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その公爵様とメイドの事情  作者: ロマンスメーカー
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第40話 魔手の森(脱出4)

挿絵(By みてみん)


「ふむ……そろそろ出ないと」


「あ、はい」


私とハエリス公爵は互いに気まずさを隠して急いで洞窟を抜け出した。

重要な話を交わすため洞窟に入ってきたのに、雰囲気がおかしくなると2人きりで一つの空間にいるのがとても恥ずかしかった。

洞窟の外に出てみると、生き残った数十人の暗室騎士とグレース皇子が一緒に入り交じって座っていた。

私はその周辺を見まわしてから、心配そうな表情でハエリス公爵に話した。


「この森にルースセンの花が混ざった毒が撒かれているようです。ハエリス公爵閣下…」


私の話に、彼はすでに推測していたのか、黙って頷いた。

私はまじめな目つきでハエリス公爵に話しかけた。


「魔手たちは強力な興奮剤のせいでずっと興奮状態なようです。それに毒の成分を触発するフレンストが混ざっています。もしハエリス公爵閣下がグレース皇子様にペパーミントキャンディーを食べさせていなかったらグレース皇子様は…恐らく」


私の言葉にハエリス公爵はまるで石膏像のように固まった。

私はずっと彼に、魔手の森の中をさ迷いながら考えていた推測を慎重に彼に話した。


「あの…、でもちょっと変なのです。この森の全体を汚染させるほどなら、ものすごいルースセンの花と色んな毒草が使われたはずで、お金も天文学的な額になったはずです。一体誰がハエリス公爵閣下とグレース皇子様をここまでして殺そうとするのでしょうか?ハエリス公爵閣下は彼らの正体に心当たりはありますか?」


私の心配そうな目つきを読んだハエリス公爵は低いため息をつきながら口を開いた。


「はぁ。その話は後ですることにしよう。ところでエレイン…、ここまでどうやって来ることになったのか話してくれるか?」


「あ、はい」


私はハエリス公爵に、今までの間の出来事を手短に話した。

ハエリス公爵は、ベル執事と共に13回馬を変えて魔手の森に到着したという言葉を聞いて、心配そうな表情で私の身体を一度ざっと見通した。

それさえも、魔手の森全体に広げる解毒剤をベル執事が準備しているという知らせには、暗かった彼の顔がすこし明るくなった。

グレース皇子は洞窟から出た私とハエリス公爵を見て喜んで手を振り続けた。

私もグレース皇子に手を高く振って、明るい笑顔を見せた。

ふと、この魔手の森に来た目的を思い出した私は、ハエリス公爵に気になる表情で尋ねた。


「あ!ハエリス公爵閣下。ところでイトゥルゲンは捕まりましたか?」


「いや、魔手たちが暴れてまだ捕まえていないが、もうすぐ捕まえられるな。ベルが解毒の煙を出したら、その時に捕まえればいい…。私達がいる隠れ家からイトゥルゲン生息地はそれほど遠くなかったよ」


ハエリス公爵の淡々とした言葉に初めて私の声が荒くなった。


「ハエリス公爵閣下、正気ですか?」


瞬間的に怖がらずに話し出した私にもすごく驚いたけど、ハエリス公爵もとても驚いた表情で私を見つめた。

私は当惑した表情を隠し、ハエリス公爵のぐるぐる包帯の巻かれた腕を指さして言った。


「この体では駄目です。公爵閣下、もし…大変なことがあったらどうするんですか」


細く震える私の手先を見たのかな?ハエリス公爵はかすかに微笑み、私の肩を淡々と叩いた。


「おそらくそうなったとしても皇帝陛下は諦めないだろう。グレースが死んで、これ以上何か試すことができない時になってこそ、それは本当に残念だと言いながらすぐ忘れる方だ。

もし今度失敗して帰ることになったら、恐らくグレースはまともな皇子の身分では生きられないかもしれない。グレースを守るには今回で終わらせるしかない!」


私を見ながら真剣に話す彼の目つきがなんとなく物悲しそうに見えた。

「皇帝」ゲリマンは、ヴィランらしく子どもをトロフィーのように考える人物だった。

成果を得るために子の犠牲など取るに足らないと軽く思っている父親。

ハエリス公爵の父、ゲリマン皇帝は前世の「私の両親」がモチーフで、ハエリス公爵とグレース皇子に大変申し訳なくなった。

その時、グレース皇子は軽い足取りでコソコソと私とハエリス公爵のところに駆け寄った。

グレース皇子は非常に気になった顔で私に話しかけた。


「エレイン!ハエリス兄様と何の話をしているの?」


「ああ、はい。グレース皇子様。大した話ではなかったです。もうすぐ魔手の森を抜けることができるはずなので。この魔手の森全体に解毒の煙が回ればなんですけどね、だから心配しないでください!分かりましたか?」


