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その公爵様とメイドの事情  作者: ロマンスメーカー
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第54話 思わぬベル執事の死

挿絵(By みてみん)


(パカラッパカラッ)


(ピューピュー)


素早く走る馬のスピードに猛烈な風が私の両頬を激しく打ちつけた。

私たちはベイリオ皇居ではなく、ハエリス公爵家へ速いスビートで走っていた。

私は、ハエリス公爵の広い背中に私の顔をうずめて強い風をかわした。

両目から落ちるとめどない僕の涙は、ハエリス公爵の背中をびっしょりと濡らした。

私たちは先日、ベイリオ皇居に向かう途中、疲れた馬を交わすため、公爵家の秘密連絡所に立ち寄った。

そこで、到底あり得ない。いや、信じられない知らせを聞くことができた。

連絡所を守っている公爵家のとある騎士が震える手でハエリス公爵に書信を渡した。

ハエリス公爵は、疑問の表情で騎士が渡した書信を受け取り、まるで石膏像のようにかちかちに固まった。

私は不思議な目つきでハエリス公爵のそばに行き、彼の書信をゆっくりと読んだ。


[1848年10月16日推定、午後11時頃、ベル・ロトロン死亡。死因は毒殺 ハエリス公爵に速やかに連絡お願い]


「公爵閣下…」


私の声にハエリス公爵は不ぱっと気が付いてじっと私を見ていた。

冷たくて冷静な彼の2つの瞳に毛細血管が赤く裂けたㅏけど、涙は見えなかった。

彼は感情の動揺をほとんど見せず、連絡所で新しく交換してもらった馬に乗り込んだ。

けれども、私の手を握って馬に乗せる彼の指先は、目に見えるほど激しく震えていた。

私がハエリス公爵の腰をぎゅっと抱きしめると、彼は馬の脇腹を足で強く蹴った。


(ヒヒーン)


「はいっ!」


私とハエリス公爵は一日の半日を休まず走って公爵家の邸宅の前に到着した。

馬から降りた私達二人は、何も言えないまま、邸宅の鉄門の前にじっと立っていた。

公爵家の人々の中で私たちの姿を見た人がいたのか、しばらくしてアンドリュー男爵とエレン夫人が迎えに来た。

アンドリュー男爵とエレン夫人は非常にやつれた姿で私たちを迎えた。


「お帰りなさいませ…、主君」


アンドリュー男爵がかろうじて涙をのみ込んでハエリス公爵に話しかけた。

ハエリス公爵は両拳をギュッと握り締めて、何の返事もなくじっと頷いた。

アンドリュー男爵は悲しみに込み上げて、結局、涙をこらえきれず、涙をスーツの袖でふいた。


「主君。ベル執事様はこちらに祀られています。私についてきてください」


アンドリュー男爵が私達をベル執事を祀る別館2階の部屋に案内した。

恐らくハエリス公爵と私はベル執事の個室に案内されているようだった。


(ギシッ)


アンドリュー男爵がベル執事の部屋のドアを開けてその中へとハエリス公爵と私を案内した。

きちんと整理された部屋の中央には似合わない黒い棺おけが寂寞と置いてあった。

ハエリス公爵はとても信じられないという表情でじっと立って、穴のあくほど管を見つめた。

赤く染まった彼の目頭から熱い涙が一滴ぽつんと床に落ちた。

アンドリュー男爵が泣き止みながら頑張って声を整え、ハエリス公爵に報告した。


「ハエリス公爵閣下…。ベル執事様の死因は、恐らく極毒と思われます。数日前、ベル執事様が朝、出勤していなかったので、私が確認しに上がってきてみると、すでに亡くなっていました。ハエリス公爵家の医員らを呼んで死因を推定してみましたが、ベル執事の左中にある指から、ほんの少し鋭い針で刺された傷が確認できました。おそらくどこかで極毒が埋まっていた鋭いものに刺されて亡くなったようです。しかし、医員らはベル執事を死なせた極毒がどのような種類の毒なのか特定することができませんでした。医員たちも初めて見た毒だそうです」


ふと南側の魔手の森へ旅立った日、私を見送ってくれたベル執事の姿が頭に浮かんだ。

もしかして彼は自分が死ぬとあらかじめ分かっていたのだろうか?

