第43話 確認できなかったお互いの感情
花火を始めるにはまだまだなのか、夜空にはまだ何の気配もなかった。
澄んだ濃い藍色の夜空に宝石のような星が一枚の絵のように描かれていた。
私は前世で星座を結ぶ線のように、思わず夜空の星を点でつなぎ合わせてみた。
点を繋げているうちに、ある時は私が好きな本に見えたり、ある時は白鳥の形に見えたりもした。
私は甘いアイスクリームを一口含んで、美しい夜空を目で飲み込み、苦々しい私の心を慰めた。
思わず首を回すと、私をじっと見つめるカルロス皇太子の顔が見えた。
透き通って澄んだ彼の緑眼が優しく私を見つめながら笑っていた。
一瞬、何だかわからない恥ずかしい気がして来て、私の首筋がほてった。
「エレインは星が好きみたいだね?」
「あ…、綺麗ですし!ここは本当に星がとても多いですね。私が住んでいた所は夜空に星があまり見えなかったんですよ」
私の言葉にカルロス皇太子は、よく理解できないという表情で静かに私を見つめた。
「星があまり見えない場所があるの?エレインは幼い頃天気の悪い所に住んでいたようだね?」
「い、いいえ。まぁ…はい。似てますね」
私は言葉を濁してぎこちなく微笑んだ。
その時、顔でアイスクリームを食べているようなグレース皇子が私の目に入った。
私は彼のあまりの可愛さに頑張って耐え、スカートのポケットからハンカチを取り出してふいた。
「グレースさん、そうやって召し上がると服に全部くっつきます。服や顔などが後でべたついて気分が悪くなるはずですよ?」
「そうなの?私、ここを拭いてくれ。ベタベタしてる!」
「はい」
アイスクリームを一口大きくかじったグレース皇子は私に顔を突きつけた。
私はハンカチをひっくり返して、再び几帳面にグレース皇子の顔を拭いてあげた。
時間がたくさん経ったにもかかわらず、何をそんなに言いたい事がいっぱいあるのか、ハエリス公爵とセレナはアイスクリーム店の隣でしばらく会話を交わした。
何の話をしているのか分からないけど、セレナは晴れやかに微笑み、愛しくハエリス公爵を見つめていた。
私は淋しくまた苦くなったので、首を振り返ろうとした。
一瞬、ハエリス公爵の視線と私の目が合ったように見えたけど、私は見間違いをした人のように素早く背を向けた。
なぜかハエリス公爵に私の気持ちがばれたようで胸がハラハラした。
「エレイン!何??どうかした?」
カルロス皇太子が危惧の表情で私を見ながら聞いた。
「い、いいえ。何でもないです」
私は本当に何事もなかったかのように、とろけるアイスクリームを何もなかったのように一口かじった。
カルロス皇太子は、そのような私の姿を眺めていたけど、なぜかやんちゃな表情で私の方に近づいてきた。
「エレイン!どう?本当に美味しいでしょう?」
「はい、とても美味しいです!やはりカルロス様のおすすめと言えるようなものですね!アイスクリームの美味しいお店で間違いない!次もまた来たいです!!」
私が明るく笑いながら言うと、彼は実に陽気な表情で微笑み出した。
カルロス皇太子はいつも笑顔なのでよく分からなかったけど、本心で笑うので夜なのに彼の周りだけが明るくなったようだった。
「カル兄様!アイスクリームをもう一つ買ってきます!とても美味しいです」
「ダメ!!グレース、アイスクリームをたくさん食べたらお腹をこわすよ!」
「え?今、一つしか食べてないじゃないですか。二つくらいなら大丈夫ですって!ふふっ」
いつの間にかアイスクリーム一つを食べ終わったグレース皇子が新しいアイスクリームを買いに店へ向かった。
走っていく彼の後ろ姿を眺めながら、カルロス皇子が首を横に振って言った。
「ふっ、グレースは甘いものには目がないよね。本当に止められないんだって!」
「はい…、そうですよね。ふふ」
「あ!そうだ。エレイン!次はワッフル食べに行こう!俺が本当に美味しいところを一つ知ってるから!多分食べてみたらびっくりすると思うよ??」
「はい!!いいですよ!カルロス様!!私本当にワッフル大好きなんですよ!!」
「いいぞ!!!あれ?てか…ここに」