「うん、わかった!エレイン、ヘヘッ、心配しないよ!! 知ってる?私は今エレインが一番好き!そしてこれから一生エレインと暮らそうと思ってる!エレインはどう思う?」


グレース皇子は両目をキラキラ開けて私にぴったり寄り添った。

その姿をじっと見守っていたハエリス公爵が、グレース皇子に軽くげんこつで軽く頭をを叩きながら言った。


「それはダメだ!」


「うっ!なんでですか?兄様、ひどいです!急になんで叩くんですか?エレインはどう思う?世の中で私が一番好きでしょ?私と一生一緒に暮らそうよ!うん??」


「あ!も、もちろんですよ。私もグレース皇子様が好きです!」


私の答えを聞いたグレース皇子は、大変意気揚々とした表情でハエリス公爵を見つめた。

ハエリス公爵は何か不満げな表情で私をじっと見つめていた。

なんだかスパークが空中でジリジリと煌めくみたいで、私は兄弟を交互に見ながら照れくさそうな微笑を浮かべた。


⦅一体、何が問題なんですか?え?⦆


「ウウウー」


「ガオー」


時と場所をわきまえない魔手の悲鳴のような泣き声が、何日も魔手の森全体に響いている。

日に日に魔手の状態はもっと悪くなっているようだった。

魔手の森全体を解毒の煙でいっぱいに満たすには、ものすごい薬草が必要だった。

解毒薬草がいつ頃準備ができるか分からないので、余計にハラハラする気持ちがした。

私たちは森のどこかからか白い煙が立ち上るのをずっと待たなければならなかった。


「主君。腹ごしらえするものを持ってまいりました」


「ありがたい」


暗室騎士の1人が私とハエリス公爵、グレース皇子が滞在する洞窟に魔手の森で採った野生のジャガイモを焼いてきた。

私は何日間も過ごす場所がなくて、何となくグレース皇子とハエリス公爵と一緒に洞窟で暮らしていた。

最初はとてもぎこちなくて眠れなかったけど、数日間過ごしてみるとぎこちなさがちょっと消えたようだった。

ハエリス公爵は葉っぱの盆の上にある適当に煮たジャガイモを私とグレース皇子に先に渡した。


「ありがとうございます、公爵閣下」


私はジャガイモを半分に割ってふうふうと良く冷ましてグレースの皇子の口に入れた。

味にうるさいグレース皇子は、「魔手の森」で偏食していた癖が直ったのか、すごく美味しそうに食べた。

ハエリス公爵はじっと私を見つめ、私に自分のジャガイモ一個を手渡した。

私は彼に微笑みながら首を振った。

実は、このジャガイモで腹ごしらえをするには、丈夫な男性の食事ではとても足りない量だった。


「私は大丈夫です…。まだ何個か残っていますもの」


「私はこういうのあまり好きじゃないから」


ハエリス公爵は無理矢理私の手にジャガイモを一個握らせ、立ち上がって洞窟の外に出た。

おそらく魔手の森から煙がたちこめた時、イトゥルゲン狩りに行くことについての打ち合わせに出かけたのだろう。


「あれ?ハエリス兄様、このジャガイモ物凄くよく食べてたよ?」


グレース皇子はジャガイモの薄皮をむいて口の中にもぐもぐと入れながら言った。

私は何も言わずに、ハエリス公爵からもらったジャガイモを私の手に入れてあちこち転がした。

ジャガイモにはまだ熱気が残っていて、冷たい私の手のひらがすぐに暖かくなった。


✯¸.•´*¨`*•✿ ✿•*`¨*`•.¸✯


「解毒の煙だ!ついに!!咲き誇った!!」


「わぁぁぁぁ!!」


騎士たちが早朝から感激した声で外でざわめいた。

私とハエリス公爵は静かに眠っているグレース皇子を慎重に避けて急ぎ足で洞窟の外に出た。

青い夜明けに光った魔手の森には、まるで濃い霧のように解毒剤の煙が立ち込めていた。

私はとてもうれしそうにハエリス公爵を見つめた。

ハエリス公爵も私を見て、明るく気分のいい笑顔を見せた。

どのくらい時間が経ったのだろうか?森に満たされた解毒煙により、魔手たちの奇声は次第に消えていった。

我々は身を固め、イトゥルゲンが良く出没する生息地に素早く移った。


「エレイン、僕凄く怖いよ…」


怯えたグレース皇子が私のそばにぴったりと寄り添って、歩きながら言った。

私は彼の背中を軽くたたいて彼を安心させようと努力した。


「大丈夫だと思いますよ。心配しないでください。グレース皇子様」


実は私も大変怖かったけど、努めて淡々とグレース皇子の肩をかばった。


「エレイン……グレースをよろしく」


ハエリス公爵はイトゥルゲン生息地の前で、私とグレース皇子を見つめながら言った。

私は不安な気持ちを頑張って隠し、ハエリス公爵に微笑みながら口を開いた。


「はい。心配しないでください。無事に帰って来てください。ハエリス公爵閣下」


「そうだな…。無事に行って来よう」


私を見る彼の両目が魅惑的に、半月のように曲がっているようだった。

ハエリス公爵は恐怖のない目で暗室騎士団の前に立ち、彼らを導いた。