最後の挨拶だとは知らなかったベル執事の言葉が私の心を大きく響かせた。


『ハハハ。なるほどですね!! 本当に幸いです。 お二人様に似たあの方にぜひ会いたいですね。残念ながら、私にそんな機会はないと思いますが…、ふふっ。お二方がどうか幸せになるようにお祈りします』


秘密の連絡所で彼が殺されたという知らせを聞いても、私はとても信じられなかった。

しかし、いざベル執事の部屋の中に置かれている黒い棺おけを見ると、今になって彼の死を実感した。

泣きすぎてむくんだ私の目から再び大粒の涙があごを伝って床に落ちた。

私は丁重に腰をかがめて棺の中にいるベル執事に挨拶した。

そして彼を死に至らしめた毒の種類を知るために慎重な足取りで黒い棺おけに近づいた。

黒い棺おけの中には、怪奇な姿勢で全身が折れているベル執事が見えた。


「は」


息が切れるまで、大きな苦痛の中でもがいたのか、体中の骨の節々がねじれている無惨な姿だった。

とても目を開けるに忍びない凄惨な光景に、一瞬私の頭が真っ白になった。


(トボトボ)


ハエリス公爵が私の背後に歩み寄ってきて彼の大きな手で私の目を隠してくれた。

いつの間にか、私の頭上から熱いハエリス公爵の涙がとめどなく落ちていた。

私は何も言わずに背を向けて彼を私の懐にしっかりと抱いた。


「くぅッ…うぅ…うぅ…」


ハエリス公爵は私の肩に自分の顔をうずめ、しばらく肩を震わせた。


「ふう」


ずっと堪えてきた彼の深い悲しみを悲しく吐き出し、切なく泣いた。

私の肩の裾はいつの間にかハエリス公爵の涙で満ち溢れて濡れてった。

何も言わずにとめどなく流れる涙は、彼の悲しみのどれほどなのかを考えさせた。

私たちはベル執事の棺が置かれている部屋で長い間抱き合って彼を失った悲しみを吐き出した。


***


(ポツポツ)


空から晩秋の雨が流れる涙のように、「ザーザー」と物悲しく降ってきた。

真昼の時間帯だったけど、黒雲が太陽を覆って空は一面に濃い墨色だった。

灰色の空の下、黒い傘をさした人々は、ハエリス公爵が所有する個人墓地の前に入り交じって集まっていた。

私は悲しそうな目つきでぼんやりと、冷たい石碑を見つめた。


【皇暦1790年1月3日~皇暦1848年10月14日。ベル・ロトロン死亡】


これといった文もなく、簡単な生年と死亡日が刻まれた碑石の上から「ぽつぽつ」と切ない雨脚だけが落ちてきた。

人々は各自の手に白いフローレンスの花(菊の花の種類)を持っていた。

身分の高い人から順番に彼の墓の前に立てられた碑石の下に花を置いておいた。

私の番になると、白いフローレンスの花を石碑の下にぎっしりと積み上げられた花の上に注意深く置いた。

私は自分の席に戻り人々から少し離れて葬儀に参列するハエリス公爵を見つめた。

男爵の地位を返上し、ベル執事の席代わりの執事アンドリューが黒い傘を差してハエリス公爵のそばにいた。

ハエリス公爵は無表情でぼんやりと葬儀を見つめていた。


「天にたてられた永遠の祝福をくださるネロナ様がどうかあなたの平安な安息を許してくださいますように…。平和で祝福された世の中にあなたの魂を導きますように…」


ベイリオ皇国の男の信官の追悼祈祷がいつの間にか終わった。

ベル執事の葬儀に弔問に来た彼らの長い黙祷を最後に葬儀はすべて終えることができた。

ハエリス公爵が何の言葉もなく席を離れると、弔問客もそれぞれ馬車に乗って離れて行った。


「俺たちも行こう…」


カルロス皇太子が、グレース皇子と私を交互に見ながら言った。

私は墓地を離れるハエリス公爵とアンドリュー男爵の後姿をずっと見ていて、カルロス皇太子が帰ろうと言ったことも知らなかった。


「エレイン?何を考えてる?」


「え?何でもありません」


「さあ、もう皇居に戻ろう…」


「はい、かしこまりました。殿下…」


私はカルロス皇太子とグレース皇子とともに皇室専用馬車に乗って皇居に出発した。

晩秋の雨で通りには多量の落ち葉がびしょびしょに濡れて汚れていた。

静かな沈黙が馬車の中を重く押さえつけているようだった。

しばらく悩んだ末、ハエリス公爵が心配すぎて到底このまま離れることができなかった。

葬儀の間中、ずっと淡々としているように見えたけど、母親のレインネ皇妃を失った時のように、ベル執事の死に大きな衝撃を受けたようだった。

私はハエリス公爵の悲しい気持ちを彼のそばで慰めてあげたかった。


「あの…、カルロス皇太子殿下…。しばらく馬車を止めていただけますか?」


「何で?エレイン?雨がこんなにたくさん降っているのに?」


カルロス皇太子が心配そうな顔で私に言った。


「ほかでもなく、さっき私の手袋をハエリス公爵のところに置いてきたんですよ」


「あ…。じゃ、馬車回すよ。雨もこんなに降っているし」


「いいえ、馬車が出発したばかりなのでこのまま走ればいいと思います。馬車はハエリス公爵家の前にもたくさんありますからね。グレース皇子様、カルロス皇太子殿下と先に皇居にいらっしゃってください」


