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その公爵様とメイドの事情  作者: ロマンスメーカー
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第51話 ふと思い出す悲しい予感

挿絵(By みてみん)


ベイリオ皇国の南側と北方の国境には、広い魔物の森が存在した。

北側の魔手の森はフェルデン王国、リベア王国、スエル公国と、様々な小さな小国がこの森を境に国境が分かれ、南側の魔手の森はギランス王国とグルマン王国、そして数多くの小さな小国がベイリオ皇国の国境と接していた。

このような地理的特性からベイリオ皇国は外敵の侵入が難しく、1800年近い歴史と伝統のある皇帝国となったが、この魔手の森のため魔手が国境を侵犯するたびに国間の外交紛争が起きた。

北側と南側にある魔手の森全体がいずれもベイリオ皇国に含まれた領土だったからだった。

そのため、昔からベイリオ皇国には他国出身の皇后と皇妃が多くの嫁入りをしたというが、おそらく国境守備のための外交の一環だったようだ。

私はここまでベイリオ皇国の歴史書を読んで本を閉じた。

とても心が複雑で気が散って本の内容がよく目に入らなかった。

ハエリス公爵が南の魔手の森に行ってから、すでに3週間が過ぎた。

落ち着かない雰囲気の中でも、ベイリオ皇国の首都エレルマンでは、近づいてくる感謝祭の準備に余念がなかった。

ベイリオ皇国南方の多くの領地には、魔手の森から飛び出した数多くの魔手のため数え切れない死傷者が発生していた。

ハエリス公爵とその騎士団が孤軍奮闘しているが、魔手が群れをなして移動し、人々を脅かしたり脅かしたりしているという。

魔手たちがベイリオ皇国の首都エレルマンまで侵すといううわさが、まるでデマのように首都全体に動揺していた。

魔手の勢いがあまりにも激しく、ブラックドラゴンの血を引くハエリス公爵も大変かもしれないという話が、私の耳に入ってきていつの間にか1週間が過ぎた。


(トントン、トン)


突然息が詰まって何度もこぶしで私の胸をドンドンたたいた。


「エレイン、どうしたの?どこか具合悪いの?」


私のそばで数学の問題を解いていたグレース皇子が、ミュースケの鉛筆のもじりながら私に聞いた。

私はグレース皇子にわざと微笑みながら口を開いた。


「いいえ、皇子さま。息が少し苦しいので。この本の内容がとても難しいですね」


「そう!僕も一回読んだけど、3枚も読めなかった。それでも胸を叩くほどではないと思うけどね…?」


「あ、難しすぎてつい…」


私は席からすっと立ち上がり、ベイリオ皇国の歴史書を書斎の本棚に突き立てた。

ふと振り向くと、グレース皇子がいつのまにか私の後ろに来て、心配そうな目つきで私を眺めていた。


「エレイン...、この頃顔がとても暗いよ。ミスもよくするし」


「はい?私は同じだと思うんですが…。何もありません、皇子様。心配しないでくださいね」


私が言い訳するように言うと、グレース皇子は自分の人差し指を振りながら言った。


「違うよ!!エレイン!一昨日ダルニングが遊びに来た時、ものすごく甘いレモンクッキーを出したのは覚えてる?そのクッキーを味見してダルニン顔がすごく腐ってたでしょう…、フフッ。もちろん僕は美味しく食べたけどね。で、今日は僕に苦いお茶出してきたじゃないか…。わぁッ!!本当に味がむごたらしかった」


「あっ、本当に申し訳ありません。グレース皇子様」


「いや、そんなにすまないと思うことはないけどね…、もしどこか具合が悪くて休みたければ言って、エレイン。一人でくよくよしないで…。わかった?」


グレース皇子が心配そうに話すと、私は感謝の気持ちで彼に薄く微笑んだ。


(トントン、トントン)


「失礼します」


メイドのシャーロットがグレース皇子の書斎に入ってきた。


「あの、エレイン保母様、外にお客様が訪ねて来ました」


「私にお客様ですか」


私は不思議そうにシャロットに尋ねてグレース皇子に了解を求めた後、皇子宮の廊下に出た。

一度も会ったことのない男の侍従が私を待っていた。


「グレース皇子宮のエレイン保母様で合ってますか?」


「はい...、私がエレインです」


「さあ、これを受け取って下さい」


男の侍従が渡した白い封筒を受け取った私は疑問そうな表情で彼に尋ねた。


「これは何ですか?」


「私も知りません。それでは私は帰らせていただきます」


彼は私に丁重に挨拶し、グレース皇子宮から抜け出した。

私はその男から渡された白い紙袋をすっとひっくり返した。

封筒の後ろにある鷲の印章を見た瞬間、私の心臓が「ドン」と床に落ちる気分になった。

震える気持ちで手紙の封筒をスカートの中のポケットに入れて慎重にグレース皇子宮の自分の部屋に向かった。


(ドン)


