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その公爵様とメイドの事情  作者: ロマンスメーカー
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第53話 謎のような南の魔手の森

挿絵(By みてみん)


(パカラッパカラッ)


荒く走る馬の馬蹄の音が、まるでリズムに乗るように素早く地面をたたいた。

ベル執事とともに北の魔手の森に向かって走ったように、私は10番の馬を乗り換え、南の魔手の森があるデルガ子爵の領地に向かっていた。

それでも何回か経験があったためか、初めて馬に乗った時よりは大変ではなかった。

私と5人の影の騎士は丸2日を走って、南の魔手の森の近くにあるデルガ子爵嶺に到着した。


「ガオー!」


「ウウウー、ウウウー」


じっと聞くだけでも魔手たちが恐ろしい喊声を上げながら南側の魔手の森を抜け出し、絶えず領地に押し寄せてきた。

ベイリオ皇国軍数万の騎士は、領地を守り、魔手らと厳しい戦闘を繰り広げていた。


「ううっ…」


「ああっ!!」


「早く城壁に防御陣を構築しよう! 急いで動いて!!」


「赤のオオカミ騎士1大隊は魔手の裏側から攻撃せよ!」


「ガオー!!!」


戦闘に乗り出した騎士団の団長らが首に青筋を立てて、大きな声で騎士らに命令を下した。


「はぁ、はぁ、はぁ」


魔手たちと激戦を繰り広げる騎士たちは、それぞれ疲れた表情で荒い息を吐きながら緊迫した戦闘を繰り広げた。

デルガ領地の城壁は、南側に「魔手の森」に近いためか、先に通ってきたほかの領地の城壁より倍は高く見えた。

城の上で数多くの騎士が矢と岩、お湯を下に注ぎ、城壁をよじ登る魔手に応戦した。

私は両目をしかめて城壁のどこかで戦場を指揮しているハエリス公爵を探した。


(バタバタ、バタバタ)


様々な色の鷲の旗がなびく城楼に戦場を指揮する彼の姿が見えた。

私のそばに立っていた影騎士の1人が気がかりな顔で私に尋ねた。


「エレインおお嬢さん。今すぐ城に行かれますか?案内しましょうか?」


私は遠くからハエリス公爵をしばらく見つめ、首を振りながら言った。


「いいえ、私が今行ったところであまり役に立たないと思います。一旦南の魔手の森の中に入ってみなければいけないですね。私の推測では魔手がこのように飛び出す理由が必ずあると思います」


私は北の魔手の森でも、嗅いだことのない嫌な匂いを漂わせる南の魔手の森をじっと見つめながら言った。

南側の魔手の森の入り口のあちこちでは、多くの騎士が私がベル執事に知らせた解毒方法で、解毒草を燃やしていた。

しかし、乾燥していた北の森より南の森が気候がずっと蒸し暑く、空気は湿っていた。

騎士らが燃やす解毒煙は、鬱蒼とした森の入り口に止まっていたが、次第に薄くなっていった。

それでも戦場で絶えず解毒草を燃やしていたため、仲間を食べていた北側の魔手たちの状態より大丈夫そうに見えた。

私は前もって準備してきたノルソンの花を騎士たちに配って、くちゃくちゃ噛んで全身につけた。

乗ってきた馬を木に良くつないだまま、影の騎士と私は南の魔手の森に入った。


「クエッ」


「クエッ、クエッ、ウウウー」


「ガオー」


南の魔手の森の入口に入るやいなや、前世のアマゾンが思い出されるほどうっそうとした密林が広がっていた。

確かに南の方に下りてきたら、じっと立っているだけでも汗が出るほど物凄く暑かった。


「はあ、はあ」


「ハアッ、ハッ」


うっとうしい空気の熱気のため、私と影の騎士たちはあまり歩かなかったけど、すぐ疲れはてた。

地面もすごくぬかっていて、たちまち靴の中に泥が絶え間なく流れ込んだ。

一日中歩いていると、足に水ぶくれができたのを繰り返し、とてもひりひりして痛かった。

私たちはできるだけ森の中の魔手たちと出会うのを避けて、南の魔手の森を懸命に探索した。

私は岩を覆う緑色の苔と流れている小川、そして泥をちょっとずつ味見した。


⦅これは北の森で使われた毒に似た成分が含まれているけど、毒ではない別の成分がある…。それで煙を燃やしても、ブラックドラゴンの血を引くハエリス公爵閣下がいらっしゃっても、魔手たちがかんかんになって暴れてるみたい⦆


