第41話 誤解
早朝から「魔手の森」には、近くの領地で支援された多くの兵士が解毒草を燃やしていた。
解毒草を燃やす時、風に火花が乗って魔手の森を燃やすこともあるため、大変ややこしく緊張した作業だった。
人々はハエリス公爵家のベル執事の指示に従って、広い面積の「魔手の森」を煙で満たすために汗を流した。
「ブスッ」
「ホーホー、ホーホー」
「魔手の森」の夜明け、青空には得体の知れない魔手たちが奇声を上げながらバタバタと羽ばたいていた。
カルロス皇太子は心配そうな表情で、この作業を見守りながらため息を深くついた。
グレース皇子とハエリス公爵、そしてエレインの生死がわからず、とても焦った気分だった。
ベル執事が伝えた消息によると、エレインがハエリス公爵とグレース皇子を探しに直接魔手の森の中に入ったという。
カルロス皇太子は一体、なぜ彼女が直接危険な森に入ったのか理解ができなかった。
大概の男性騎士も一人で入っていくことで、生き残ることの難しい魔手の森に彼女が一人で入ったというから、カルロス皇太子はグレース皇太子よりも彼女の方が心配だった。
グレース皇子のそばにはハエリス公爵と暗室の騎士団がいるが、エレインはか弱い女性の体で一人、魔手の森に入ったためだった。
いつの間にか正午になると、魔手の森にはまるで濃い霧のように解毒煙がいっぱいに立ち込めていた。
魔手たちの出す奇声は次第に目立つくらいに少なくなった。
焦った気持ちであと2時間くらい待ったかな?
カルロスの側近であるヤン男爵が切羽詰った表情で、魔手の森から出てくる人の群れを指差して叫んだ。
「カルロス皇太子殿下!!あちらをご覧ください!!!人が出てきます!!今、出ています!!!」
カルロス皇太子が、緊迫した足取りで解毒煙をかき分けながら、早く魔手の森の入り口の方に向かってきた。
魔手の森の入口の方からハエリス公爵とグレース皇子、そしてエレインと暗室騎士団の姿が見えた。
「グレース!!!」
「カル兄様!!!」
嬉しそうな声でカルロス皇太子が遠くにいるグレース皇太子の名前を呼んだ。
グレース皇太子も嬉しそうに素早く駆けつけ、カルロス皇太子に抱かれた。
カルロス皇太子は、グレース皇太子の頭をなでながら、彼の全身を隅々までよく見た。
幸い、大した怪我はなかったようだ。
カルロス皇太子は、やつれたハエリス公爵に近づき、彼の肩をたたきながら言った。
「本当にご苦労さまだな。ハエリス公爵」
ハエリス公爵は淡々とした表情でカルロス皇太子を眺めながら口を開いた。
「こうやって来てくださってありがとうございます。皇太子殿下」
カルロス皇太子は首を回して騎士のそばにいるエレインを眺めた。
幸い、この広い魔手の森でハエリス公爵一行と無事に会ったようだ。
焦って不安だった気持ちがやっと少し収まるような気がした。
「ハリー!!!グレース!!!」
魔手の森の外で待機していたセレナが、数人の医員と一緒に森に入り、嬉しそうに手を振った。
セレナは、切羽詰った足取りでハエリス公爵に近づいた。
「ハリ!大丈夫なの?どこか怪我したところはない??」
彼女はハエリス公爵の全身をくまなく見た。
セレナがさらに注意深く彼の体に手を出そうとすると、ハエリス公爵は自然に体を避けて彼女の手をかわした。
あまりにも自然に避けたため、セレナ本人以外は誰も気付かない身のこなしだった。
セレナは、ハエリス公爵が他人が自分を触るのを嫌がることをよく知っているため少し残念に思ったが、わざとそれを顔に出すことはしなかった。
「それでも大怪我はしていないみたいだね!!よかったわ!」
ハエリス公爵は淡々とセレナを見つめながら頷いた。
「大丈夫だ。心配してくれてありがたい」
セレナの青いエメラルドのような瞳を澄まして透明な涙がぽろぽろとこぼれた。
「私、本当に心配してたよ。ハリ…!あ!グレース!!グレース皇子様は大丈夫?」
やっとグレース皇子を思い出したのか、セレナは急いでグレース皇子を訪ねた。