カルロス皇太子の青緑色の瞳がどうも私の顔にそっと留まっているようだった。
私は首をかしげながら、何かついているのかと思って自分の顔を素手でふいた。
「どうしました?私の顔に何かついていますか?」
「うん。そこじゃなくて、ここ」
カルロス皇太子が意地悪な表情で、私の唇についているアイスクリームを彼の親指ですっとふき取った。
あまりにも突然の出来事だったので、私は当惑した目つきでカルロス皇太子を眺めた。
彼は自分の親指についたアイスクリームをいたずらっぽくなめながら、にっこりと笑顔を見せた。
彼の行動に大きな意味を付与してはならないけど、何だか少し変な気分になった。
「いくらアイスクリームが美味しくても、淑女がこうしたらいけませんよ。プッ」
いたずらなカルロス皇太子の言葉に、私の顔が瞬く間にトマトのように赤く染まった。
「ああ…、あの…、カルロス様。ハンカチを差し上げます。幸いにもハンカチを何枚か持って来ましたので。指がべたべたするでしょうから、ちょっと吹きますか?」
「エレイン!冗談だよ!冗談!俺は大丈夫だよ!ハハハ」
いつの間にかアイスクリーム店からアイスクリームを買ってきたグレース皇子が後ろから見ていたのか、くすくすとベンチに座った。
「カル兄様!!エレインはからかうと反応がすぐに出てきてとても面白いです。そうですよね?ハハハ!」
「そうだよ!!とても面白いんだから!!ハハハ!!」
私は困惑した表情で、カルロス皇太子とグレース皇子を交互に眺めながらぎこちなく笑った。
いつの間にか、この二人からからかわれるのに慣れてきたようだった。
「何か面白いことでもあるの?私も入れて!何?」
私たちに近づいてきたセレナが気になる表情で私と、カルロス皇太子、グレース皇太子に話した。
彼女に付き添っていたハエリス公爵はいつの間にか私たちに挨拶もなく消えていた。
セレナは私がハエリス公爵を探していることに気づいたのか、意気揚々とした表情で私に話した。
「ハリは仕事で帰らなければならないそうです。残念ですね。一緒に花火を観られればとても楽しかったでしょうに」
「あ…、はい。そうですね」
「さあ、みんなもう起きてください!カル!今度は街の端から見物するんだけどどう? グレース皇子様はいかがですか?」
「俺はいい!!」
「よし!いいよ!!一度行ってみようか」
私は3人一緒にベンチから立ち上がって祭りの街に向かった。
ハエリス公爵が去っていくと、私の心には何故か分からない残念な気持ちがかすかに残った。
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(パカラッパカラッ)
ハエリス公爵は公爵家専用の馬車で彼の邸宅に戻っていた。
揺れる馬車椅子に寄りかかって両目を閉じていた彼は、先程のことが思い浮かんで不快な気持ちになった。
アイスクリーム店の前でセレナは自分を見つめながら明るく微笑んだ。
彼女はアイスクリームを買ってベンチに座っているカルロス皇太子とグレース、エレインを眺めながら、彼に声をかけた。
「ハリ!三人の仲が凄く良さそうだね?皇居に3人一緒に住んでいるということで、すごく親しくなったみたいだわ!」
「うん。そうなんだ…」
「街の食べ物は不潔で体に良くないのに…。私の言うことを聞きもしないし」
セレナは不満そうな表情で言葉を濁した。
その時、ハエリス公爵の目にカルロス皇太子がエレインの唇についたアイスクリームを拭いてあげるのが見えた。
カルロス皇太子が意地悪な表情で彼の親指に付いているエレインのアイスクリームを舌でなめた。
その瞬間、ハエリス公爵はカルロス皇太子の手首を刀で切り捨てたい気持ちになった。
いつの間にか彼のハンサムな眉間のそばに太い筋がぐっと生えていた。
「どうしたの?ハリ?急に表情が悪くなったように見えるよ」
「俺はもう帰る。忙しい仕事が残っていたから」
「帰るのが早すぎるんじゃない?ハリ、一緒にもっと遊ぼうよ!もう少しで花火が始まるのに…」
「ごめんね…、セレナ」