私はドアを閉めるやいなや急な手つきで手紙の封を切って、封筒の中の紙を開いた。

ハエリス公爵が私に送った手紙のようで胸がドキドキした。

しかし残念なことに、これはハエリス公爵からの手紙ではなく、ベル執事が私に送った手紙だった。

手紙の内容を何度か繰り返して読み、部屋の中のろうそくに火をつけ、その手紙を燃やした。

私はじっくりとグレース皇子を説得する色んな方法を思いついた。

考え終えた私は、再びグレース皇子のある皇子宮の書斎に足を運んだ。

グレース皇子は数学の問題を解いてから、書斎に入ってきて私に聞いた。


「エレイン!誰か知り合いが来たの?」


「あ、違いますよ。この前、私が手に入れたかった薬草が入ってきたと知らせに来た方でした」


「うん。そうなんだ」


グレース皇子は頷きながら再び難しい数学の公式を解き始めた。

私は慎重にグレース皇子のそばに行き、彼に口を開いた。


「あの、レース皇子様」


「うん?どうしたの?」


「はい。お話したいことがありまして…、休暇を取りたいんですが、大丈夫でしょうか?実は最近体の調子が良くないんですよ。何日か休めば健康がよくなると思います」


グレース皇子はしばらく悩み、すぐに頷いて言った。


「うむ…、しょうがないね。数日会えないのはとても残念だけど、エレインの健康を考えないとね。うん、分かった。ゆっくり休んでね」


「ありがとうございます。グレース皇子様」


グレース皇子が残念そうに承諾すると、私は彼にお礼を言った。

皇子宮の書斎から出てきた私は、急ぎ足でまた自分の部屋へ帰った。


「必要なのが薬草と…、そう、この縁故も必要…」


私は部屋の中をくまなく動き回って、必要な用品を入念にチェックした。

そして皇居保母のワンピースを脱ぎ、以前北側の魔手の森で着ていた活動しやすい黒い無服に着替えた。

念のため捨てずによく洗濯しておいたのに、こんなにまた着るとは思わなかった。

私は髪をくるくる巻き上げた髪を一つに高く結んでから、赤い長いローブにかけて。

必要な色々な用品をベルトの紐に結んでみると、一通りの準備ができているようだった。

私は皆が眠り込んだ夜遅くまで待ち、宮殿の外に待機していたハエリス公爵家の馬車に静かに乗り込んだ。


***


(パカラッパカラッ)


「到着しました。お嬢さん」


公爵家の馬車を運転していた馬丁は丁寧に馬車のドアを開けた。

私は彼に目礼をした後、馬車から降りようとハエリス公爵家の正門前に立った。

今日に限って夜空の雲がまるで舞台のカーテンのように月明かりと星明かりを隠して一層暗いようだった。

その時、遠くから仄かな明かりが真っ暗な闇を明るくして、次第に近づいてきた。

ろうそくランプを持ったベル執事がゆっくりと公爵家の正門から歩いてきていた。


(ドカン)


(キイッー)


「夜遅くは申し訳ありません。さあ、お入りください。お待ちしておりました。エレインさん」


口の中の唾がからからで、心臓がギュッと締め付けられる感じがして、とても口が離せなかった。

何度か深呼吸を吐いた私は、やっとベル執事の安否を尋ねた。


「ベル執事様、その間お元気でしたか?」


深刻な私の表情を見ていたベル執事は深い溜息を吐いてから私に言葉をかけた。


「はい、元気でした。さあ、こちらへどうぞ。私についてきてください」


「あ、はい」


公爵家の邸宅の中には数軒の建物があったけど、なかでも使用人が無闇に行けない別館が一つあった。

私はベル執事のあとについてその別館の建物に足を運んだ。

多分私の推測では、そこは公爵家の地下監獄がある所のようだった。

昔、地下監獄に閉じ込められてみた私は、なんだか緊張して両手のこぶしを固く握った。

別館に入ると古風な模様のカーペットや様々な貴重な装飾品がまるで展示館のように並べられていた。

ベルの執事は数数の部屋の中古風な応接間のあるところに私を案内した。


「さあ、ここでしばらくお待ちいただけますか?」


「はい」


私は彼の案内に従ってそっと応接間のソファに用心深く座った。

ベル執事はしばらくどこかに行ってきた後、お盆に湯気が立ち込める温かいお茶と簡単なクッキーをテーブルの上に置いた。


「ありがとうございます。ベルの執事様」


ベルの執事はかすかに微笑み、落ち着いた足取りで私の向かい側のソファーの席に座った。

いつの間にか公爵家が応接間に深い沈黙があったようだ。

私は緊張してお茶もちゃんと飲めず、茶わんの取っ手ばかり弄り回した。

しばらく沈黙を守っていたベル執事が、とても丁寧な口調でやっとの思いで話を切り出した。


「エレインさん…、この頃数多くの噂をお聞きになったのでよくご存知だと思いますが、南の魔手の森の魔手たちの勢いは衰えません」


「はい...、私も噂を聞いてよく知っています」


「それでもエレインさんが教えてくれた解毒剤で持ちこたえていますが、北側の魔手の森のように魔手が静かになっていません。おそらく、南の魔手の森に広がっている毒は、北の魔手の森に広がっている毒と違うのだと思います。今後もこの事態が続く場合、状況は非常に悲観的だと思います」