グレース皇太子はカルロス皇太子とともに抱き合って喜んでいた。
幸い、グレース皇子も特に怪我はないようだった。
彼女は心の中で安堵のため息をつき、怪我をした騎士はいないか周囲を見回した。
その時、彼女の目にやつれた体たらくのグレース皇子の保母、エレインが見えた。
なんとなく彼女を先に治療するのが嫌な気持ちがしたセレナは、自然と自分の近くにいる騎士に近づいて治療を始めた。
「ちょっと鎧を脱いでもらえますか?」
「あ、はい!あ、ありがとうございます。セレナ様」
親切なセレナの言葉に騎士らは戸惑い、顔を赤らめた。
カルロス皇太子はグレース皇太子を撫でる途中、ふと頭を上げてエレインを眺めた。
彼女は何日か前に見た時よりずっとやつれていて、ちょっと触ったらぱたりと倒れそうだった。
カルロス皇太子が急いでエレインに近づいた。
彼女は少し驚いた目でカルロス皇太子をじっと見つめた。
「大丈夫ですか?エレインさん?あの時行ってしまったのが、こんなことをしようとして先に去ろうとしていたなんて…、公爵家のベル執事にあなたの話を聞きました。大変だったでしょうね」
カルロス皇子の顔には、やせたエレインに対する切ない感情が浮かんでいた。
エレインはとても照れくさそうに頬をかきながらぎこちなく答えた。
「ち、 違います。私が役に立つと思ったので。何となくやってたら…、こんなことになりましたね」
綺麗に着飾った様子ではなかったが、彼女は何故かとても美しいと思った。
自分の心に驚いたカルロス皇太子は、瞬間的にエレインから1、2歩離れた。
何だかエレインに1、2歩近づくと、何か取り返しのつかないような不思議な感情がした。
「そうですね。お疲れさまでした。さあ!もう魔手の森から出ましょう。外に出てゆっくり休んでください。凄い格好ですね」
「はい。殿下。心配してくださってありがとうございます…」
そのときエレインは体を左右に大きく揺らし、気を失って倒れた。
カルロス皇太子がびっくりした表情で横に倒れようとする彼女を急いで支えた。
そういうわけでカルロス皇太子は2歩前に出て彼女を自分の懐に抱えた。
「エレインさん!しっかりしてください!エレイン!」
カルロス皇太子は自分の懐に気を失って倒れたエレインをじっと見つめた。
しっかりしろと何度も叫んだが、彼女はすでに意識を失っていた。
その間物凄く緊張していたが、魔手の森に出て心が安心したのか気を失ったようだった。
カルロス皇太子は倒れたエレインを慎重に抱き上げた。
何日間かほとんど食べられなかったのか、エレインの重さは羽のように限りなく軽かった。
彼女の吐き出す浅い息が、カルロス皇太子の胸にこそばゆく感じられた。
カルロス皇太子がエレインを抱いて魔手の森を出ると、グレース皇太子がびっくりした表情で急いで駆けつけてきた。
「エレイン!!!カル兄様!!エレインはどうしたんですか?」
「心配するな。多分しばらく緊張が解けて意識を失ったようだ。早く魔手の森を出よう!」
「はい!カル兄様!」
カルロス皇太子は、エレインを抱いてグレース皇太子と共に魔手の森の外に出た。
魔手の森の入口の前にいたハエリス公爵とセレナは驚いた表情で二人の姿を交互に眺めた。
ハエリス公爵の顔の眉間が深く掘られ、不快な気持ちがそのまま表われた。
「あら!!これはどういうことですか!!エレイン!!」
「うん。多分緊張してたけど解けて気を失ったみたい。セレナ!エレインをどこに連れて行けばいいのかな??」
切羽詰ったカルロス皇太子の言葉に、セレナの顔に気持ち悪い感情が早く通り過ぎた。
けれども、まるでそんなことがなかったかのように、心配そうな表情にさっと変わったセレナが魔手の森の外に待機している馬車を指差して言った。
「まずはドーベルマン伯爵家に行った方がいいですね!エレインを…馬車の中でよく寝かせてください!」
「うん、わかった!俺、先に行くよ。よろしく。ハエリス公爵、セレナ!」