調査してみると、私の頭では理解できない多くの疑問が頭の中からぷかぷか浮かんでいた。

どう考えても、南の魔手の森に広がっている毒は、毒ではなさそうだった。

確かにあちこちに数多い薬草はまかれていたけど、殆どの薬草は殺傷力がなかった。

そして幻覚症状も全くないものたちだったので、正直言ってランダムむやみに混ぜた意味のない配合のようだった。

私はまるで解きにくい数学の問題に遭遇したような気がした。


⦅この南側の魔手の森の空気の中には、私が一度も嗅いだことのないにおいが混じっている。一体これは何だろう? この密林のようにうっそうとした森の中で、果たして私が見つけることができるだろうか⦆


今、この事態を起こしている毒は、南側の魔手の森で自生する毒草ではないかも知れない。

しかし、なんとかしてこの南の魔手の森の中で何でも見つけなければならなかった。

魔手との戦闘が長くなるほど、ハエリス公爵と数万の騎士、そして民の安危は断言できなくなった。

南の魔手の森は他の地域より比較的遅く闇が訪れた。

私たちは日が暮れて暗くなるまで熱心にあたりを探索しながら宿る隠れ家も一緒に探した。

残念ながら北側の魔手の森のように身を隠すような大きな洞窟のようなところは見あたらなかった。

私と騎士たちはそれでも安全そうな岩が集まっているところに人がうずくまるような浅い洞窟を掘った。

私が泊まる土窟は、3人の影の騎士が一丸となって作ってくれた。

私たちは真夜中に焚き火もできないまま、真っ暗な洞窟の中で夜明けになるまでうずくまった。

数日が経ったけど、何の手がかりもつかめず、私たちはジャングルのような「魔手の森」をしばらく迷った。


「今回はどちらに行ってみますか?エレインお嬢さん」


「私たちが行ったことのないのはどこでしょうか?私が方向感覚を失ったようです。ここがどこなのかもよく分かりません」


「ふむ。多分向こうへ行けばいいと思います」


「はい!分かりました。それでは今日はあちらで探索しましょう」


私たちは疲れた体を引きずって魔手の森の中の別の場所に移動した。


「ウウウー」


「ウーッ」


森の魔手がほとんど抜け出していたので、私たちはもうちょっと楽に走り回ることができた。

しかし、森の中に魔手が全くないわけではなく、我々は緊張を解くことができなかった。

長い木立の間で日が次第に傾くにつれ、いつの間にか空が薄暗くなった。

私たちはまだ安全そうな木々にもう一度穴を掘った。

私と騎士たちは気温がどかりと下がる寒い夜に備えて、真っ暗になるやいなや洞窟の中に入って深く身をすくめた。

いくら暑い南の地方だとしても、日が落ちた夜はまるで初冬のように涼しくてとても寒かった。

土窟の中では目を閉じていたけど、私の頭の中には多くの疑問がぷかぷかと浮かんでいた。


⦅これはまるで…、黒幕に隠れているその毒術師が私に投げかけた謎の問題みたい。毒でなかったら一体何なんだろう?⦆


黒幕の中に隠れている疑問の敵が、私がこの問題をどう解決するか見守っているようだった

暗闇が深まると、領地を攻撃した数多くの魔手が森に戻ってくる足音に大地が大きく響いた。


「ドン!ドンドン!」


(ダダダダッ)


(ドンドン、ドンドン)