話していたベル執事の表情がいっそう暗くなったようだった。

彼の話を聞くと、南の魔手の森で戦っているハエリス公爵がとても心配になった。

もしかしてハエリス公爵が大怪我をしたのではないかと心配で私の心は真っ黒に焦げてしまっていた。


「あのう、ベルの執事様。ハエリス公爵様は大丈夫ですか?大怪我をしたわけではないですよね?」


「はい。幸い、今までは怪我はありません」


「はい…、本当に良かったですね」


不安にどきどきしていた私の胸がやっと少し落ち着いたような気がした。


「エレインさん、私がエレインさんに助けを求めていることをハエリス公爵は何も知らないんです」


「え?」


「ハエリス公爵様はエレインさんにこのような仕事をさせたがらないですからね」


突然のベル執事の言葉に私の両頬がほてったくなる気がした。

私はなんだか恥ずかしくて穴があったら隠れたい気持ちだった。


「しかし状況が良くないため、私がこうお願いするのです。南側の魔手の森に行き、ハエリス公爵を助けていただけないでしょうか。エレインさん」


ベル執事はひどく申し訳なさそうな顔をして、いらいらして私の返事を待っていた。

私は彼を見つめながら頷いて、かすかに微笑んで見せた。


『はい……!分かりました。心配しないでください。ベル執事様、ただでさえそのつもりだったんです」


「今見たら、エレインさんは最初から南の魔手の森に旅立つ決心をして来られたんですね?」


「はい…」


「どうもありがとうございます。エレインさん、では。こちらへどうぞ」


「はい」


ベルの執事が起き上がり、別館の外庭に私を案内してくれた。

別館の建物の裏庭には、銀灰色の鎧で武装した5人の男が、馬と並んで立っていた。

前世で小説を書く時、ハエリス公爵家の殺し屋出身ベル執事が育てた秘密騎士団がいると設定してたけど、どうもこの人たちが影の騎士のようだった。


「この騎士たちがエレインさんを保護してくれるでしょう。騎士たちについて行くといいです」


「はい。ところで、あの…、ベル執事様、執事様は一緒に行かないんですか?」


「もうすぐ私もついて行きます。でも、まだここでやらなければいけない仕事が残っていますので」


ベル執事の言葉に私は首を頷いた後、影幀技師の護衛を受けながら馬に乗り込んだ。


「では、ベル執事様。私が先に行ってきます!くれぐれもお体にお気をつけてお越しください」


「あのね、エレインさん?」


ベルの執事は南側の魔手の森に急いで行こうとしている私を引き止めた。

私は不思議な目つきで黙って彼の言葉を待った。

彼はとても真面目な顔で私に何とか口を開いた。


「これまでエレインさんに会ったら、必ず聞きたい質問が一つありましたけど…。今日私に率直な答えをおっしゃってくださいませんか?」


私はうつむいた顔でベルの執事にじっと頷いた。


『はい…、どうぞ。ベルの執事様」


「エレインさんはハエリス公爵をどう思いますか?」


思いもしなかったベル執事の当惑する質問に、私の顔が赤く燃え上がるようだった。

ベル執事は穏やかな隣家のおじいさんの微笑みで返事を急がずにじっと私を見つめた。

なんだか、答えなければ、行かせなさそうな雰囲気に、私は、やっと勇気を振り絞って震え上がる声で答えた。

まだハエリス公爵本人にもまともに伝えていない私の気持ちだった。


「ハエリス公爵様のことを私がだ、大好きです。心からです…」


率直な私の答えに彼はとても驚いている表情をしてから、すぐに嬉しい大笑いをした。


「ハハハ。なるほどですね!! 本当に幸いです。 お二人様に似たあの方にぜひ会いたいですね。残念ながら、私にそんな機会はないと思いますが…、ふふっ。お二方がどうか幸せになるようにお祈りします」


ベル執事は南側の魔手の森へ発つ私と5人の影騎士を門の外まで出て見送ってくれた。


「ヒヒーン」


私を乗せた影騎士が馬のわき腹を足で強く蹴ると、馬が激しく走り始めた。


(パカラッパカラッ)


私は走る馬から後ろを向いてどんどん遠ざけるベル執事を見つめた。

遠くから私に腰をかがめて丁重に挨拶するベル執事の姿が見えた。

彼の姿がだんだん私の視野から消えていくにつれ、何か分からない悲しい予感がしてきた。

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