カルロス皇太子とグレース皇太子は素早く走り、馬車に向かった。
倒れたエレインを乗せた馬車は、速いスピードでドーベルマン伯爵家に向かった。
セレナは気の悪い表情で、段々遠ざかっていく馬車をじっと睨んだ。
不愉快な気持ちを落ち着かせたセレナは、騎士たちに親切な笑みを浮かべながら治療を続けた。
「ちょっと傷がひどいですね。甲冑をとって見せてくれますか」
ハエリス公爵は腕を組んだまま、馬車の離れた方向をとめどなく眺めた。
硬く巻かれた彼の拳にはいつの間にか太い筋が突き出ていた。
✯¸.•´*¨`*•✿ ✿•*`¨*`•.¸✯
私が我に返ったのは半月が過ぎてからだった。
全身が燃え上がるように熱く、喉があまりにも渇いて、苦労して重いまぶたを持ち上げるように努力した。
やっとの思いで目を覚ましたけど、周りがぼやけていて、物がちゃんと見えなかった。
何回まばたきしたんだろう? 幸いにも、だんだん私の目の焦点が近づいてきたようだった。
見慣れた天井の壁紙のモールディングや家具の配置、私は恐らくグレース皇子宮の宿舎で横になっているようだった。
「気が戻ったの?エレイン!」
私は、ひび割れた声でグレース皇子に話しかけた。
「グ…レース皇子様?私はどれだけ横になっていたんですか?」
「うん。半月の間、寝ていたよ。エレインが起きないからとても怖かった。目が覚めて本当に良かったよ」
グレース皇子は両目に涙をいっぱい浮かべながら言った。
(トントン)
その時、私の部屋にはカルロス皇太子とバルカルン医員が入ってきた。
「ああ!エレインさん。やっと気を取り戻しましたね。バルカルン医員、早く診察してくれ…」
カルロス皇太子の指示でバルカルン医員があちこち見回り、私の体の調子をチェックした。
「あのう…、すみませんが、喉がとても渇いているんです」
「うん!ちょっと待って!エレイン!!」
グレース皇子は急いで外に出てきた。
しばらくしてアンナ夫人が心配そうな顔で、お盆にコップを乗せて私の部屋に入ってきた。
彼女が私に白湯の入ったコップを渡すと、私はまるで何日飢えた人のようにごくごくと水を飲んだ。
グレース皇子は心配そうに私の背中を軽くたたきながら言った。
「エレイン、ゆっくり飲んでよ!!」
カルロス皇太子も心配そうな表情で私を眺めてから、バルカルン医員に私の状態を尋ねた。
「エレインの今の体調はどう?バルカルン医員?」
バルカルン医員が、舌打ちしながら首を横に振りながら言った。
「恐らく、当分の間まともな食事ができないと思います。口の中をよく見ると肉付きがたくさん落ちていたようだったが…。多分回復するまで少し時間がかかりそうです」
彼の言葉にカルロス皇太子とグレース皇太子がもどかしい目つきで私を見た。
バルカルン医員が診察を終えて席を立ち、カルロス皇太子とグレース皇太子を交互に見て口を開いた。
「エレインさんはこれまで疲れが溜まってきたようです。しばらくの間、まともに眠れなかったようですし。ふむ…、これから1、2ヶ月は何もしないでゆっくり休んだほうがいいです。魔手の森でかなり苦労したようですね。今の状態ではまともなものが食べられないので、私が気を配りましょう」
バルカルン医員の言葉にカルロス皇太子は苦々しい表情で頷きながら話した。
「ありがとう。バルカルン医員。エレインをよろしくな…」
はい!あまり心配しなくても良いです!それでは私はこれで…」
バルカルン医員が挨拶をし私の部屋を出ると、私は急激な疲労感が押し寄せてしばらく目を閉じた。
しかしまぶたが重すぎて、再び目を開けるのが難しかった。
「エレ…イン?」
「しーっ、出よう。グレース」
私に布団をかけてあげてから二人が外に出ると、閉じた私の目の縁から、数多の涙が「ぽたぽた」と落ちた。
目が覚めると、魔手の森で私に怒っていたハエリス公爵の冷たい目つきが思い浮かんだ。
まるで鋭い刃物でやたらに引っ掻かれたように、私の心は非常に辛くて痛かった。




