだ。
私は疑問そうに彼をじっと見つめた。
何故かハエリス公爵の目つきが夜空の星のようにきらきらと光っているようだった。
何か我慢できなさそうな顔で微笑みを浮かべていたハエリス公爵が私にそっと聞いた。
「エレイン。今…、君は…、妬んでるのか?」
「はい?私が、公爵閣下の何かになるわけでもないですし、どうやって嫉妬することができますか。公爵閣下と私の軽いキスで何かの関係にならないってことはよく知っています」
「うーん…?私たちがあの時交わしたその口づけが軽いキスだったと?」
ハエリス公爵がそれとなく意地悪そうな表情で私に話すと、私には彼に何と答えたらいいのか分からなかった。
ハエリス公爵は私をじっと見つめながら彼の重い口を開いた。
「俺はその日、最善を尽くして俺の気持ちを伝えたと思ったんだけど…。どうにも俺の真心が足りなかったようだ。これからもっと最善を尽くしてみることにしよう。君が俺の心を感じられるようにな。エレイン」
「え?」
私は彼の言っていることがわからず、不審な表情でハエリス公爵を見つめた。
ハエリス公爵は非常に魅惑的に微笑み、彼のしっかりとした腕で私の腰を包んだ。
(ドッカリ)
私の手に持たれていたハエリス公爵の皇室の制服コートが土に落ちた。
彼と僕は胸を寄せ合って相手の顔を近くに合わせた。
黒真珠を抱いているかのような彼の魅力的な目つきが半月のように綺麗に曲がっていた。
ハエリス公爵の赤い唇が私の唇に軽く「チュッ」とぶつかった。
とても軽いキスだったので、なんだか物足りない気がした。
しかし、「最善を尽くす」という彼の言葉が冗談ではなかったのか、もう一度彼と私の唇を合わせた時は、次第に口づけが濃密になった。
いつの間にか彼の熱い舌が私の口の中に入ってきて、口の中をやさしく遊泳した。
ハエリス公爵の歯と私の歯列がお互いに軽く衝突した。
彼との濃い口づけに息が苦しくなるような胸がいっぱいな気持ちになった。
私が上手く息ができなくなると、ハエリス公爵がしばらく唇を離して、私が息を吐けるようにしてくれた。
「はぁ…」
(グイッ)
今回はハエリス公爵が私のことを彼の懐に深く抱えた。
彼が私をあまりにも強く抱きしめたので、これはこれで息を吸うことができなかった。
しかし、やっと彼の気持ちがよく伝わってくるようだった。
今まで一人で気をもみながら心配していた全てのことが、まるで雪が解けるように消えた。
ハエリス公爵の心の表現の仕方はどこか中途半端で非常にぎこちなかった。
けれども、私に向った彼の気持が、正直に伝わってくるような気がした。
私も彼も誰かを愛するのは初めてだった。
だから生半可で下手なことは、もしかしたら当然なことなのではないだろうか?
(ドキドキ)
彼の心をたっぷり受け止めた私の顔には、いつの間にか幸せな笑みが浮かんでいた。
ハエリス公爵と私は日が明けるまでその場で深いキスを交わした。
「はぁ…」
息が詰まるような長い時間だったけど、あまりにも早く過ぎ去ったようだった。
ハエリス公爵は彼がのみ込んでふっくらと膨らんだ私の唇を愛らしい目で見つめていた。
彼は自分が残した口づけの痕跡を親指で軽くふき取りながら言った。
「エレイン...、君を俺の愛人にしたいと思ったことは一度もない。俺にはただ君一人だけだ。俺を信じてほしい」
自分が言って照れくさいのか、彼が顔を赤くすると、私の顔もつられて赤くなった。
彼は私の片手をぎゅっと握って胸のあたりに当てた。
ハエリス公爵の心臓は暴走する機関車のように激しく鼓動していた。
(ドンドン、ドンドン)
「君を本当に凄く愛しているよ…、エレイン」
肌寒い初冬に時ならぬ暖かい春風がそよそよと吹いてくるようだった。
ハエリス公爵と私の愛の熱気が、私たち2人の間を再び熱く掠めた。