グレース皇子は私のことを心配そうな目で見つめながら言った。


「エレイン。雨に濡れて風邪をひいたらどうする?後で人を送って探してあげるよ。それとも僕が一つ新たに買ってあげようか?」


「いいえ、もったいないじゃないですか。私の手袋だけ探してすぐついて行きますよ」


私が丁重に馬車から降りると言ったら、2人は仕方がないという表情で馬車を止めてくれた。


(パカラッパカラッ)


カルロス皇太子とグレース皇子を乗せた皇室馬車が私から離れて行った。

私は黒い女性服の上に黒い雨具を羽織ってハエリス公爵家に引き返した。

しとしとと降る秋雨の雨が、私の黒い雨具を伝ってぽつりと落ちた。

10分ほど濡れた落ち葉を踏みながら歩いていくと、すぐにハエリス公爵家の邸宅が現れた。


(コツコツ、コツコツ)


雨水に濡れた鉄の扉をたたきながら屋敷から人が出てくるのをじっと待った。

まもなくハエリス公爵家で黒い傘をさしたアンドリュー執事は驚いた表情で私を迎えた。


「こんにちは。エレインさん」


「はい…。こんにちは。アンドリュー執事様」


「さあ、お入りください。こちらへどうぞ」


新たなハエリス公爵家の執事となったアンドリューは丁重に私を本館に案内した。

私は、雨水がいっぱいの黒い雨具を、ばたばたとはたいて玄関にかけ、公爵家の本館に入ることができた。


「あの、アンドリュー執事様…。ハエリス公爵閣下はお宅にいらっしゃいますか?いらっしゃったらお会いしたいです」


私の言ったことを聞いていた執事のアンドリューは、ひどく困惑した表情をしてぐずぐずした。

私は不思議な目つきで、そういうアンドリュー執事をじっと見つめた。


「ああ、はい。お宅にいらっしゃるんですが…。ただいまお客様がいらっしゃってしばらく屋外庭園にいらっしゃいます。公爵閣下がご用が終わるまで少々お待ちいただけますか?」


「分かりました」


アンドリュー執事は私をハエリス公爵家の応接室に案内した。

彼は応接室のドアを開けて入り、温かい紅茶やクッキーをテーブルの上に置いて、再び外に出た。

しかし、熱いお茶が冷めるまでハエリス公爵は現れなかった。

多分とても忙しいようなので次にまた来ようと思って席から起き上がった。


「もう行くんですか?エレインさん?」


「はい。グレース皇子様が待っていらっしゃるようなので。それではまたお目にかかります」


はい、気を付けて帰ってください。エレインさん」


「出なくても結構です」


私はアンドリュー執事に別れの言葉を述べてハエリス公爵の屋敷から出た。

幸い、一日中降っていた雨が止んだので、湿った雨具を羽織らずに済みそうだった。

外へ出ようとする私の足取りは、ふと公爵家の庭の方に向かった。

ただ遠くからでもハエリス公爵を見たかったからだった。

私は慣れた足取りで公爵家の屋外庭園に到着した。

庭の真ん中には二人のとても似合いそうな2人の男女が互いに向き合って立っていた。

黒いドレスを着たかか弱い姿のセレナがハエリス公爵の胸にもたれて悲しく泣いた。


「ハリ。どうしよう。ベル執事さん。はぁ…、こんな風に行かれるなんて。信じられない。しくしく…」


ハエリス公爵はセレナの弱々しい両肩をつかんで彼女を倒れないように添えてあげた。

二人の姿を見た瞬間、私の心臓がどすんと床に落ちたようだった。

その時、ハエリス公爵の「黒真珠」のような2つの瞳と私の視線が虚空で目が会った。

私はまるで2人の男女の密会を盗み見たようで、どうしたらいいのか分からず困惑した。

彼にあたふたと頭を下げて挨拶し、まるで誰かに追われているように素早くその場を抜け出した。


(トボトボ)


ハエリス公爵家を出てしばらく当てもなく歩いていると、また空から雨がぽつぽつと降ってきた。

私は、手提げの雨具をまた私の体に羽織って、秋の雨を長い間当たりながら歩いた。

雨具の上にぱたぱたと落ちてくる雨水がなぜか私の気持ちのようだった。


(パカラッ)


「どうどう」


通りすがりのある馬車が客を降ろして、私の前に立った。

私は乗ろうかどうか悩んで結局、その馬車に乗って皇居に戻ってきた。

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