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その公爵様とメイドの事情  作者: ロマンスメーカー
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第49話 公爵様、お茶を一杯差し上げましょうか?

挿絵(By みてみん)


(ミーンミーン、ミーンミーン)


(ミーンミーン、ミーン)


いつの間にか晩夏の暑さが本格化する8月末だった。

私は皇居前で待機していた馬車に乗ってハエリス公爵家に向かった。

私の手には綺麗に包まれた四角いキャンディーの箱がいっぱいあった。

たびたびハエリス公爵家として私が作ったペパーミントキャンディーを渡したりはしてたけど、このように直接持って公爵家として訪問するのは初めてだった。

実は、このペパーミントキャンディーの箱は、良い言い訳だった。

その夜、初めて口づけをして以来、ハエリス公爵は再び私のもとに戻ってこなかった。

胸がどきどきし、ときめいた心は時間が経つにつれてだんだん息苦しくなり、不安になり始めた。

グレース皇子宮で働きながらも、眠っている時も、ハエリス公爵が私の頭から離れなかった。

時間が無駄になるほど、私の心臓はまるで洗濯物を絞るようにじれったくなった。

到底彼に会わなくてはまともな日常生活ができなくなると、勇気を出したのだ。


(パカラッ)


「どうどう」


私は馬車から降りてハエリス公爵家の邸宅の前に立った。

入ろうか、やめようか。悩み苦しむ末、勇気をふりしぼってハエリス公爵家が邸宅の鉄門をたたいた。


(ドンドン、ドンドン)


「きしっー」


なんだかやつれたベル執事がうれしそうな顔で迎えてくれた。


「お久しぶりです。エレインさん…」


『はい、お久しぶりです。お元気でしたか?あ!ベルの執事様。気楽にお話してください…」


ベル執事は、私の言葉を聞いても、ただにっこり微笑むだけで、ずっと私に尊大にして、言葉を続けた。


「どんなご用件でいらっしゃいましたか?」


「あ…、はい。あの、これ」


私は口実として持ってきた綺麗にパックされたペパーミントキャンディーの箱をベルの執事に渡した。

ベル執事はペパーミントキャンディーがいっぱい入ったキャンディーボックスをありがたくもらいながらほのかに微笑んだ。

しかし、ベル執事の表情と目つきが、何だか普段よりかなり暗く見えるようだった。


「ハエリス公爵にきちんとお伝えいたします。エレインさん」


ハエリス公爵に何を言ったらいいか全く考えずにあてもなく公爵家の屋敷にやって来た状況だった。

前世では人から「恋愛は駆け引きを上手くしなければならない」と言われたけど、私はそのような経験がなくて、そういうことが苦手だった。

私がこのようにやって来たことを知ったら、ハエリス公爵が私に対する関心を冷ますのではないかな?と心配になった。

しかし私はハエリス公爵に直接会って彼に聞いてみたかった。

その日、私になぜキスをしたのか、私に対する彼の気持ちは何なのか。

私は言うべきかどうか悩んだ末、勇気を出してベル執事に口を開いた。


「ベル執事様、もしかしてハエリス公爵閣下はいらっしゃいますか…?いらっしゃったらぜひ会いたいです」


ベルの執事は心から残念そうに私に言った。


「はぁ、本当に残念ですね。エレインさん。今公爵はとても忙しい仕事があって家に来れなくて2週が過ぎました。おそらくエレインさんが直接訪ねてきたということを知っていたら、とても喜んだでしょう」


どうもハエリス公爵と私の間のことをベル執事が知っているようで恥ずかしかった。


「はい!あ、いいえ。では、私はもう帰ります。楽しい一日を過ごしてください」


私はうわの空でベル執事に挨拶し、ハエリス公爵家を急いで立ち去った。

何か秘密がばれた人のように、心臓がものすごい勢いでドキドキしているようだった。

私は再び馬車に乗って公爵家の邸宅を出るとき、非常に残念な視線を送った。

ハエリス公爵。彼にとても会いたかった。


***


もう1ヶ月も私はハエリス公爵に会えなかった。

大きな勇気を出してペパーミントキャンディーを持って公爵家にもう一度行ってみたけど、やはり彼に会うことはできなかった。

ベル執事は、ハエリス公爵が大変忙しいという知らせだけを伝えながらとても残念がった。

花火大会があったその夜のことは、まるで真夏の夜の甘い夢だったようだった。

もう私はハエリス公爵のことを考えると胸が詰まって何となく涙が出た。

僕の初のくちづけ。 初恋。

一瞬彼は一瞬私の方に近寄ってきたような気がするけど、20歩も遠くなったような気分だった。

時間は水が流れるように流れ、いつの間にか蒸し暑い夏が過ぎ、結構朝風が肌寒い9月になった。

僕とグレース皇子は初秋の暖かい朝日を浴びながら庭で簡単なティータイムをしていた。

初秋だからか、グレース皇子宮の庭園にいっぱい植えられているライラックの葉は、まだ青々とした青緑色だった。


(ソヨソヨ)