まるで昔の90年代の映画「ジュラシック•パーク」という映画で見た場面のように、地面と茂みが大きく揺れ動いた。


⦅なぜ、魔手たちは朝になると森の外に出て、夜になるとまた戻ってくるのか?日が昇ったら外に出て、日が昇ったらまた森に戻ってくるということをずっと繰り返している。何かに操られるわけでもないし。一体何だろう…?あ!?⦆


その瞬間、私の脳裏に稲妻のようにかすめたのがあった。


⦅操縦する?⦆


前世で映画を撮る時、私の台詞ではなかったけど、ヒロインの台詞だった一フリーズが頭の中に浮かんだ。


【イェリン:何かのホルモンの奴隷でもあるまいし、彼のフェロモンに私が操られているみたい。はぁ、本当に気が狂いそう…】


真っ暗だった空がほんのりと明るくなると、魔手の森には再び朝が訪れた。

私と騎士たちはできるだけ息を殺して、ノルソンの花をかんで全身につけた。

そして、用心深い足取りで再び魔手の森の周辺を隅々まで探索し始めた。

どれくらい経っただろうか?敏感な私の臭覚が空気に混じっている異臭のような青キノコが見えた。

これまで勉強した数万冊の本に載っていなかった一度も見たことのないキノコだった。

おもに、暗い木陰の下に、傘をまいたようにぎゅっと窄んでいたけど、その青いきのこを採取した私は、あたりをさがしてみた。

周りをゆっくり見てみると、今度は陽の当たるところに青いキノコと同じ形で色だけ違う赤いキノコが見えた。

そのきのこは、まるで傘が咲いたように咲いていて、そのきのこを採取して匂いをかいでみた。

匂う香りが青いキノコと少し違うようなので、赤いキノコの角を取って身長深く味を占めた。

青色キノコと赤色キノコは色は違ったけど、驚くべきことに同じ味がした。

しかし、一般人なら気づかないほど漂う香りは微妙に違っていた。

詳しく観察してみるとヤンダルのキノコは頭が赤く、ぱっと広がっている反面ヤンダルのキノコは頭がすぼめ青色を帯びている。

やっと問題の答えを見つけたようで、私の顔には明るい笑みがからりと浮かんだ。


「騎士さん!もう城に戻りましょう。ついに原因が見つかりました!」


私は青いキノコ、赤いキノコ、そしていくつかの薬草を取ってハエリス公爵のいる城に向かった。

僕はハエリス公爵。彼にとても会いたかった。


***


私と騎士が城に到着した時は幸いにも多くの魔手が森に帰った時だった。

夜になると、城では魔手が回った隙に崩れた城壁を素早く補修していた。

城壁工事をする作業員たちの手の動きが忙しそうに見えた。

領地に入ってみると、まるで爆弾で爆撃されたように廃墟になった村が見えた。

どうしてもすぐに目を開けて見ることができないほど、現場はあまりにも残酷だった。

空を飛んでいた魔手が領地を侵したのか、村の家屋の屋根はほとんど何もなかった。

大切な家族を失った人々と子どもたちの泣き声が廃墟となった城全体に悲しく響いた。


「しくしく…、ダメ!ネバン!」


「お母さん...、しくしく…。お願い!お願い!起きてください!!」


「うわぁん!」


遠くでハエリス公爵が冷たい目つきで冷静に状況を指示しているのが見えた。

彼のそばには、この城の城主らしき男と護衛する様々な騎士もいた。

私は震える気持ちを頑張って静めて落ち着いた足どりでハエリス公爵に近づいた。


「あの…、ハエリス公爵閣下?」


揺れない冷静な視線で状況を指揮していたハエリス公爵は私を見るやいなや瞳孔が激しく動揺した。


「エ…レイン?」


私が来るとは思いもしなかったのか、ハエリス公爵はとても驚いた目つきで私をじっと見つめた。

私は嬉しさを包みきれずに彼の方に近づいて行った。

ハエリス公爵は見るに忍びないほどやつれたように見えた。

言葉を失い、私を見つめていたハエリス公爵が、急いで私の手を引っ張って口を開いた。


「こちらに来なさい…」