そして彼と騎士たちは立ちこめていた解毒煙をかきわけながらイトゥルゲン生息地に入った。

万が一の事態に備えて、ハエリス公爵は暗室騎士3人を私たちのところにつけてくれた。

グレース皇子が恐ろしさに怯えた表情で、だんだん遠ざかっていく自分の兄の後ろ姿を眺めた。

その中でも安全な場所にいたけど、私もハエリス公爵が心配で全身が冷や汗でジトジトしていた。


「ウウウー」


「ガリガリ!」


しばらくして、イトゥルゲン生息地で鳥肌の立つ魔手の鳴き声が森の中いっぱいにこだました。


「怖いよ!シクシク...僕、早くここを抜け出したい」


「大丈夫ですよ。きっと上手く行きます。心配しないで下さいね」


30分以内にイトゥルゲンの角の血を飲まなければならなかったので、私たちはここを離れることができずに席を守っていた。

イトゥルゲンは魔手のうち、ドラゴンに近い上位モンスターであるため、ハエリス公爵と暗室騎士団がかなり苦戦しているようだった。

もう数時間が経ったにもかかわらず、まだ戦いが終わらないのか、鋭いイトゥルゲン魔手の叫び声が鼓膜を揺さぶった。


(ドカーン)


(ブスッ、ブスッ!)


「ガオー!!」


イトゥルゲンの住む魔手の森の数多くの木が、土ぼこりを舞い上げて左右にバタンと倒れた。

しばらくの時間が流れ、とうとうぼやけた解毒煙の向こうにハエリス公爵と騎士たちが見えた。


「わあ!!!エレイン!!ハエリス兄様だよ!!!みんな無事みたい!!!」


「はい!!私にも見えます。本当に良かったです!」


グレース皇子は明るい表情で、ハエリス公爵と暗室騎士団に手を振って喜んだ。

私もハエリス公爵と騎士が無事に見えたのでとても嬉しかった。

ハエリス公爵は魔手の角から採取した血をグレース皇子に慎重に渡した。


「さあ、グレース…」


「うう…、本当に飲みたくないですけど。ハエリス兄様」


グレース皇子は泣きべそをかいてハエリス公爵に頭を振った。

ハエリス公爵は厳しい表情で弟のグレース皇子をじっと見つめた。

兄が怖くて仕方なかったグレース皇子は、両目をぎゅっと閉じて、イトゥルゲンの角の血をごくごくと飲んだ。

全てが上手くいったので、固くなっていた私の全身の筋肉がスーッと溶けたようだった。

幸い無事に帰ってきたものの、ハエリス公爵と騎士の体中にはかなりの大きな傷と小さい傷が沢山ついていた。

私はローブの中のポケットを探ってたくさんの薬草を取り出した。

数日間の合間に採集して乾かしておいた止血剤と消毒草で騎士たちを消毒し、抗生剤の薬草を傷口にまんべんなく吹きかけた。

ある程度治療が終わりかけた頃、ある騎士が足をつかんで地面に倒れた。


「うわっ!」


「どうしました?」


私はびっくりして地面に倒れた騎士のところに駆け寄った。


「うう…」


急いで騎士の脚部にある甲冑を取ったところ、ひざの傷からうみができてベトベトに腫れていた。


「ふぅ…」


暗室の騎士は、これまでしっかり訓練を受けたのかあまり悲鳴はあげなかったけど、大変辛そうに見えた。


「少々お待ちください。ちょっと痛いと思います。もう少し我慢していただければ、私が直してあげます」


私はローブの内ポケットから消毒液を取り出した。

そして消毒草でその騎士の膝をやさしく拭いた。

傷口を少し押さえただけなのに、開いたすきまから黄色い膿がちょろちょろと漏れてきた。

どうやら私が直接口で騎士の膿を抜かなければならないようだった。

床に倒れた騎士の膝に口を当てた瞬間、私の唇がとある男の手の甲に合わせた。


(チュッ)


私はびっくりした表情で顔を上げて手の甲の主人の男を眺めた。

その男はハエリス公爵だった。

ハエリス公爵はひどく腹立たしそうに私を見つめながら言った。


「エレイン。その口が先に出て行く習慣は直して欲しいな」


私は彼の怒った様子が不明瞭で、怪訝そうに彼を見つけた。

ハエリス公爵は首を回して他の騎士に目で命令すると、意味を理解した1人の騎士が私の代わりに膿を吸い、床に捨てた。


「ぺっ」


私は渋い表情で消毒草をくちゃくちゃと噛み、騎士の膝を消毒して抗生剤の粉を振りかけて治療を終えた。

魔手の森の外に出て行く間、ハエリス公爵は冷ややかな表情で私から遠くへ離れて歩いた。

私は何回考えてみても一体何を誤ったのかよく分からなかった。

怒りっぽいハエリス公爵の後ろ姿をじっと見つめながら、私は群れの後をついて歩いた。

いつの間にかグレース皇子が私のそばに近づき、私の手をぎゅっと握った。

しばらく歩いていると、いつの間にか魔手の森の入口に近づいたようだった。


「エレイン!本当にもうすぐ到着するの?」


「はい!そのようです」


私たちはついに「北の魔手の森」の外に無事に出ることができた。

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