秋を含んだ涼しい風が屋外のバルコニーテラスに数回そよいで吹き寄せた。

グレース皇子は季節の変わり目の風邪予防に良い蜂蜜を入れたトルテ茶を飲みながら甘いお菓子を美味しく食べていた。

私は微笑んでグレース皇子を見ながら口を開いた。


「グレース皇子様、もうすぐ2ヶ月で成人式が行われますね?」


グレース皇子はとても照れくさそうに私に言った。


「うん!えっへん。そうだ!!もう僕も大人になるの。ふふっ」


「はい、グレース皇子様!まだ少し早いですが、前もっておめでとうございます!グレース皇子様はきっと素敵な公爵閣下になると思います!」


「本当?フフッ!当たり前だよ!僕は素敵な公爵になるよ」


グレース皇子は肩を精一杯上に持ち上げて満足げに微笑んだ。

私はしばらくグレース皇子とティータイムを楽しみながら、ひそひそとおしゃべりをした。

まだこんなに幼く見えるのにもう成人式を行うなんて彼は非常に残念だった。

おそらく体の中の潜読さえなかったら、グレース皇子もハエリス公爵のように背も高くて素敵な成人になっていただろう。

深い思いにふけっていた私にグレース皇子が目を輝かせながら慎重に話し出した。


「エレイン! それでね、公爵位と封土を下賜されればエレインも僕と一緒に来て欲しい。どう思う?」


私は全く思いつかなかった提案だったので、私は驚いた目でグレース皇子を見つめた。

これまでグレース皇子との付き合いが深かったので、彼の提案がとてもありがたかった。


「うん!本当にありがとうございます。えーと、じゃあ…」


「それはいけない」


私が最後まで答える前に断固たる男性の声が私たちの後ろから聞こえてきた。

夢の中でもいつも恋しかったハエリス公爵まさに彼の声だった。

私は震える心で、向きを変えて私たちの方に歩いてくるハエリス公爵を見つめた。

その間、どんなことがあったか知らないが、一目で見ても彼の顔は非常にやつれていた。

恐らく何かまずいことでも対処したようで彼はとても疲れてるように見えた。

ハエリス公爵の歩みがいつの間にか私とグレース皇子の前に立った。

グレース皇子はつんと口を尖らせながらハエリス公爵を見上げながら言った。


「なんでだめなんですか!ハエリス兄様。もう僕も大きくなったんです!エレインは僕と一緒に行きますよ」


グレース皇子はハエリス公爵に宣戦布告でもするかのように言って、あわてて私の同意を求めた。


「エレイン!女中長はどう?いいよね?アンナ夫人ももうお年なんだから!給料は今の5倍、いや10倍あげるよ。僕たち一緒にいよう!うん?」


グレース皇子は可愛らしく愛嬌をふりまいて私にぴったり寄り添った。

その姿を見たハエリス公爵は自分の弟にげんこつで軽な頭を叩いた。


「痛っ、ハエリス兄様!」


グレース皇子は叩かれてとても悔しそうな表情で私を見つめた。

私は黙って微笑んで、グレース皇子の頭をじっとなでてあげた。

ハエリス公爵はひどく不満そうに私をじっと見つめていた。

私は今になって彼のあの表情がどういう意味なのか、少しはわかるような気がした。


《はぁ、嫉妬して本当に狂いそうだよ》


最初に口付けをしたその日、彼が私に言った言葉が浮かんできて、なぜか私の口元がピクピク動いた。

その時、私たち3人の前に女中長のアンナ夫人が歩いてきた。

アンナ夫人はハエリス公爵に礼を尽くして挨拶をした後、グレース皇子に告げた。


「グレース皇子様、チェスの時間です。今、ルイト先生が待っていらっしゃいます」


「僕今日授業に行かないといけないの?行きたくないんだけど…」


「駄目です。グレース皇子様!チェスの勉強が終わったら、美味しいおやつを準備します」


「ひーん。それでも行きたくないな…」


アンナ夫人はグレース皇子をそっとなだめて彼を立ち直らせた。

グレース皇子は私とハエリス公爵を交互に眺めながら、本当に行きたくない表情で仕方なさそうに庭の外に出た。

私とハエリス公爵はそのようなグレース皇子がとても可愛くて自然に微笑んだ。


(ソヨソヨ)