私は陰の騎士たちと別れ、建物のあまり破壊されていないところに入った。

ハエリス公爵は私の両肩を握り締めて心配そうな目つきで言った。


「一体ここにはどのようにやって来たんだ?ここはとても危ない…、早く帰った方がいい。俺が騎士をつけてあげよう。今すぐここから出たらいいな」


ハエリス公爵はどうすべきか分からないという表情で静かに私を見つめた。

私の両肩を握ったハエリス公爵の腕がだんだん強くなり、ごつんと解放された。


「は」


低いため息をついていたハエリス公爵は、もはや何も言わなかった。

穴が空くような彼の視線が私の頭、両目、鼻そして唇にとめどなく落とした。

ハエリス公爵の熱いまなざしに、私の頭の中は画用紙のようにまっ白になったようだった。

私はふと目が覚めて、南の魔手の森で採れた2種類のキノコや薬草を取り出した。


「ハエリス公爵閣下。やっと原因を見つけたようです…!」


ハエリス公爵の疑わしい視線が私の唇に留まると、なぜか言うのがちょっと照れくさく感じられた。


「ここに来る前に、南の魔手の森に先に立ち寄りました。そして空気中に漂う、 このキノコの香りを嗅ぐことになったんです。城の中に入って来たらもっと確実に分かりそうですね。公爵閣下、これは毒ではありません。フェロモンを利用したんです」


「フェロモンって何だ?初めて聞いた言葉だな」


私はハエリス公爵が分かりやすいようにその原理をくわしく説明した。


「だから魔手たちの発情期を利用するのと同じなのか?」


「はい!この青いきのこ、この赤いきのこが雌雄です。南の魔手の森に入ってみると、すべての魔手が森から飛び出していったわけではありませんでした。たぶん雌、雄によって反応したものが違っていたと思います。魔手の森ではこの青色のキノコの香りが濃く広がっていました。このキノコの香りを増幅させる、 薬草がいっぱい撒かれていました。そして、この城の中にはこの赤いキノコの香りが濃いです。この赤いキノコを城内に探してみてすべて取り除いてください。主に日の当たる場所にたくさん咲いていると思います」


私の言葉にハエリス公爵がこれまで見たことのない明るい笑顔を見せた。


「ああ、君は本当にすごい!エレイン!」


私はハエリス公爵の称賛に恥じ入ってすぐに顔が赤くなった。

ハエリス公爵は急いで現場に戻り、多くの騎士に指示を出した。


「ここにあった!!」


「ここにもあります」


一晩中、城の中で赤いキノコというキノコはすべて燃やされた後、いつの間にか再び日が明るくなった。

ハエリス公爵と数万の騎士、そして城内の住民たちは固唾を飲み込みながら緊張した目つきで南側の魔手の森を見守った。

朝を照らす日が青空の中央に来るまで、南の魔手の森は静かだった。

その時になって、すべての人が抱き合って喜び、感激の涙を流した。


「わああああ」


「わぁぁぁぁ!!」


人々の喜びに満ちた喊声が森の近くのすべての領地から大きくこだました。

ハエリス公爵はさらに数日間滞在して、いくつかの領地の被害復旧状況を見守った。

幸い、たいしたことがなかったので、騎士団を各領地に均等に派遣した後、ベイリオ皇国の首都エレルマンへと向かった。

ベイリオ皇居に知らせ、直接処理しなければならない重要なことがあったためだ。

私は首都エレルマンに向かうハエリス公爵の馬に一緒に乗り込むことになった。


「エレイン。俺の腰をしっかりと握るんだ。落ちたらだめだから」


「はい!分かりました」


ハエリス公爵が馬の横腹を強く蹴ると、馬は「ヒヒン」と一度泣きながら素早く大地を走った。


(パカラッパカラッ)


ハエリス公爵の腰をぎゅっと抱きしめた私の口元は喜びの笑みが静かに沸き起こった。

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