ハエリス公爵はセレナが引き止められても席を立ち、今馬車に乗って彼の邸宅に向かう途中だった。
セレナが花火大会に行こうとやってきた時、やるべきことが沢山残っていて数え切れないほど断った。しかし、グレースもお祭りに出ると約束したという言葉に無理矢理引きずられた。
グレースと一緒にエレインも祭りに出るかもしれないと、ふと思ったからだった。
やはり彼の予想通り、エレインに会うことができた。
魔手の森よりもずっと顔色がよく、元気そうに見えて、安心してしきりに自分の目を避けるエレインが気になった。
おそらく「魔手の森」で怪我をした騎士を治療しようとした時、彼女に怒ったためだろう。
花火大会の街中を歩いている間、セレナは傍でぺらぺらしゃべっていたが、エレインを盗み見て何の話をしているのか気になり、耳に入らなかった。
ただ礼儀上形式的な返事をしながら、エレインの後ろ姿だけを盗み見た。
カルロス皇太子が連れて行ったアイスクリーム店で、彼女は明るい笑みを浮かべながら、イチゴ味のアイスクリームを一つ買った。
「エレインはいちご味のアイスクリームが好きなんだな」と思いながら、ハエリス公爵は自分の心の中のメモ帳によく書き留めた。
エレインは自分の瞳のように煌めく夜空の星を眺めながらアイスクリームを食べていた。
その姿があまりにも美しくて、グレースとカルロス皇太子を片づけてしまい、自分が隣の席に座りたかった。
ふと振り向いた彼女と目が合ったが、彼女は何かを間違えて見た人のように急いで顔を向けた。
慣れない彼女の反応に、ハエリス公爵の心の片隅が鋭い剣でキリキリと痛むようだった。
あの時、どうしても彼女に怒ってはいけなかったという深い後悔が押し寄せてきた。
実はハエリス公爵にはこういう感情が初めてで、自分の感情を上手く表現するのが苦手だった。
突然、ハエリス公爵の頭の中に魔手の森でエレインを初めて発見したあの日の事がよぎった。
魔手の森でエレインに会ったのが夢のようで、魔手を口実に彼女を自分の懐にギュッと抱きこんだ。
彼女の暖かさと心地よさの体温は、まだ彼の体中に刻み込まれていた。
「ふう…、皇居に行こう」
ハエリス公爵の命により公爵家の馬車は、方向を変えてベイリオ皇国の皇居に向かった。
しばらく走って皇居に到着した彼は、自分がなぜここに来たのか、その理由が分からないままグレース皇子宮の庭園に足を運んだ。
皇子宮の庭園には緑の葉がいっぱいのライラックの花木が見事に植えられていた。
春の花が咲き乱れていた木の下に立っていたエレインの姿が浮かび上がると、一瞬ひやっとした気分になった。
花木を一緒に鑑賞した彼女の姿が、まるで昨日のことのように生々しく思い出された。
さわやかな春風が吹くと、白い紫の花びらが雪のように舞い降りたが、花の雨に立っていた彼女は、あまりにも美しく思わず話を切り出した。
「本当に美しいな」
黙って聞いていたエレインの澄んだ茶色の瞳がハエリス公爵に向かった。
「はい、この花はとても綺麗だと思います」
ハエリス公爵は君がこれらの花よりも美しいと言いたいのをぐっとこらえた。
なんだか彼女との仲がとても気まずくなりそうで、自分の感情を丸出しにすることができなかった。
その日、ハエリス公爵は彼女を再び自宅に連れ戻したいと思った。
公爵家で働いていたメイドのエレインではなく、自分だけの女性に。
ハエリス公爵は生まれて初めて自分の過ちを正しく認めるようになった。
あの時、彼女を自分の邸宅からあのように立ち去らせるべきではなかったと。
いつもこんなに彼女に会いたくて気が散ると分かっていたら、絶対に立ち去らせなかっただろう。
ハエリス公爵は寂しい目で自嘲的に微笑みながら、ライラックの花木をじっと眺めた。
今後、エレインが自分を避け続ければどうするべきか、数々の悩みや想念が彼の頭の中でプカプカと浮かんでいた。
その時、まるで運命のように皇子宮の庭に入るエレインの姿が見えた。
(ドキドキ)
ハエリス公爵は突然息苦しくなってまともに息をすることができなかった。
疾走する馬の蹄のように彼の心臓は激しく脈打った。