いつの間にかグレース皇子宮の庭にはハエリス公爵と私の2人だけが残っていた。

秋風が私たち2人の間をそよぎながら吹きすさんでいたが、なぜか猫草で心臓をくすぐるようにすごくかゆかった。

あれほど会いたかったハエリス公爵だったのに、実際に会うと何と切り出したらいいか分からなかった。

私はハエリス公爵を慎重に見つめながらやっとの震える声で話し始めた。


「あの…、ハエリス公爵閣下。お茶、 一杯どうですか?」


「おう。いいね」


「はい…。少々お待ちください」


悲しかった感情がどこかに全部消えて、私の心はまるで風船のように膨らんだ。

私はずっと深呼吸をして私の浮き浮きする気持ちをなんとか静めようとした。

厨房に駆けつけて疲労回復に良いツカラの花びらを入れたお茶と簡単な茶菓を持って皇子宮庭園に向かった。

彼は庭のベンチに優雅に足を組んで座り、庭に入ってくる私を眺めていた。

私はワゴンを引き、ハエリス公爵が座っているベンチに進み、彼に話しかけた。


「あの…、ここにございます。どうぞ召し上がってみてください。公爵閣下」


「そうか、ありがとう」


ハエリス公爵は私から茶わんを受け、気品があって優雅な身振りでお茶を飲んだ。

私は慎重にハエリス公爵が座ってるベンチの隣に座った。

いつの間にかお茶を飲み終えたハエリス公爵が、自分の茶わんをベンチの空いた隣の席に静かに置いた。


(カタッ)


ハエリス公爵のやつれた姿に、私はこれまで聞きたいことや確認したかったことを口にすることができなかった。

少し時間がたった後、人の気配も聞こえないので、頭を回してハエリス公爵を眺めた。


「公爵…閣下?」


ハエリス公爵はしばらくベンチの椅子に座り、両目を閉じて眠っているようだった。

私は彼と並んでベンチに座り、風にそよそよと動く青緑の木の葉をじっと眺めた。

初秋だったけど、真昼の日差しは、真夏の熱い太陽のように、依然として暖かく、和やかだった。

どれだけの時間が流れたのだろう?ハエリス公爵の黒髪が私の肩に届いた。

ほのかなペパーミントキャンディの匂いと彼の柔らかい髪が私の鼻先をくすぐった。

私の肩にもたれたハエリス公爵の頭にそっと私の頬を当てた。

彼の柔らかい黒髪が私のほおに当たるとすぐにくすぐった。

私は上を向いて、涼しい初秋の風を感じながらハエリス公爵のように目を閉じた。


(ソヨソヨ)


初秋の涼しい風で木の葉の葉っぱ同士が触れ合う音が私の心を安らかにした。

ある程度時間が流れ、私の肩がそろそろしびれてきた頃、閉じていたハエリス公爵の両目がそっと覚めた。


「ああ、これは、すまない…」


「いいえ…、どういうことかわからないのですが頑張って下さい。ハエリス公爵閣下」


私の言葉にハエリス公爵の顔と耳たぶが物凄く赤くなったようだった。

その時、結構離れてるグレース皇子宮の庭の入り口に、武装した数人の騎士が立っているのが見えた。

何だか彼はまたどこかに立ち去らなければならないようだった。

ハエリス公爵の切ない視線が私の頭、両目、鼻と唇にしばらく留まった。


「君のおかげで久しぶりによく休んだ。ありがとう…。エレイン」


「いいえ…、ハエリス公爵閣下」


彼が先にベンチからそろりと立ち上がったので私も彼の後を追って立ち上がった。

私とハエリス公爵は皇子宮の庭の外に一緒にゆっくりと歩いた。

何とも言えない重い沈黙が、私たち2人の間に深く沈んだようだった。

彼と並んで歩くのがなんだかぎこちなくて、私は足どりをゆっくりしてハエリス公爵の後を追った。

私の前を歩いていたハエリス公爵は突然自分の足どりを立ち止まった。

背を向けた彼がしばらく私をじっと見つめ、急に私の手をぎゅっと握って自分のそばに導いた。

私が驚いた表情でハエリス公爵を見つめると、彼の目つきがまるで半月のように綺麗に曲がった。


(ソヨ)


さわやかな秋風が私たち二人を一度包み込んでから過ぎて行った。

我々はお互いにこれまで言えなかったことと言わなければならないことをあえて口にしなかった。

その日の午後、ハエリス公爵はベイリオ皇国の30の騎士団を率いてベイリオ皇国南部の国境地帯に向かった。

今度は南側の魔手の森で数多くの魔手の群れが皇国の領土に降り注ぐように暴走し始めたという話だった。

非常に不吉な知らせに、ベイリオ皇国の国民の心は不安でビクビクと揺れ始めた。

私の心も、ハエリス公爵への心配で、毎日がとても不安だった。

どうか彼が無事に帰ってきてほしいと心の中で数え切れないほど祈った。

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